大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)53号 判決

一 請求の原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

(一) 本願発明の要旨が審決認定のとおりであることは当事者間に争いがなく、鍍金における「ヤケ」の現象については原告主張(請求の原因(四)1)のように解されることについても当事者間に争いがない。

(二)1 そして、成立に争いのない甲第一号証(審決謄本)と同甲第五号証(昭和五〇年七月二五日付拒絶理由通知書)をあわせれば、審決は、引用例(成立に争いのない甲第三号証)第2欄(e)記載の鍍金操作の工程およびこれに関連する第1欄第34~37行等の記載に示された鍍金条件と本願発明の実施例の鍍金条件とを直接比較して勘案し、ヤケの状態は引用例においても具現されており、結局本願発明において銅材料の表面に施される銅の状態および性質と引用発明におけるそれ(「きわめて微細に分割された表面」と記載されているもの)との間には格別の相違点を見出すことはできないと判断し、これを前提として本願発明の進歩性を否定したものであることは明らかである。

2 ところで、甲第三号証(引用例)によれば、第1欄(第一頁左欄)第21行~40行(訳文第一頁第9行~第二頁第3行)には「本発明の目的は粗い表面を有する銅箔の改良された製造方法を提供することにある。本発明によれば、粗い表面を有する銅箔の製造方法は次の工程を有している。即ち、攪拌された酸/銅浴内で、八〇~一一〇アンペア/平方フイートの範囲内の陰極電流密度で五~一七分間、適当な金属基体の表面に鍍金をすることによつてその基体の表面に銅箔を形成する工程、これによつて前記基体上に付着した銅の表面を清浄にする工程、および攪拌なしの青化銅浴内で、四五~五〇アンペア/平方フイートの陰極電流密度で、両方の鍍金工程からできる箔の合計厚さが所望の値になるまで、前記付着銅の表面を鍍金する工程を有している。」と記載され、これに関連して第2欄(e)(第一頁右欄第64行~70行、訳文第三頁第1行~3行)には「攪拌なしで、ほぼ一二分間、室温で、青化銅―九〇g/l、青化ソーダ―一〇六g/l、炭酸ソーダ―五〇g/lの組成からなる青化銅浴内で、五〇アンペア/平方フイートの陰極電流密度で、鍍金をすること。」との記載があることが認められる。

他方、成立に争いのない甲第一四号証(本願明細書)によれば、本願発明の実施例(1)として「厚み約〇・一〇mmの圧延銅箔の片面にCuSO4二五・二g/l、H2SO4七五g/l、膠三五mg/lの組成を有し、液温五二℃に於て浴電圧一・〇ボルト、電流密度七・二A/dm2の条件に於て九〇秒間ヤケ鍍金を行つた後、該銅箔を水洗、乾燥して接着用銅箔とし、該銅箔面にポリビニルアセタール、フエノール樹脂―エポキシ樹脂からなる三元性接着剤を塗布、乾燥、焼付してなる接着剤付銅箔とエポキシ樹脂系含浸紙とを重ね合せ、加熱加圧して銅貼積層板を得た」との記載が、実施例(2)として「厚み約〇・〇四mmの電解銅箔の片面にCuSO4二五・二g/l、H2SO4七五g/l、膠三・五mg/lの組成を有し、液温五二℃に於て浴電圧〇・九ボルト、電流密度六・〇A/dm2の条件に於て四分間ヤケ鍍金を行つた後、該銅箔を水洗、乾燥して接着用銅箔とし、該銅箔面にポリビニルアセタール―フエノール樹脂―エポキシ樹脂からなる三元性接着剤を塗布、乾燥、焼付してなる接着剤付銅箔とエポキシ樹脂系含浸紙とを重ね合せ、加熱加圧して銅貼積層板を得た。」との記載が、実施例(3)として「厚み約〇・一〇mmの圧延銅箔の片面にCuSO4二五・二g/l、H2SO4一〇〇g/l、膠二mg/lの組成を有し、液温四〇℃により浴電圧〇・八ボルト、電流密度三、〇A/dm2の条件に於て三分間ヤケ鍍金を行つた後、該銅箔を水洗、乾燥して接着用銅箔とし、該銅箔面にポリビニルアセタール―フエノール樹脂―エポキシ樹脂からなる三元性接着剤を塗布、乾燥、焼付してなる接着剤付銅箔とエポキシ樹脂系含浸紙とを重ね合せ、加熱加圧して銅貼積層板を得た。との記載が、実施例(4)として「厚さ約〇・〇四mmの電解銅箔の片面にCuSO4二五・二g/l、H2SO4七五g/l、膠三・五mg/lの組成を有し、液温五二℃に於て浴電圧〇・九ボルト、電流密度六・〇A/dm2の条件に於て四分間ヤケ鍍金を行つた後、該銅箔を水洗、乾燥して接着用銅箔とし、該銅箔とエポキシ樹脂系含浸紙とを重ね合せ、加熱加圧して銅貼積層板を得た。」との記載がそれぞれなされていることが認められる。

