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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)109号 判決

事実及び理由

一  請求の原因1ないし4の事実については、当事者間に争いがない。

二1  そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討するに、原告は、補正の却下の決定が違法である旨主張し、右補正の却下の決定を前提として補正前の考案をもつて本件考案の要旨と認定したことを審決の違法事由として主張するので、右補正の却下の決定の判断についてまず審究することにする。

なお、右補正にかかる本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が前記請求の原因2(二)記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第二号証の二(本件考案の明細書)及び甲第八号証(昭和五〇年六月五日付手続補正書)によれば、補正後の考案は、リリーズボタンをほぼ平らなあるいはわずかに湾曲した(以下、単に平板状と表現する。)ダイヤフラムで構成し、これと調整可能なレバー操作部材とを組み合わせることによつて、リリーズボタンの操作量(行程)を最少にしてカメラのシヤツターぶれを防止しようとする狙いのものであることが認められ、一方、引用例には、リリーズボタンが断面波形ダイヤフラムで構成され、このダイヤフラムがシヤツタ円板を係止する三角形状のバネ板を押圧し、該シヤツタ円板を解放して露出を行うカメラ(別紙図面(〔編註〕省略)(二)参照。)が記載されていることは、当事者間に争いがない。

(一)  ところで、補正の却下の決定が、補正後の考案のダイヤフラムと引用例のそれとの形状の相違に関して、「ダイヤフラムの形状は、平板状のものも断面波形のものも、いずれも周知であつて、いずれの形状のダイヤフラムを使用するかは、リリーズボタンの操作量、操作力などを考慮して適宜選定できる設計事項に過ぎないものである。」(一丁裏下から五行ないし二丁表一行目)とした点を捉え、原告は、補正後の考案にあつては、前記の如き平板状のダイヤフラムを用いたことによつてリリーズボタンの操作量を少なくできたものであり、しかもこのようにカメラのリリーズボタンの操作量を少なくすることを目的とした平板状のダイヤフラムは周知ではなかつた旨主張する。

しかしながら、前掲甲第二号証の二及び甲第八号証の記載内容に照らしても、補正後の考案におけるリリーズボタンの操作量の大小は、原告主張の如くリリーズボタンとして用いられたダイヤフラムの形状によつて規制されるのではなく、むしろ、専ら、リリーズレバーの一端に設けられたレバー操作部材8(実施例におけるねじ8、別紙図面(一)参照。)の調整量によつてのみ決定されることが明らかである。すなわち、実施例についてみても、ダイヤフラムは、レバー端部3bが伝動装置部分4を解放するに足る程度の可撓性さえあればその調整量の範囲においてリリーズボタンとして作動し、ダイヤフラムの形状自体がリリーズボタンの操作量の大小を決めるものではないことは容易に理解できる。

このように、補正後の考案におけるダイヤフラムの形状がリリーズボタンの操作量を規制するものでないとすると、補正後の考案のダイヤフラムは、引用例のダイヤフラムと単にその形状が相違するにすぎず、引用例のダイヤフラムの具有しない特別の効果を奏するものとも認められない。

しかも、成立に争いのない甲第七号証(米国特許第二七六九八八二号明細書)には、押釦式電気スイツチに平板ダイヤフラムを使用したものが示されている如く、ダイヤフラムとして平板状のものが周知であることが認められるから、カメラのリリーズボタンをダイヤフラムで構成するに際し、平板状のダイヤフラムを使用することは、リリーズボタンの操作量を考慮して当業者が適宜採択できる事項であるとみるべきである。

したがつて、補正の却下の決定におけるこの点についての判断は、正当である。

(二)  さらに、原告は、補正後の考案のもつ作用効果を主張し、補正後の考案が、リリーズボタンを平板状のダイヤフラムで構成したこととダイヤフラムとリリーズレバーとの間に調整可能なねじ8を設けたことによつて、リリーズ機構の操作量を少なくしカメラのシヤツタぶれを防止できる効果を奏することに成功し、この効果は引用例から容易に推考し得ないものであると主張する。

なお、原告は、右の主張において、補正後の考案における伝動機構に関して、「ダイヤフラムとリリーズレバーとの間に調整可能なねじ8を設けた」構成であると主張するが、実用新案登録請求の範囲(甲第八号証―手続補正書参照。)には、「ダイヤフラムによつて、調整可能なレバー操作部材8とリリーズレバー3とを介してカメラ伝動部4が解放されるようにしたことを特徴とする。」と記載されているにすぎないことから補正後の考案は、右の原告主張の如き実施例に該る伝動機構に限定されるものではない。

成立につき争いのない乙第一号証(特公昭四一―五六七五号特許公報)及び乙第二号証(特許第一五一〇六七号明細書)によれば、カメラ機構において、補正後の考案の如く、調整可能なレバー操作部材とレバーとを介して、操作されるべき部分を操作すべき伝動機構は、周知の技術であることが認められるから、引用例のカメラにおいて、ダイヤフラム35からカメラ伝動部(ストツパー27)までの伝動機構の途中にこの周知の技術である調整可能なレバー操作部材を介在させるならば、補正後の考案において原告の主張する効果は当業者がきわめて容易に予測し得るところである。

また、補正後の考案におけるダイヤフラムの形状自体が、リリーズボタンの操作量の大小に関係のないことは前叙のとおりであるから、補正の却下の決定には、原告が主張するような作用効果についての看過はなく、その判断には何ら誤りはない。

以上のとおり、昭和五〇年六月五日付の補正を却下した補正の却下の決定の判断は、正当であつて、原告指摘の如き違法はない。

3  そうすると、審決が、本件考案の要旨を補正前の明細書の「実用新案登録請求の範囲」の記載に基づいて請求の原因2(一)(補正前の考案の要旨)記載のとおりと認定したことには、何ら誤りはない。

また、審決は、補正前の考案について、前記補正の却下の決定と同じく、いずれの形状のダイヤフラムを使用するかは、リリーズボタンの操作量、操作力などを考慮して適宜採択できる設計事項に過ぎないと判断したものであるから、補正の却下の決定についてすでに検討したところからして審決の右の判断が正当であることは明白である。

したがつて、本件考案がその優先権主張日以前に米国において頒布された引用例のものからきわめて容易に考案することができたものと認めた審決の判断は正当であり、審決には何らこれを取り消すべき違法はない。

三  よつて、審決に違法のあることを理由にその取り消しを求める原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却することとする。

〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。

補正前の考案の要旨

リリーズボタンがほぼ平らなあるいはわずかに湾曲したダイヤフラム6として構成されていて、このダイヤフラムによつて、カメラ伝動部4を解放して始動させるリリーズレバー3が操作可能であることを特徴とする、リリーズボタンを有するカメラ。

補正後の考案の要旨(昭和五〇年六月五日付手続補正書の実用新案登録請求の範囲)

リリーズボタンがほぼ平らなあるいはわずかに湾曲したダイヤフラム6として構成されていて、このダイヤフラムによつて、調整可能なレバー操作部材8とリリーズレバー3とを介してカメラ伝動部4が解放されるようにしたことを特徴とする、リリーズボタンを有するカメラ。

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