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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)153号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実、すなわち、原告が実用新案権者である本件考案について、被告の登録無効の審判の請求より審決の成立に至るまでの手続の経緯、本件考案の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由について順次検討する。

1  容器の形状について

原告は、本件考案の容器は、引用例にいう花鉢あるいは従来の植木鉢とは異なり、円筒状のものであつて、このことは、本件考案の実用新案登録請求の範囲に、「罐詰状に密封した……容器」と記載されていること、明細書及び図面に示された容器の図形及び梱包輸送に便利であるとの作用効果から明らかである旨主張する。しかしながら、成立に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案公報)によると、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、請求原因二(本件考案の要旨)と同一の記載があることが認められるが、そこにいう「罐詰状」とは、その措辞及び前後の脈絡からみて、容器に種子、球根等を収容する態様としての「密封」の概念を修飾限定するために用いられたものであつて、容器の形状を限定したものであるとは認めえない。仮に、右の記載から容器の形状が罐詰のそれに限定できるとしても、一般に罐詰と称されるものには種々の形状があつて、円筒状のものに限られるものではないから、この記載をもつて本件考案の容器が円筒状のものに限定されるとしうべきものではない。また、前記甲第二号証によれば、本件考案の図面には、円筒状の容器が示されていることが認められるが、右図面は、本件考案の一実施例を示すに過ぎないものであるし、他に、同号証により認められる本件考案の明細書中、考案の詳細な説明の項を調べても、本件考案の容器の形状が円筒状に限定されることを認めるに足りる記載はない。もつとも、右考案の詳細な説明の項中には、「培養素子、肥料素子及び種子、球根等を適宜収容密閉したので、……梱包輸送に便利である」との記載があるが、この記載内容自体によれば、梱包輸送に便利であるとの効果は、密閉したことによつて生じた効果とみるべきであり、この記載をもつて、本件考案の容器が円筒状のものに限定されるものと解することはできない。そして、他に本件考案の容器が円筒状のものに限定されるとしうべき証拠はない。

要するに、本件考案と引用例との間に、容器の点において一致するとした原審決の判断には誤りがなく、この点についての原告の主張は採用できない。

2  蓋板について

一般に、容器と容器のふた(蓋)との関係を考える場合において、容器に蓋を施すか否かの点と、それを施す場合に蓋と容器との嵌合状態や容器の内、外部の遮断状態をいかにするかの点とは、別個の問題として両者を区別しうることは明らかである。ところで、前記甲第二号証及び成立に争いのない甲第三号証によれば、容器に蓋を施す点において、本件考案と引用例との間には相違がないことが認められ、また、前認定のとおり、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「蓋板を施して容器全体を密封した」との記載があるが、この記載は、右に述べた容器と蓋との嵌合状態又は容器の内、外部の遮断状態に関する事項とみるべきである。審決が本件考案における蓋板と引用例との蓋片とを対応させて両者が一致するとしたのは、容器に蓋を施すか否かの点において対応させたに過ぎないものであることは、容器と蓋との嵌合状態において本件考案と引用例とは相違するものとして、一致点から除外していることからみて明らかである。したがつて、審決の判断は、その限りにおいて誤りがないというべきである。

原告は、引用例の蓋片は、単なる覆いに過ぎないのに対し、本件考案の蓋板は、捲締加工により容器に固定されたものである旨主張するが、これは容器全体を罐詰状に密封した点(審決が、本件考案と引用例とが相違するとした点に対する判断事項)と関連する事柄であるから、後記5において検討することとする。

