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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)898号 決定 1977年2月07日

抗告人

石和智治

右代理人

堀口嘉平太

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙に記載のとおりである。

当裁判所の判断は、次のとおりである。

一一件記録に徴するに、本件競売の経過は、左記のとおりであると認められる。

(1)  静岡地方裁判所沼津支部昭和四九年(ケ)第三二号任意競売事件(債権者株式会社静岡相互銀行、債務者抗告人、物件所有者雪印商事株式会社)において、昭和四九年五月一〇日同裁判所は、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について、不動産競売手続開始決定をなした。

右任意競売における請求債権は、債権者が債務者に対して昭和四七年一二月一四日貸し付けた貸金一、五〇〇万円の元本残額四〇七万一、一一二円とこれに対する昭和四八年一月一三日から完済に至る迄の年一八、二五パーセントの遅延損害金である。

債権者は、右任意競売申立にあたり、昭和四九年五月一〇日付で本件不動産の一括競売を申立てている。

(2)  競売裁判所は、本件不動産の評価を不動産鑑定士望月照之に命じたところ、同鑑定士は、昭和四九年八月一日付で本件の宅地及び地上建物が同一の所有者に帰属しており、債務者が賃貸借契約なしに使用収益(使用貸借)していることを前提として、本件不動産中の土地(以下「(一)物件」という。)の価額を二、〇二四万八五八円、使用貸借による減価五パーセント、評価額一、九二二万八、〇〇〇円、本件不動産中の家屋番号四二一番の二の建物(以下「(二)物件」という。)の価額を五五万二、〇〇〇円使用貸借による減価一〇パーセント、評価額四九万六、八〇〇円、本件不動産中の家屋番号二七七番二の一の建物及び付属建物1、2(以下「(三)物件」という。)の価額を五五八万六、〇〇〇円、使用貸借による減価一〇パーセント、評価額五〇二万七、四〇〇万円、総額二、四七五万二、二〇〇円と評価した。

(3)  競売裁判所は、昭和四九年九月七日(二)(三)物件について競売を実施することとし、競売期日を同月二五日午前一〇時競落期日を同年一〇月二日午前一〇時、(二)物件の最低競売価額を金四九万六、八〇〇円、(三)物件の最低競売価額を金五〇二万七、四〇〇円と定め、公告した。

しかし、競売裁判所は、同年九月一九日右競売期日及び競落期日の指定を職権で取り消し、同月二一日付で改めて本件物件の所有者雪印商事株式会社に「本件物件中(二)(三)の物件(家屋)だけを競売することによつて債権者の債権額を充当するに十分であるか、ついては本件物件中競売物件の指定をされたい」旨の照会をしたところ、同会社は同年一〇月二日付で本件物件を全部競売されたい旨を回答した。

(4)  競売裁判所は、同年一〇月七日右債権者及び物件所有者の申立を考慮して本件物件を一括競売に付することとし、競売期日を同月三〇日午前一〇時、最低競売価額を(一)物件につき金一、九二二万八〇〇〇円、(二)物件につき金四九万六、〇〇〇円、(三)物件につき金五〇二万七、四〇〇円と定め、競売を実施したが、右期日に競買申出はなかつた。

その後昭和五一年六月一六日までの間、最低競売価額を低減して一括競売の方法による競売が八回にわたつて実施されたが、うち七回の期日にいずれも競買申出がなかつた(昭和五〇年一〇月一五日の期日に平野秀雄により一、六〇〇万二〇〇〇円で競落され競落許可決定がなされたが、代金の支払がなく再競売に付された)。

(5)  その後最低競売価額を(一)物件につき金七〇四万円、(二)物件につき金二一万円、(三)物件につき金二一五万円と定め前同様一括競売の方法でなされた昭和五一年一〇月二〇日の競売期日に、駿豆開発株式会社が本件物件を一括して金一、四九九万一、〇〇〇円の最高価((一)物件は金一、二六三万一、〇〇〇円、(二)物件は金二一万円、(三)物件は金二一五万円)で競買申出をなし、競売裁判所は同年一〇月二七日右競買人に対し競落許可決定をした。

二抗告人は、本件物件の一括競売は、本件(二)(三)の物件の競売で被担保債権及び競売費用を償うのに十分であるのに行なわれたもので、競落価額を不当に下落させたばかりか、過剰競売であると主張する。

民事訴訟法六七五条一項の過剰競売を禁止する規定を、任意競売に準用する規定はないが(競売法三二条二項)、右禁止規定は任意競売にも準用されるべきものと解されるところ前記一の(1)(3)記載のとおり、本件において、申立債権者、物件所有者いずれも一括競売を求める申出をしており、競売裁判所はこれを考慮し一括競売を相当と認めて本件手続を進めたものと認められる。

ところで、本件のように、宅地とその地上建物が共に抵当権の対象(競売物件)となつている場合には、宅地とその地上建物は有機的経済的に結合して一体となつており、所論のようにその地上建物を宅地と分離して個別に競売すると、残つた土地は法定地上権の負担は受けるためその価値が著しく減少し、買手もつかなくなることが考えられ、これによつて損失を蒙るのは物件所有者であるので、物件所有者が一括競売を希望する場合には、一括競売によつて価額の低下を招きこれがため債権者の利益を害するなど特段の事情のある場合を除き、物件所有者の意向を尊重して一括競売に付すべきであり、この場合には過剰競売による違法の問題は生じないと解するのが相当である。

次に抗告人は、一括競売が過剰競売となる場合には、利害関係人として債務者の意見も聞くべきであると主張し、これに関連して一括競売により競落価額が不当に低下したというのであるが、前判示の事実によれば、本件において一括競売としたために競落価額が不当に低下せしめられたと認め難いのみならず本件競売において抗告人の債務は完済されるべきことが明白であるから、いずれにせよ抗告人の利益を害するものでなく、その意見を聞かなければならないものではない。

なお、抗告人は、本件物件は詐取されたもので本件物件の真の所有者は登記簿上の所有名義人ではなく抗告人であると主張しているものとも解されるが、登記簿の記載に反して本件物件の所有者が抗告人であることを認めるに足りる資料はなく、原審が登記簿上の所有名義人を本件物件の所有者と取り扱つて本件競売手続を進めたことに、何ら違法はないといえる。

右抗告人の主張も、失当である。

三以上のとおり、抗告人の主張はいずれも理由がなく、記録を精査しても他に原決定を違法とすべき理由は見あたらない。

よつて、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(安岡満彦 山田二郎 堂園守正)

別紙<省略>

物件目録<省略>

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