東京高等裁判所 昭和51年(ラ)530号 決定 1977年2月17日
四六四号事件抗告人
五三〇号事件相手方
片庭チヨ
外六名
代理人
鎌田寛
四六四号事件相手方
五三〇事件抗告人
片庭久内
代理人
大室征男
主文
原審判を取消す。
本件を宇都宮家庭裁判所に差戻す。
理由
第四六四号事件抗告の趣旨は、「原審判を取消し、更に相当の裁判を求める。」というにあり、その理由は別紙一記載のとおりであり、第五三〇号事件抗告の趣旨は、主文同旨の裁判を求めるというにあり、その理由は別紙二記載のとおりである。
一第四六四号事件抗告理由一(1)、第五三〇号事件抗告理由一(1)について
共同相続人のうち相続財産の維持または増加につき顕著な寄与貢献をした者があり、その程度が、配偶者については民法第七五二条に基づく通常の協力扶助の程度を超え、直系卑属については民法第七三〇条に基づく通常の相互扶助の程度を超える場合には、公平の見地に立つて、民法上の共有持分あるいは不当利得返還請求権等の規定を類推適用したうえ、これを民法第九〇六条所定の一切の事情として考慮し、当該相続人は、法定相続分とは別に右寄与の程度に応じ、相続財産中に潜在的な持分を取得するものとして、遺産分割に際し、申立によりその清算をすることができると解するのが相当である。そして、右清算にあたつては、相続財産の維持増加に貢献した当該相続人の寄与分を評価算定し、これを相続財産の価額から控除した残額につき法定相続分に従つて算出された価額に右寄与分を加えた価額が当該相続人の取得分になると解すべきである。
本件についてこれをみるに、原審記録によると、第四六四号事件抗告人片庭チヨ(以下抗告人チヨという)は、大正一三年九月三〇日被相続人片庭博と婚姻し、以来同人とともに約三五年間農業に従事してきたが、昭和三五年二月二六日右博が死亡した頃からは神経痛などで健康が勝れないため農業に従事していないことが認められ、婚姻後の大正一五年から昭和一三年にかけて右博名義で原審判添付第一目録記載番号14、15、39、40、41、68、69、72の八筆の土地を取得していることが窺われ、また第五三〇号事件抗告人片庭久内(以下抗告人久内という)は、右博の長男であり、昭和二四年三月旧制青年師範学校卒業後、新制中学の教師となつたが、一年でやめて家業に戻り、右博とともに約一〇年間農業に従事し、右博死亡後も相続財産である原審判添付第一、第二目録記載の土地建物全部を占有して農業を継続してきたことが認められ、右博とともに農業に従事している間に右博名義で取得した不動産は特に見当らないが、少くとも本件相続財産たる前記不動産を維持してきたことが窺われる。
従つて、他に特段の事情のない限り、抗告人チヨ、同久内は、相続財産の維持増加につき顕著な寄与貢献があつたと考えられるのである。そして、原審も、抗告人チヨが被相続人博とともに約三五年間、抗告人久内が右博とともに約一〇年間それぞれ農業に従事した事実を認めているのであるから、原審としては、更に抗告人チヨ、同久内がいかなる立場でどの程度農業経営に関与したか、同人らの寄与貢献による被相続人博の財産の維持増加の程度、これに対し同人らが被相続人博から報酬あるいは贈与を受けていたか否か、同人らの行為により減少させた被相続人の財産の有無などの点を審理し、もつて同人らが被相続人の遺産中に取得すべき寄与分の有無及びその価額を確定すべきである。しかるに、原審が右寄与分の点につき審理せず、抗告人チヨ、同久内の各取得分を単に法定相続分のみであると認めて遺産分割をしたのは、審理不尽の違法があるといわなければならない。
二第五三〇号事件抗告理由二(2)について
当審において抗告人久内から提出された上河内村森林組合長作成の証明書によると、抗告人久内は、本件相続開始後の昭和三五年から昭和四九年までの間に原審判添付第一目録記載番号28、34、35、44、46、50、51、53、55ないし58、60、63、64、67、70、71、77の山林一九筆の土地上に少くとも杉、檜合計二三、六三〇本を植栽していることが認められる。従つて、特別の事情がない限り、右立木は抗告人久内の所有に属するものというべきであり、右立木は相続財産から除外するのが相当である。しかるに、原審は、特別の事情の存否についてなんら審理することなく、これを相続財産に含めて遺産分割の対象としているのであるから、遺産の範囲について審理不尽の違法があるものといわざるをえない。
よつて、第四六四号事件抗告及び第五三〇号事件抗告はいずれも理由があるから、その余の抗告理由につき判断するまでもなく、原審判を不当として取消し、更に審理を尽くさせるため家事審判規則第一九条第一項に従い原裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。
(枡田文郎 福間佐昭 山田忠治)
別紙一、二<省略>