3  培養素子・肥料素子と苗床材料について

本件考案における「培養素子、肥料素子」についてみるに、前記甲第二号証によれば、本件考案の明細書中、考案の詳細な説明の項には、「培養素子は、種子、球根等を育成するためのもので、水ごけ、ピート若しくはバーミキユライト等からなり、一般に使用されている土壌に替わるものである。」及び「肥料素子は、培養素子中の適所に埋設し、適宜の植物性板状体、例えばピートモスにマグアンプK(商標名)のような肥料を塗布又は含浸させたものあるいは単に肥料を培養素子中に層状に散布するだけでもよい。」旨の各記載があり、これらの記載からすると、本件考案の培養素子は、植物の生育に際し、土壌に替わるものとして用いられるものであり、また、肥料素子は、右培養素子中に板状体として又は層状に散布して介在するものであることが認められる。他方、引用例の「苗床材料」は、前記甲第三号証によると、引用例中に「土壌を使用することなく、前述のように成型され、材料の散乱するおそれのない苗床材料を利用する。」及び「泥炭や繊維を原材料とし、その理化学的性質を植物生理に合理的に改良するため、前記原材料に若干の粘土、バーミキユライト、鹿沼土を加えたものに、石灰、化学肥料、微量要素、魚粉、植物性油粕、骨粉等の各種肥料を混合して、これを発酵せしめて、植物の生育を害さないように処理して極めて高度に培養を行つた腐植質の苗床材料を成型し」との各記載があることからすると、引用例の「苗床材料」もまた、植物の生育に際し土壌に替わるものであり、これに肥料が混入されていることが認められる。したがつて、本件考案における「培養素子、肥料素子」は、引用例における「苗床材料」に対応するものであることが明らかである。そして、右の「培養素子、肥料素子」と「苗床材料」とを対比してみるに、前認定のとおり、本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲中には、この点について、「容器内に培養素子、肥料素子及び種子、球根等を適宜収容する」との記載があるのみで、その組成、形状等については何ら限定されていないのであり、また、前記甲第二号証によると、その他明細書のいずれの部分にもこれを原告が主張するように限定解釈すべきものとするに足りる記載がない(考案の詳細な説明における培養素子、肥料素子の配合組成等に関する右記載は、実施の一態様に過ぎないものであることは明らかであつて、本件考案がこれに限定されるものではない。)。他方、引用例における苗床材料は、前記のとおり、発酵させた上成型されているが、培養素子と肥料素子とからなるものである。そして、引用例は、本件では、その特許請求の範囲に記載されている発明自体の技術的範囲いかんが問われているのではなく、一刊行物としての特許公報に含まれている技術が引用され、その技術の分野における通常の知識を有する者が、それからどのような認識を得ることができるかが問題とされているものであることを考え合わせれば、引用例のものにおける発酵加工の点は、あえて問うまでもないことであり、結局、本件考案の培養素子、肥料素子は、引用例に示された苗床材料以外のものであるとすることはできない。

そうしてみると、本件考案における「培養素子、肥料素子」と引用例における「苗床材料」とが同一のものであるとした審決の判断には誤りがなく、この点についての原告の主張は採用できない。

4  種子、球根等の収容態様について

前記甲第二号証によれば、本件考案の明細書には、「容器内に適量の培養素子を入れ、次に肥料素子を入れた後、更に適量の培養素子を介在させて種子、球根等を定置し、その上に再び培養素子を被覆し」及び「この際種子、球根等と肥料素子との関係位置あるいは種子、球根等を埋没する深さは、種子、球根等の種類により異なる。」との各記載があることが認められ、これらの点及び本件考案の容器が開口後にはいわゆる植木鉢として発芽育成を通じて用いられる点を合わせ考えると、本件考案における種子、球根等の収容の仕方は、特別なものではなく、一般に植木鉢に種子、球根等を仕込む場合と比較し、土壌の替わりに培養素子を用いた点を除いて変わりがないものと考えられる。このことは、植物の種子、球根等の配置が、当該植物の種類、性質に応じてこれに可及的に適合するようにされるべきであることは当然であり、また、本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載の「適宜収容」なる用語も、それ自体からは、条件や状況に適合した収容と解するのが相当であることからも明らかである。そして、本件考案において種子球根等、培養素子、肥料素子の三者の配置の仕方が、原告が主張するような「混合配置」に限定されるべきであること、換言すれば、右請求の範囲に記載の「適宜収容」が右に述べたこと以上に特別の意味を有するものと限定的に解しうべき証拠はなく、また、いわゆる「混合配置」でなければ本件考案の目的が達成できないものであるとも認められない。他方、前記甲第三号証によれば、引用例は、種子、球根等を肥料と混合した苗床材料の中心部凹窩に仕込んだものであり、種子、球根等が培養素子、肥料素子といわゆる「混合配置」されているとはいえないが、本件考案が前記のとおり特に右「混合配置」に限定されるものではなく、引用例における種子、球根等の配置収容もまた、植物の発芽、育成に適合するようにされるべきであることは当然であり、右のように苗床材料の中心部凹窩に種子、球根等を仕込むことがこのような配置収容を不可能若しくは著しく困難にするものとは考えられない。

