東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)103号 判決
一 成立に争いのない甲第二号証(本願公告公報)によれば、本願発明の技術思想としての特徴は、環アルキル化ジフエニル―パラ―フエニレンジアミンを混合物として使用し、しかもその原料として、特定の化合物を組合せて混合し、かつその混合割合を特定の範囲に限定することにより、従来のゴムの安定剤として使用された抗酸化剤に比べ、はるかに低融点で高溶解度の抗酸化剤を得る点にあるものと認められる。
ところで成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、本願発明の抗酸化剤の成分である環アルキル化ジフエニル―パラ―フエニレンジアミンの上位概念であるジアリール―パラ―フエニレンジアミンの混合物であるWing-Stay一〇〇は、従来、ゴムの抗酸化剤として使用されていたジフエニル―パラ―フエニレンジアミンより融点が低く(九三―一〇三℃)、かつ、ゴムに対する溶解度も三倍である優れた抗酸化剤である旨の紹介記事が記載されていることが認められる。しかし、この記事からだけでは、右Wing-Stay一〇〇がどのような原料をどれくらいの割合でどのように組合せて得られた化合物の混合物であるかについては、一切明らかにされていない。
これに対して本願発明の特徴は、前記のとおりであり、第二引用例に記載されている技術内容より、はるかに限定された具体的内容を持つたものである。そして、その効果も、融点において第二引用例のものより低い八〇℃以下であり、しかも、本願公告公報の表1、表2によれば、同じくジアリール―パラ―フエニレンジアミン中の化合物を混合したものであつても、正ペンタンへの溶解度が本願発明の組成内のものは、組成外のものに対し、約二・五倍以上の顕著な差を有することが認められる。
また、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、一般構造式R1―NH―R2―NH―R3を有する核炭化水素置換ジアリール―パラ―フエニレンジアミンの一組の化合物の一員で処理するゴムの抗酸化剤が記載されており、本願発明の抗酸化剤の混合物としての成分の中には、右一般式に包含される化合物があることが認められる。しかしながら、たとえ第一引用例に記載されたジキシリル―パラ―フエニレンジアミンに異性体混合物が存在するにしても、第一引用例においては、「化合物の一員で処理する」と記載されているところから明らかなように、その技術上の特徴が本願発明のように、積極的に化合物を混合物として使用するところにあるものでないことは明らかである。
被告は、本願発明の混合物としての具体的組合せの選定自体は、第二引用例の化合物の混合使用という示唆に従つて、第一引用例の抗酸化剤から試行錯誤の手法によつて格別の創作力なしになしうると主張する。しかし、本願発明は、単に、化合物を混合物として使用するだけでなく、その原料として特定の化合物を組合せて混合し、かつ、その混合割合を特定の範囲に限定することと、融点あるいはゴムへの溶解度との関係を見出し、第二引用例に記載されたものより更に低融点かつ高溶解度になるような原料組成の範囲を見出したものであつて、このような点は、前記のとおり各引用例に何らの示唆はないから、本願発明は、単なる試行錯誤の程度を超えた発明力を必要とするものであり、それによつて奏する効果も前述のように顕著である。
被告は、出願当初の本願明細書に、第一引用例に記載されている混合ジキシリル―パラ―フエニレンジアミンが記載されており、これは、その性質および効果が他の本願発明で使用する混合物と同等であることを根拠に、本願発明の効果が格別顕著なものではないと主張する。しかし、出願当初の本願明細書に記載されていた混合ジキシリル―パラ―フエニレンジアミンの性質および効果が他の本願発明で使用する混合物と同等であると認めるに足りる証拠はなく、また、第一引用例に記載されているジキシリル―パラ―フエニレンジアミンが異性体混合物を含むか否か、仮にそれを含むものとしても、出願当初の本願明細書に記載されていたものと、その組成および性質効果において同等のものかどうかの点については、本件に表われた全資料によつても明らかではないから、被告の右主張は到底採用できない。
以上検討したところによれば、本願発明を各引用例の記載にもとづいて容易に推考しうるとした審決の判断は誤りであり、違法であるから取消を免れない。
二 よつて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
(1) (a)ハイドロキノンと(b)ハイドロキノンのモル当りに対し、混合トルイジン類一・〇乃至一・二五モル及び混合キシリジン類一・〇乃至一・二五モル;或は二・四―ジメチルアニリン一・〇乃至一・二五モル及びオルソ―トルイジン一・〇乃至一・二五モル;或は混合―トルイジン一・〇乃至一・二五モル、混合キシリジン類〇・七乃至一・〇モル及び〇・一乃至〇・五モルのアニリン;或は混合―キシリジン類一・〇乃至一・二五モル及びオルソ―エチルアニリン一・〇乃至一・二五モル;或はオルソーエチルアニリン一・〇乃至一・二五モル及びアニリン一・〇乃至一・二五モル;或はオルソートルイジン一・〇乃至一・二五モル及びオルソーエチルアニリン一・〇乃至一・二五モル;或はドデシルアニリン類二・〇乃至二・五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル及びアミルア類一・〇乃至一