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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)45号 判決

一 請求原因事実中、本願発明につき、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続の経緯、発明の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の取消事由について検討する。

1 引用例に本願発明のA要件と同一構成の電荷像蓄積装置が記載されていることは、原告の自認するところであり、また、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例の九九頁二七行ないし二九行には、「読み取りビームは特定の素子に偏向され、かつ、書き込み―読み取り電子銃の制御格子に正のパルスが印加される。」との記載があることが認められ、審決は、この記載から、引用例のものにおいて、読み取りビームが蓄積ターゲツト素子を次々に走査し、これに応じてパルスも次々に制御格子に加えられるものと推定している。

(一) ところで、右甲号証及び成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許公報)に弁論の全趣旨をあわせると、引用例の電荷像蓄積装置は、いわゆるコンピユーター蓄積管に属するものであつて、情報の蓄積されているすべての蓄積ターゲツト素子には予めいわば地番が定められており、コンピユーターの指令によつて選択された地番の蓄積ターゲツト素子に向けて読み取り用の電子ビームが偏向されるよう偏向電圧を調整した後、制御格子にパルスを加えることによつて、その蓄積ターゲツト素子に電子ビームを当て、そこに蓄積された情報が存在するか否かに応じたパルスの出力信号を得るものであるのに対し、本願発明は、蓄積ターゲツトの全面に高速電子ビームを脈動させながらラスター状に走査し、そこに情報が存在するか否かを検知し、この走査過程において、電子ビームの当つた領域に蓄積された情報があるか否かに応じて振幅の異なるパルスの出力信号を得るものであることが認められる。

そうだとすると、右両者における情報読み取り動作をもつて、審決のいう「読み取りビームが蓄積ターゲツト素子を次々に走査し、これに応じてパルスも次々に制御格子に加えられるもの」に概括することができるものとしても、引用例のものが、コンピユーターの指令によつて、特定の蓄積ターゲツト素子に選択的に読み取り用電子ビームを当てるのに対し、本願発明は、蓄積ターゲツトにおける各素子を読み取り用電子ビームで順次かつ周期的に走査するものであるから、両者の情報読み取り動作は、その基本的方法において相違しているといわねばならない。

(二) 被告は、引用例の他の記載及び周知技術を援用して、審決の判断に誤りがない旨主張する。

しかし、まず、前掲甲第三号証によれば、引用例の九九頁三六行ないし三九行には、被告の主張する「読み取りビームは特定素子に偏向され、かつ、一〇メガサイクルのラジオ周波数のパルスが書き込みー読み取り電子銃の制御格子に加えられる。」との記載があり、引用例のものにおいては、ラジオ周波数読み取りの場合、読み取り用の電子ビームを一〇メガサイクルのラジオ周波数パルスで変調させていることが認められ、この「変調」は、本願発明にいう「脈動」と同義と解されるけれども、そのような手段を採用した理由は、引用例のものにあつては、右記載に引続く個所の記載から明らかなように、読み取り時にバツクプレートに印加する低周波パルスからラジオ周波数パルスの出力信号を分離して増幅しやすくするためにほかならないのに対し、本願発明にあつては、前掲甲第二号証によれば、蓄積された情報を非破壊的に読み取ることがその技術的課題の一であつて、そのために読み取り用高速電子ビームを脈動させるものであると認められるから、両者における技術的意義は全く異なる。

この点について詳述すると、本願発明においては、そのC要件として、情報読み取りのための高速電子ビームを脈動させるけれども、その脈動は、「読み取られた領域を一つの安定電位より他の安定電位に変換するに必要な時間より短い継続期間を有するパルスで」行なうものであり(パルスの「継続期間」の限定)、かつ、「その脈動を、パルス間の周期が前記フラツドビームをしてある領域をその蓄積電位に戻すように駆動することにより、これを蓄積電位値に止めるに足りる周波数で繰り返」すこと(D要件、パルスの「周期」の限定)と明らかに定めている。すなわち、本願発明は、右のとおりの継続期間と周期とが限定されたパルスを用いて、読み取り用高速電子ビームを脈動させ、これによつて、蓄積された電荷情報の非破壊的な読み取りという技術的課題を達成しているものである。

これに対し、引用例のものにおいては、特にラジオ周波数読み取りの場合に、読み取り用電子ビームを発射する電子銃の制御格子Cに、一〇メガサイクルの無線周波数パルスを印加して、読み取り電子ビームを脈動させ、この脈動する読み取り電子ビームが蓄積ターゲツト素子、すなわち、蓄積ターゲツトの特殊の領域に導かれ、それを衝撃することにより、プラス五〇ボルトあるいはマイナス五〇ボルトという電荷の形で蓄積されている情報の有無に応じた読み取り出力信号を、蓄積ターゲツトのメタル・バツクプレートPに接続した出力抵抗器Roに生ぜしめるものである(引用例九九頁三九行ないし一〇〇頁一二行参照)。しかしながら、引用例においては、この無線周波数パルスの継続期間及び周期について全く触れるところがない。しかも、ここに、このような技術的手段をとる目的は、一〇メガサイクルの無線周波数で脈動された読み取り電子ビームによつて出力抵抗器Roに生ずる一〇メガサイクルの出力信号を、低周波数のバツクプレート・パルスから、分離して増幅しやすくすることによつて、信号対雑音の比率を向上させようとするにあり、本願発明が解決課題の一つとする非破壊的読み取りのためではないのである(引用例一〇〇頁一二行ないし一七行参照)。両者における脈動についての技術的意義は全く異なる。

