大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)22号 判決

事実及び理由

一  本願考案において、保型具としての空気袋が形状寸法等において変形自在であることが考案の構成要件であることは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第二号証には、その作用効果として、「空気送入口3より空気袋2内に空気を送つて、袋本体1の内容積に合致するよう空気袋を膨脹させる」、「袋本体の内容積の大小、形状を問わず、その上下、左右、前後の三方向に大きく膨脹、収縮し、その結果この空気袋が厳密にみれば、内容積、形状が異なるハンドバツク、手提袋、鞄等の多種類の被保型体の内部の隅々まで行きわたらないとしても、被保型体の内容積の大部分をこの空気袋によつて満たすことにより保型具として一種類の空気袋で各種の袋本体の形態を保持することができる。」との記載があること、およびその材質に関し「たとえばゴム風船、合成樹脂製袋」との記載があることが認められる。したがつて、本願考案の空気袋は、ゴム風船のように大きな伸縮性を有し、空気の供給量を加減することにより、その機能を果たすものであつて、このような性質を有することに基づき、寸法、形状が異なる多種類の被保型体に用いても、その内容積に追従することができ、保型具として適用範囲の広い機能を発揮できるという技術上の特徴を有するものであると解せられる。

二  ところで、被告は、引用周知技術においても、本願考案の空気袋におけるような技術思想が存在する旨主張する。

(一)  成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例は、その考案の名称が「クツシヨン兼用鞄」であるように、鞄内にゴム内袋3、4を常時収容しておき、必要に応じてこれを膨脹させて、鞄をクツシヨン代りにするとともに、鞄内の万年筆のような内容物の保護を図ろうとするものであつて、被保型体の使用前に、その保型のために用いられる保型具ではないことが明らかである。したがつて、第二引用例におけるゴム内袋は、引用周知技術の例として適切でないばかりでなく、本願考案の空気袋におけるような技術思想を示めすものでないことはいうまでもない。

(二)1  成立に争いのない乙第一号証によれば、靴形に形成した空気袋に空気送入管をとりつけた靴整形器の構造に関する考案が存在することが認められる。しかし、同号証によれば、この靴形の空気袋は、底板(1)と上板(2)とを外被(3)によつて貼着して靴形を形成したものであることが認められるから、この内部に供給する空気量を調節してその大きさを加減しようとしても、その膨脹、収縮は底板、上板と外被との貼着部に制約されて大きな変形は望むことができず、せいぜい外被(3)の中央部が水平方向に伸縮する程度であり、上下、左右、前後の三方向に自由に膨脹伸縮するものとは考えられない。しかも右考案の対象が、靴整形器であるところからしても、送気量の多少により形、大きさが大きく変化しては本来の目的を達しえないことになるから、これを靴以外の物品に適用できないことは明らかである。したがつて、右考案のものは、形状、寸法の異なる多種類の物品の保型に適用することはできない。

2  成立に争いのない乙第二号証によれば、逆円錐形状袋内に空気を満たし密閉したものを長靴等の中に挿入して、その胴部の変形を防止するための長靴、雨靴等の変形防止用袋の構造に関する考案が存在することが認められる。しかし、同号証によれば、右の袋の形はあくまで長靴の胴部に適用する形状に限定されており、しかも空気の出し入れはできないことが認められるから、この袋の内容積を空気の供給量によつて変化させ、形状寸法の異なる多種の物品の保型に適用することはできない。

3  成立に争いのない乙第三号証によれば、空気を入れて密封した扁平な楕円状風船体の上方中央部の一部を屈撓陥没して相接する外被を接着することにより財布の形状に近似させた財布の込芯に関する考案が存在することが認められる。しかし、同号証によれば、この空気袋は、財布の保型専用の形状に構成され、しかも空気の出し入れはできないことが認められるから、形状、寸法の異なる多種の物品の保型に適用すべく、空気袋の大きさを調節できるという作用効果を有しない。

4  成立に争いのない乙第四号証によれば、空気の出し入れ自在の空気袋を用いた靴の型崩れ防止具に関する考案が存在することが認められる。しかし、同号証によれば、右空気袋の空気の出し入れは保型具として用いるか、または保型具として使用後に小物入れとして用いるかの用途の相違によつて行うものであること、また空気の供給量を加減してその内容積を調節しようとしても、この空気袋自体の構成は周縁が合成樹脂シートと溶着されているから、膨脹、収縮は前後方向に限られることが認められる。したがつて、右空気袋を、形状、寸法の異なる多種の物品の保型具として用いることはできない。

5  成立に争いのない乙第五号証によれば、全体の形状が曲玉状に成形されたプラスチツク製の中空袋体内に空気を密封して用いる長靴用インナーパツドに関する考案が存在することが認められる。しかし、同号証によれば、右空気袋は特殊の形状を有し、あくまでも長靴用の保型具であつて、空気の出し入れはできず、内部の空気量を加減してその内容積を変えることのできないものであることが認められる。したがつて、右空気袋は、形状寸法の異なる多種の物品の保型に適用することはできない。

(三)  以上のとおり、被告が引用周知技術の例証として引用し、または掲示するものには、いずれも本願考案の技術思想が存在するとはいえず、他に引用周知技術に本願考案のような技術思想が存在することを認めるに足りる証拠はない。そうすると、引用周知技術に本願考案における前記のような技術思想が存在することを前提として、本願考案の進歩性を否定した審決の判断は、誤りであり違法であるから、取消を免れない。

三  よつて、原告の本訴請求は正当であるから認容する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

膨脹、収縮、変形を自在とした空気袋をハンドバツク、手提袋、鞄等の袋本体に内在せしめ、この空気袋を膨脹させ、この袋本体の形態を保持するようにした袋物

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