・二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル及びドデシルアニリン類一・〇乃至一・二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル、アニリン〇・五乃至〇・六二五モル及び混合―キシリジン類〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合―トルイジン一・〇乃至一・二五モル、アミルアニリン類〇・五乃至〇・六二五モル及び二・六―ジエチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル及びオルソ―エチルアニリン一・〇乃至一・二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル、二・六―ジエチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル及びオルソ―エチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル、アミルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル及びオルソ―エチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合―キシリジン類一・〇乃至一・二五モル及びアニリン一・〇乃至一・二五モル;或はアニリン一・〇乃至一・二五モル、二・六―ジエチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル及びオルソ―エチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合クミジン類一・〇乃至一・二五モル及び混合トルイジン類一・〇乃至一・二五モル;或は混合クミジン類二・〇乃至二・五モルの群から選ばれた一つのアミン混合物とを縮合触媒の存在下に反応させてつくられた而も融点が八〇℃より低い環アルキル化ジフエニル―パラ―フエニレンジアミンの混合物を抗酸化剤として、ジエンゴムに抗酸化剤として作用する量で含有せしめて成ることを特徴とする被酸化性ジエンゴム
(2) (a)パラ―アミンフエノールと(b)パラアミンフエノールの<省略>モル当りに対し、混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル及び混合―キシリジン類一・〇乃至一・二五モル;或は二・四―ジメチルアニリン一・〇乃至一・二五モル及びオルソ―トルイジン一・〇乃至一・二五モル;或は混合トルイジン一・〇乃至一・二五モル、混合―キシリジン類〇・七乃至一・〇モル及び〇・一乃至〇・五モルのアニリン;或は混合―キシリジン類一・〇乃至一・二五モル及びオルソ―エチルアニリン一・〇乃至一・二五モル;或はオルソ―エチルアニリン一・〇乃至一・二五モル及びアニリン一・〇乃至一・二五モル;或はオルソ―トルイジン一・〇乃至一・二五モル及びオルソ―エチルアニリン一・〇乃至一・二五モル;或はドデシルアニリン類二・〇乃至二・五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル及びアミルアニリン類一・〇乃至一・二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル及びドデシルアニリン類一・〇乃至一・二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル、アニリン〇・五乃至〇・六二五モル及び混合―キシリジン類〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル、アミルアニリン類〇・五乃至〇・六二五モル及び二・六―ジエチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル及びオルソ―エチルアニリン一・〇乃至一・二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル、二・六―ジエチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル及びオルソ―エチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル、アミルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル及びオルソ―エチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合―キシリジン類一・〇乃至一・二五モル及びアニリン一・〇乃至一・二五モル;或はアニリン一・〇乃至一・二五モル、二・六―ジエチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル及びオルソ―エチルアニリン〇・五乃至〇・六二五モル;或は混合クミジン類一・〇乃至一・二五モル及び混合―トルイジン類一・〇乃至一・二五モル;或は混合クミジン類二・〇乃至二・五モルの群から選ばれた一つのアミン混合物とを縮合触媒の存在下に反応させてつくられた而も融点が八〇℃より低い環アルキル化ジフエニル―パラ―フエニレンジアミンの混合物を抗酸化剤として、ジエンゴムに抗酸化剤として作用する量で含有せしめて成ることを特徴とする被酸化性ジエンゴム