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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)30号 決定 1976年3月26日

抗告人

吉野松雄

抗告人

富士化学工業有限会社

右代表者

吉野松雄

抗告人

富士産業有限会社

右代表者

吉野松雄

抗告人

吉野よし子

抗告人

吉野大治

右抗告人五名代理人

野村幸由

主文

本件抗告はいずれも棄却する。

理由

(一)  抗告人らの抗告の趣旨および理由は別紙(一)および(二)のとおりである。

(二)  当裁判所の判断は次のとおりである。

競売法における競売手続は、訴訟事件と異なり、手続上相対立する主体としての当事者を前提とするものではないから、競落許可決定においても競売申立人(債権者)、債務者(所有者)および競落人らは、相互に対立する当事者としての地位を有するものではなく、利害関係人として手続に関与する機会を与えられているにすぎないのである。従つて競落許可決定に対する再審事件においても、再審申立権を有する者からなされている以上、相手方の表示の有無は何ら申立の適否には関係がなく、また相手方毎に各別に再審申立がなされているものと解すべきではないから、申立人が相手方として表示した者につき、各別に当事者として手続上の主体となる資格の有無を論じ、その資格を欠く者に対する再審申立が別個にあると解してこれを、当事者適格を欠く者に対する申立として却下すべきものではない。されば原決定が相手方株式会社駿河銀行に対し別個の再審申立があると解してこれを当事者適格を欠く者に対する不適法な申立であるとして却下した点は違法であるが、後述のとおり本件再審申立は却下すべきものであるから、右違法は原決定を取消すべき事由とはならない。従つて、右違法を理由とする抗告人らの主張は採用し難い。

次に本件記録によれば、相手方株式会社駿河銀行を債権者、抗告人富士化学工業有限会社(旧商号富士化学工業株式会社)を債務者、同会社および抗告人吉野松雄らを所有者とする静岡地方裁判所吉原支部(現在富士支部)昭和三二年(ケ)第六四号不動産競売事件の昭和三五年三月三一日の競売期日において、相手方丸王製紙株式会社(旧商号丸王工業株式会社、以下相手方会社という。)が、原決定添付目録(一)ないし(六)記載の物件(以下本件物件という。)につき合計金一、九五〇万円の競買の申出をしたところ、競売裁判所は昭和四〇年四月二二日相手方会社に対する競落許可決定の言渡をし、右決定が確定したため、相手方会社は右競買代金を支払つたこと、相手方会社は昭和三五年三月一四日設立登記を完了した資本金一〇〇万円の株式会社であるが、同会社は本件物件を営業のため継続して使用すべく、上記のとおり本件物件につき競買の申出をしたこと、およそ以上の事実を認めることができる。

従つて相手方会社が本件物件を競落して取得することは商法第二四六条に規定する事後設立に該当し、相手方会社代表者が本件物件に対する競買の申出をするためには同条に規定する株主総会の特別決議による承認を要し、右承認の決議は民事訴訟法第五八条によつて準用される同法第五四条に規定する「訴訟行為をなすに必要な授権」に該当するから、これを欠く場合は相手方会社代表者のなした本件物件に対する競買の申出は、訴訟行為をなすに必要な授権の欠缺があることとなり(なお、本件記録によれば、競売裁判所が本件物件につき相手方会社に対する競落許可決定を言渡した当時、相手方会社の株主総会は、特別決議をもつて本件物件の競買を承認したが、右事実を証する資料が散逸したため、その後昭和五〇年一〇月二五日再度承認の特別決議をしたことが認められる。)、右瑕疵は、民事訴訟法第四二九条によつて準用される同法第四二〇条第一項第三号に規定する「訴訟行為をなすに必要なる授権の欠缺ありたるとき」に該当するということができる。

ところで本件再審申立の理由とするところは、相手方会社が本件競売手続において本件物件を競買して取得することは商法第二四六条に規定する事後設立に該当するから、相手方会社株主総会における承認の特別決議が必要であるにもかかわらず右決議がなされていないため、仮に右決議がなされたとしても無効であるため、相手方会社代表者が昭和三五年三月三一日の本件物件の競売期日においてなした競買の申出は代表権に欠缺があるにもかかわらず、これを看過してなされた本件競落許可決定には、民事訴訟法第四二〇条第一項第三号にいう法定代理権、訴訟代理権に欠缺があるものとして再審の事由がある、というのであるが、当裁判所は、前述のとおり商法第二四六条の規定は、株式会社の代表取締役が同条所定の財産取得契約をその業務執行として締結しても、右契約は株主総会の特別決議による承認がある場合に限り有効となるとして、株式会社の代表取締役の代表権に対する実体法上の制限を定めたものであるから、右承認の特別決議は、代表取締役が商法第二四六条所定の財産取得契約を締結するために必要な授権に該当するものであると解するものであつて、右決議の不存在をもつて代表取締役の代表権の欠缺に該当するとの抗告人らの主張は採用することはできない。従つて仮に抗告人らの主張するとおり相手方会社が本件物件を競売手続において取得することにつき、同会社の株主総会の特別決議による承認がなかつたとしても、これを事由とする競落許可決定に対する再審申立は民事訴訟法第四二九条によつて準用される同法第四二四条第三項の規定によつて右決定確定後五年を経過する以前に申立てるべきものであるところ、本件再審申立は本件競落許可決定確定後五年を経過した後である昭和五〇年七月二一日になされていることが本件記録上明らかであるから不適法である。

されば本件再審申立を却下した原決定は、その理由は不当であるが、以上説明した理由によつて結局において正当に帰するから、民事訴訟法第四一四条および第三八四条二項の規定により本件抗告はこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(輪湖公寛 安達昌彦 後藤文彦)

抗告の趣旨および理由《省略》

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