東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)52号 判決
一 請求原因事実中、本願商標についてその構成、指定商品及び出願から審決の成立に至るまでの手続の経緯並びに本件審決理由の要点は、当事者間に争いがない。
二 本件の争点は、本願商標から「シヨーチクバイ」の称呼を生ずるかどうかにあるので、この点について検討する。
前記争いのない事実によると、本願商標は、別紙(〔編註〕省略)(一)のとおり、「松竹梅酒造株式会社」の文字を行書体で一連に左横書きにした構成であり、原告の名称と同一のいわゆる商号商標であることが明らかである。そして、右文字全体から「シヨーチクバイシユゾーカブシキガイシヤ」の称呼を生ずることはいうまでもないが、その称呼は一六音からなつて、冗長に過ぎるきらいがある。
ところで、簡易迅速を尊ぶ商取引の実際において、比較的長い商標については、これを取引者や一般需要者に親しみ易い特長的部分に限定して、簡単に称呼されるのが通常であるが、この観点から本願商標についてみると、成立に争いのない乙第二号証の一ないし一六(日本醸界年鑑)、第五号証の一ないし六(全国酒類醸造名鑑)によれば、本願商標の指定商品たる日本酒の醸造業界においては、会社名を「○○酒造株式会社」とする例が圧倒的に多いこと(乙第五号証の二、三に記載されている全国の著名業者中約七割がこれに該当する。)、しかも、そのような酒造業者が自己の名称から「酒造株式会社」の部分を除いたものをそのまま銘柄としている例も多いこと(原告自身、白鶴酒造株式会社、大関酒造株式会社及び黄桜酒造株式会社がそれぞれ「白鶴」、「大関」及び「黄桜」を銘柄としていることを認めている。)が認められるから、本願商標のうち、この種商品の取引者や需要者の注意を惹く特長的部分が「酒造株式会社」を除いた「松竹梅」にあることは、多言を要しないところというべきである。
したがつて、本願商標からは、その指定商品との関連において「シヨーチクバイ」の称呼をも生ずるものと認めるのが相当である。
原告は、本願商標から「シヨーチクバイ」の称呼を生じない理由を種々主張するけれども、以下述べるとおり、いずれも採用することができない。
1 まず、原告は、商号商標の特異性について主張する。しかし、商号商標といえども商標である以上、商取引の実際において簡略に称呼されるものであり、その際に「株式会社」を省略することが許されないとする理由は存しない。
2 原告は、酒造業界の慣行あるいは同業界における商号商標の特異性により、本願商標の略称は「シヨーチクバイシユゾー」に限られる旨主張するけれども、本願商標から「シヨーチクバイ」の称呼をも生ずることは前記認定のとおりであつて、原告主張のような事実があるからといつて、本願商標から「シヨーチクバイシユゾー」のほかに「シヨーチクバイ」の称呼をも生ずることが否定されるものとはいえない。
3 原告は、本願商標と引用商標とが商品取引上誤認混同のおそれはない旨主張する。しかし、少くとも、一般需要者としては、常に酒造業者名とその銘柄を知悉するものではないから、「シヨーチクバイ」の称呼を生ずる本願商標と引用商標「松竹梅」との間に各商品が同一出所にかかるものであると誤認するおそれのあることは、容易に首肯することができる。
4 原告は、引用商標の連合商標に関する審査例について主張する。しかし、仮に、原告主張のような経緯があつたとしても、それによつて本願商標の登録要件の有無が左右されるいわれはない。
三 次に、成立に争いのない甲第三号証の一、二によれば、引用商標は、昭和四一年一一月九日出願、昭和四六年一月二〇日登録にかかり、第二八類酒類を指定商品とし、別紙(二)のとおり、「松竹梅」の文字を行書体で縦書きにした構成であることが認められ、右文字から「シヨーチクバイ」の称呼が生ずることはいうまでもない。
そうである以上、本願商標と引用商標とは称呼を共通にする類似商標というべきであり、この点に関する審決の判断は正当であつて、原告主張の違法は存しない。
四 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。