東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)32号 判決
一 請求原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
二 先願発明及び先願考案の各要旨が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第二号証(本件発明の特許公報)によれば、本件発明の目的は、従来のものが、「点眼用軟膏又は獣医用ビリー剤の如く比較的狭い体腔部分に投与する目的のチユーブ入り軟膏剤には、多くの場合、チユーブと別個の投与用ノズルが添附されている。添附されたノズルは用時、チユーブの口部に嵌め又はねじ止めして使用される。しかし、このような結合手段によれば、内容物が多少とも接合部分から漏洩するのを避けえない。また、用後、ノズルを取り外すのも煩雑であるのみならず、ノズル内に充満した薬剤が汚染される恐れがある。」ものであるところ、「上記の諸欠点を解決したノズル付チユーブでの製造手段」を提供することにあるものと認められる。
(原告主張の審決取消事由1について)
前掲甲第二号証及び成立に争いのない甲第三号証によれば、先願発明は、蓋の螺子に螺合する合成樹脂製口頭片を容器と一体に成形して完全密閉可能な金属製容器を製造することを目的としているのに対し、本件発明は、ノズルの基部をチユーブの口部と一体に成形し、従来別個に設けられていたノズルを一体に製造するようにしたものであり、両者は、発明の目的と対象を異にし、そのため、先願発明は、容器に鍔又は段部を形成するとともに突起環を突設するか又は口端縁を巻縁にする等の加工を施すことを必須要件としているのに対し、本件発明は、一定のノズルの形状を一体に成形するためのコアと分割型とを用いることを必須要件としていることが認められ、両者は、その構成要件を異にするものである。
原告は、先願発明に口頭部の内面及び外面にそれぞれ射出成形によつて合成樹脂を一体成形することがある以上、内外面を同時に射出成形することは、当業者であれば適宜実施できることであると主張するが、先願発明は、容器の口頭部の内周又は外周の適宜位置に鍔又は段部を形成し、その形成した鍔又は段部位置の上方から容器口端縁よりやや上部に亘る周面に溶融合成樹脂を射出せしめるものであるから、口頭部の内周又は外周に形成される、その鍔又は段部の形状態様に徴し内外面を同時に射出成形することは、先願発明について適宜実施すべき事項とはいえない。
原告は、先願発明の製品である「完全に密閉できる金属製容器」の中には、「ノズル付チユーブ」も含みうると主張するが、先願発明は、完全密閉可能な金属製容器の製造を目的とし、合成樹脂口頭片を容器と一体に成形するものであるところ、先願発明の目的には、前述の本件発明の目的が含まれていると解することはできず、先願発明の明細書(前掲甲第三号証参照)には、右合成樹脂口頭片に、ノズルと一体になつている口頭片を含む旨の記載もないから、原告の右主張は採用することができない。
以上によれば、本件発明と先願発明とが実質的に同一であるとすることはできない。
(審決取消事由2について)
前掲甲第二号証及び成立に争いのない甲第四号証によれば、先願考案のチユーブは、チユーブの肩部中央に放射状の凹凸を付した孔を穿設して、チユーブの首を切放し、ここに新たに合成樹脂製の首片を一体に成形したものであるのに対し、本件発明のチユーブは、チユーブの首はそのままにして、チユーブの肩部の上部から口部にかけて二重の裾部をもつたノズルを一体に成形したノズル付チユーブであることが認められる。右事実によれば、両者のチユlブは、その構造において異なるものであり、したがつて、本願発明は、先願考案のチユーブとは異なる構造のチユーブを製造する方法の発明であるから、先願考案とは異なるものというべきである。
原告が本件発明の特許出願の原出願である変更前の実用新案登録出願について主張する点は、単なる経過の説明に係るものであつて、上述のとおりである以上、本件発明と先願考案との対比の結論に影響を及ぼすものではない。
原告は、両者のチユーブの構造上の差異に関して、本件発明のノズル付チユーブが、ノズルの基部の内外二重の裾部により、チユーブの肩部より上方全部がはさまれ、ノズルとチユーブとが相対的に回動しないようにされた点は、単なる設計的な事項にすぎないと主張するが、先願考案は、具体的な回り止め手段を構成要件としているのに対し、本件発明は、ノズルの基部の内外二重の裾部により挟まれるチユーブの位置を限定しているもの(相対的な回動を阻止するためのローレツト刻みをチユーブの口部を施す点は、本件発明の構成に欠くべからざる要件とはなつていない。)であつて、両者はその構成を異にし、単なる設計的な事項であるとする原告の右主張は、採用することができない。
以上によれば、本件発明と先願考案とが実質的に同一であるとすることはできない。
(審決取消事由3について)
前掲甲第四号証によれば、先願考案の明細書中に記載されているチユーブの製造法は、「まずチユーブ1は従来同様首付のものに成型し、……首部を切抜いて第2図に示す如く肩部3中央に放射状に凹凸4´を付した孔4を穿設し、これを予め用意した合成樹脂成形機の金型に嵌めて、第1図に示す如くチユーブ1の肩部内外面を基部5´で挟着せしめた首片5を成形する。」(別紙図面(三)参照)というものであつて、本件発明のチユーブの製造法と対比すると、先願考案のものは、ノズルを成形する金型を用いるものではなく、また、首片とチユーブの接着接合する部位、態様も本件発明のものとは異なるものであるから、両者のチユーブないしその製造法は、同一の物ないしその製造方法とはいえない。そして、先願考案の実用新案公報中に記載されているチユーブないしその製造法が周知技術を前提とするところがあるものであつたとしても、本件発明のチユーブないしその製造法は、先願考案のチユーブないしその製造法とは異なるものであつて、本件発明のチユーブ製造法が特段のものではなく先願考案と同一の範囲にあるものとすることはできない。
成立に争いのない甲第八号証ないし第一一号証は、一般的な合成樹脂の射出成形について記載しているものであるが、本件発明のようにノズルをチユーブと一体に成形する点及びノズルとチユーブとをチユーブの肩部上方から口部において接着接合する点については記載されておらず、前記1及び2で示した判断を左右するに足りるものではない。
三 右のとおりである以上、本件発明は、先願発明及び先願考案のいずれとも同一であることはいえない、とした審決の判断に誤りはない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本件における特許発明の要旨は左のとおりである。
成形さるべきチユーブの肩部より上方の内形に相当する外形を有するコアーの外面に、該コアーの肩部及び頸部と若干の距離を生じる如く金属製チユーブを嵌せた後、該金属製チユーブ及び前記コアーの周囲に成形さるべきチユーブの頸部ないしノズル部の外形に相当する内形を有する分割型を閉じ合わせ、ここに生成したコアーと分割型との間の空間内に熱可塑性樹脂を加圧注入することを特徴とするノズル付チユーブの製造法。