東京高等裁判所 昭和51年(ラ)777号 決定 1976年10月29日
抗告人
加藤敬
相手方
宮川文治
主文
本件各抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件各抗告の趣旨及びその理由は、別紙に記載したとおりである。
(当裁判所の判断)
一抗告人の各原決定に対する不服の理由とするところは、要するに、本件収去命令の対象となつた建物が抗告人の所有でなく、件外鈴木鶴雄の所有である、というのであるが、民事訴訟法七三三条に基づく建物収去命令は、すでになされた裁判の執行の方法としてなすものにほかならないから、このような決定に対する抗告もその執行の方法たる手続についての瑕疵を理由としてなすべきところ、抗告人の不服の理由とするところは所有権の存否という実体上の理由を主張するものであるから、執行方法の異議の理由とすることはできず、したがつて適法な抗告の理由とはならないし、また抗告の主張するところは本件収去命令の執行により件外鈴木鶴雄の権利が害せられ、これが執行を抗告人が受けることとなれば右鈴木からどのような難題をもち込まれるかも知れず損害を蒙るおそれがあるというけれども、そのような鈴木の権利保全は右件外鈴木鶴雄からの第三者異議の訴えによるべきであつて、抗告人において執行方法の違法を理由として異議を申し立てるべき要をみず抗告の利益を欠く。なお、本件収去命令が抗告人に対してなされたのは本件債務名義で本件建物の収去を命ぜられた件外鈴木鶴夫の承継人としてであるが、抗告人は本件建物の所有権を譲渡担保として一旦は承継したが被担保債権の弁済によつて右所有権は右鈴木に返還されたから本件建物は抗告人の所有でないと主張するがその主張するところの不服は右承継執行文の付与に対する異議の手続によるべく、本件収去命令に対する抗告の理由として承継執行文の付与の適否を主張することは許されない。したがつて、抗告人の主張はいずれの点よりするも理由がない。
二そのほか一件記録を調べてみても各原決定にはこれを取り消すに足る違法の点はみあたらない。なお、本件債務名義たる東京地方裁判所昭和四一年(ワ)第二六五六号第三四一五号昭和四二年(ワ)第二九一三号事件判決(昭和四八年四月二三日言渡)主文第四項には鈴木鶴雄は相手方に対し本件建物(東京都目黒区中目黒(改名表示同区中央町二丁目)一三〇三番地所在トタン葺平家建建物一棟〔同判決添付図面(い)(ろ)(は)(に)(い)を順次直線で結んだ部分〕)を収去してその敷地である東京都目黒区中央町二丁目一三〇四番の一宅地247.07平方メートル(74.74坪)の一部43.83平方メートル(同建物の床面積)の明渡しを命じていて、収去すべき建物の所在地番と明け渡すべき土地の地番との間に相違が認められるけれども、右判決が右宅地を本件建物の敷地としその地上に本件建物が存在するものとしている以上執行命令としての収去命令としては右判決がこのように認定していることがたとえ誤り――本件建物は右宅地上に存在しないとか、右宅地上にある建物は本件建物とは別個の建物であるとかの誤り――があつたとしてもそのことにはかかわりなく収去すべき建物として右債務名義に表示したところにしたがつてその所在地番を表示した各原決定には取り消すべき違法はない。
三したがつて、各原決定は相当であつて、本件各抗告は理由がない。
よつて、本件各抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のように決定する。
(菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)
別紙<省略>