もつとも、引用例のものにおいても、非破壊的読み取り自体は可能ではあるが、本願発明とは異なり、読み取りビーム電流を弱くすること(書き込みビーム電流より「相対的に小さくする」こと)によりこれを実現しようとするものである(引用例一〇〇頁一八行ないし二五行参照)。このように、本願発明は、特定の継続期間と周期とを有するパルスを用いて読み取り用高速電子ビームを脈動させることにより、蓄積された電荷情報の非破壊的な読み取りを行なうという技術的課題を解決しているものであり、パルスの継続期間と周期とに関する条件につき何ら考慮することのない引用例とは、技術的課題のみならず、その解決のための技術的手段ないし構成を顕著に異にするものといわなければならない。

さらに、右構成にかかる作用効果の差異についてみると、前掲甲第二号証によれば、本願発明は、引用例とは異なる右の構成により、非破壊的な読み取りが可能であるということのほかに、(イ) 低い走査速度で済むところから、読み取り出力信号の伝送に狭帯域幅の伝送系を適用できること、(ロ) 高振幅の読み取り出力信号が得られるところから、それを通常のAC結合増幅装置を用いて容易に増幅することができることの作用効果を奏するのに対し、引用例のものにおいては、右(イ)、(ロ)の作用効果を期待しえないことが明らかである。

(三) 右の諸点を併せ考えると、本願発明は、少なくともそのC要件(ただし、電子ビームを脈動させるとの点を除く。)及びD要件において異なることが明らかであり、引用例から容易に推考しうるものではないといわざるをえない。審決は、右差異につき、当業者が必要に応じ想到ないし設計しうる事項にすぎないとするけれども、右のとおり特段の作用効果を収める本願発明がその出願前他において実施されたことをうかがわせる資料の存しない事跡に徴しても、審決の推論を肯認することはできない。

(四) なお、成立に争いのない乙第一号証の一、二によれば、日刊工業新聞社昭和三五年発行「テレビジヨン」八月号中の「直視型蓄積管」と題する論文には、「読み取りビームをパルス的に断続することにより、回路的に読み取り時間を延長することもできる。蓄積像は読み取りビームの作る正イオンの附着により崩れるから、読み取りビームを断続的にカツト・オフすれば、読み取り時間は長くなる。」との記載があり、本願発明の出願当時、直視型蓄積管の技術分野において、読み取り用フラツドビームをパルス的に断続させることによつて、蓄積ターゲツトに蓄積されている情報、すなわち電荷像を消去することなしに読み取る技術が広く知られていたことが認められるが、右技術は、本願発明や引用例のように、高速電子ビームを用い蓄積ターゲツトを順次ラスター状に走査して、各蓄積ターゲツト素子における情報の有無に応じたパルスを出力信号として発生させる、いわゆる二安定電位型蓄積管に関するものではなく、しかも、右記載中の「読み取り時間を延長する」とは、右乙号証によれば、要するに、蓄積された情報である電荷像を読み取ることができる時間を長くすることにあると解されるから、その技術は、読み取りに際し、脈動する高速電子ビームによつて各蓄積ターゲツト素子を走査する本願発明や引用例とは、直接的な関係はないものというべきである。

したがつて、被告主張の周知技術があつても、引用例に本願発明の右C要件及びD要件が容易に推考できる程度に示されることにはならない。

2 以上のとおりであるから、結局、本願発明のC要件の一部及びD要件について引用例にもとづいてした審決の判断は誤りである。そして、審決は、この判断を前提にして、本願発明の進歩性を否定したものであることが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、違法であつて、取消を免れない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

本願の特許請求の範囲に記載される一の発明(以下、これを「本願発明」という。)の要旨は、分説すると次のとおりである。

A 誘電体蓄積ターゲツト(以下単に「蓄積ターゲツト」という。)と、これに高速の電子ビームを導く高速電子ビーム手段と、蓄積ターゲツトに電子のフラツドビームを導き、安定電位において情報を蓄積ターゲツト上に保持する低速フラツド銃手段と、蓄積ターゲツトと結合して読み取り信号を作る手段とを含む電荷像蓄積装置より情報を読み取る方法において、

B 蓄積ターゲツトの特殊の領域に高速電子ビームを導いてその領域より情報を読み取り、

C かかる電子ビームを、読み取られた領域を一つの安定電位より他の安定電位に変換するに必要な時間より短い継続期間を有するパルスで脈動させ、

D その脈動を、パルス間の周期が前記フラツドビームをしてある領域をその蓄積電位に戻すように駆動することにより、これを蓄積電位値に止めるに足りる周波数で繰返し、

E 蓄積ターゲツトに結合している手段から前記電子ビームに供給されるパルスに対応する読み取り脈動を導出する過程を含む電荷像蓄積装置より情報を読み取る方法

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