そうしてみると、本件考案と引用例との間に、種子、球根等の収容態様に差異がないとした審決の判断には誤りがなく、原告のこの点に関する主張も採用できない。

5  容器全体を罐詰状に密封した点について

まず、本件考案における「容器全体を罐詰状に密封した容器」の構成について検討する。前記甲第二号証によると、本件考案の明細書の考案の詳細な説明の項には、密封の方法について「蓋板を捲締加工により容器に固定すると共に、容器の底板に被覆片を貼着して、容器を完全に密封する」と、密封の程度、効果に触れて「容器は密封されるので、種子ならば四、五年、球根は休眠中に収容すれば翌年二月ころまで保存することができ、販売期間が長くなるのである。」と、開口について「使用に際しては、罐切りを用いて蓋板を切開すると共に、底板の排水孔を密閉している被覆片を剥取り」及び「容器を開口するに際しては、罐切りを使用することなく、容器を公知のプルトツプ構造とすることにより簡単に開口することが可能である。」との各記載があり、そのとおりのものであることが、また、実用新案登録請求の範囲には、前記のとおり、「該容器に蓋板を施して容器全体を罐詰状に密封した」との記載があることが認められるが、被覆片自体については、本件考案の一実施例に係る図面に示されているほかは、明細書中にも、右記載以上に、その構成や作用効果等について何ら記載されていない。

そうしてみると、本件考案における蓋板は、捲締加工により容器に固定され、使用に際しては、罐切りでこれを切開するか、あるいは、プルトツプ構造にして簡単に開口するようにしたものであるから、容器の密封手段として、食品等の罐詰にも広く用いられる蓋と異なるところがなく、また、本件考案における容器の密封は、その実施例によれば、蓋板の施用と被覆片の貼着とによりされるけれども、密封ないし封入の程度は、容器に収容される生き物としての種子、球根等の種類、性状のいかんにより多様にわたり、少なくとも、字義どおりの完全な密封に限られない場合を包含するものと考えるのほかなく、また、その実用新案登録請求の範囲には、排水孔及び被覆片に関しその構成に触れるところがないことに徴すれば、本件考案の要旨における「容器全体を罐詰状に密封した」との構成が、特に、容器の底板に被覆片を貼着し排水孔を閉塞するもののみに限られると解することはできない。これらを考え合わせるときは、結局、本件考案の「罐詰状に密封」するとは、罐詰様ないし罐詰形状に内容物を封入することを意味し、通常の罐詰加工におけるような完全密封とは異なるものと解され、その「罐詰状に密封」することの主たる効果は、本件考案の明細書によれば、種子、球根等の保存を確実にし、ひいて、梱包、輸送の便をも得るにあることが認められるが、その保存等の効果は、原告が従来周知であつたことを自認する種子を乾燥した上、罐に詰め密封して保存するものに比して特段なものとすることはできず、また、梱包、輸送に関しても格別なものとすることはできない。したがつて本件考案における「罐詰状に密封」することの意味するところが上述のとおりであり、一方、本件考案の登録出願前、種子を乾燥した上、罐に詰め密封して保存することが周知であつたことを、引用例のものと考え合わせれば、本件考案の関する分野においても、種子、球根等を罐詰状に密封ないし封入して保存し、必要に応じ開口して育成する容器に想到することは、当該技術の分野における通常の知識を有する者の極めて容易にすることができるものとするのが相当である。

なお、原告は、本件考案が容器全体を罐詰状に密封することにより、水分の浸入を遮断し、防湿効果を挙げ、更に外気の過侵入を防止し、断冷熱効果、遮光効果を挙げることにより種子、球根等の相当長期の保存を可能にしたと主張するが、種子の呼吸作用を遅緩させて長期の保存を可能にすることは、原告が従来周知であつたことを自認する種子を乾燥した上、罐に詰め密封して保存することによつても知られていることであつて、これに徴しても、特段のこととすることはできない。また原告は、容器を完全に密封しても、種子や球根を枯死させないようにする技術的課題を解決したものが、本件考案の罐詰状に密封することの技術的思想であると主張するが、前掲甲第二号証によると、本件考案についてその明細書のいずれの部分にもこのような趣旨の記載さえ見出すことができないから、この主張も採用しえない。

三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

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