そうすると、本願発明の実施例の鍍金条件と引用発明の鍍金条件とを表にあらわせば、別表のとおりとなる。

したがつて、本願発明の各実施例の鍍金条件と引用例の鍍金条件とは浴の組成を異にし、特に本願発明のものは硫酸銅浴であるのに対し引用例のものは青化銅浴である点で浴の種類そのものが異なつているのである。

3 ところが、右のように鍍金浴の種類、組成が異なつても、それが他の鍍金条件すなわち電流密度、浴の温度、鍍金時間、攪拌の有無等の働き(それらの鍍金条件によつていかなる鍍金状態をもたらすか)に影響を及ぼさないと認めるに足りる証拠はないから、前記二(一)(請求の原因(四)1参照)のように、鍍金の際の電流密度が限界電流密度を超えて極端に高くなるとヤケが発生するとの前提のもとでは、特定の浴の種類、組成下における限界電流密度が判明しなければヤケの状態の有無を推定することが元来できないわけである。したがつて、審決が、本願発明の実施例の鍍金条件と引用発明のそれとを比較勘案するといいながら、右に述べた点を顧慮することなく、(審決の援用する拒絶理由通知書の記載は簡単であつて、右の点を顧慮したとはとうてい認められない。)、引用発明がヤケの状態を具現していると判断したのは不当といわなければならない。

(三) もつとも、引用発明にいう「極めて微細に分割された表面」は鍍金の状態をいうのであるから、念のためこの点をたしかめてみると、成立に争いのない甲第八号証とヤケメツキを施す前後の写真であることにつき当事者間に争いがない甲第一〇号証をあわせると、ヤケメツキは走査型電子顕微鏡写真では銅箔の表面に無数のこぶを有する微小突起の集合体となつていること、電流密度、鍍金時間の変化によつて鍍金層の状態が大きく変化することが認められるところ、成立に争いのない甲第七号証により引用発明と同じ鍍金条件で生成した鍍金層の走査型電子顕微鏡写真であることが認められる同号証添付の四葉の写真に示された鍍金層の状態は、微小突起の表面のこぶが甚だ少なく、かつ陰極電流密度の変化および鍍金時間の変化にかかわらず、鍍金層の状態は殆んど変化していないことが認められる。(被告はヤケの現象が生じているかどうかの検討は直接肉眼で視認しなければならない旨主張しているが、採用することができない。)

(四) そうすると、その余の点について判断するまでもなく(審決は、参考資料A―成立に争いのない甲第四号証「鍍金技術便覧」―については、原告の意見書の主張を排斥したにすぎず、積極的に理由づけに用いたものではない。)、引用発明においてもヤケ鍍金が具現するとはいえないことになるから、審決は違法として取り消しを免れない。

三 よつて、原告の本訴請求を認容する。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

銅材料の表面に銅のヤケ鍍金を施した後、該面に接着剤を使用し、又は使用せずして合成樹脂含浸紙又は布からなる積層板を密着せしめることを特徴とする銅貼積層板の製造法。

〔編註その二〕 本件に関する別表は左のとおりである。

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