東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)57号 判決
一 本件の争点は、本件発明の要旨における「平常時は閉路状態のスイツチ」とはいかなるスイツチを意味するかという点にある。
そこでまず「スイツチ」という用語の持つ技術内容について検討する。
成立に争いのない乙第一号証によれば、「スイツチ」とは、開閉器ともいわれ、手動や、機械的または電気的入力信号により、電気回路を閉じたり開いたりする機器の総称であることが認められる。また成立に争いのない乙第四号証によれば、「スイツチ」の種類には、入力信号の加え方、即ち操作手段から分けると、押ボタン等による手動操作型と、バイメタル等による自動操作型のものがあり、スイツチの回路から分けると、常時は回路が閉じているが入力信号が加わつたとき、即ちスイツチが操作されたときに回路が開く常時閉路型と、常時は回路が開いていて入力信号が加わつたとき、即ちスイツチが操作されたときに回路が閉じる常時開路型のものがあることが認められる。
このような「スイツチ」という用語の意味およびその種類からみると、本件発明の要旨の「平常時は閉路状態のスイツチ」とは、常時は回路が閉じているが、入力信号が加わつたとき、即ちスイツチが操作されたときに回路が開く常時閉路型のスイツチを意味すると解せられるが、その「平常時」という表現から、入力信号の加え方、即ちスイツチの操作方法が手動であるか自動であるかまでは直ちに読みとることはできない。
ところで、本件発明の要旨における「平常時」という用語を原告主張のように「スイツチを人為的に操作する以外の場合」という特定の意味で使用するのであれば、特許法施行規則二四条様式16備考8に規定されているように明細書中にその旨を定義することが必要であり、あるいは少くとも明細書の全趣旨から、そのように特定の意味で使用するものであることが明確に読みとることができなければならない。
ところが、成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)によれば、本件明細書には、「平常時」とはどのような状態のときを指すのか定義はされていないことが認められる。
そこで、本件明細書の全趣旨から「平常時」が、原告主張のような特定の意味をもつものであることが明確に読みとることができるかどうか検討する。
本件発明の要旨によれば、サーモエレメントと電磁石との回路中に設けられているスイツチが閉路状態にあるときが「平常時」ということになる。そして、本件明細書の第一図および第二図に記載されている回路の状態から判断すると、サーモエレメント3と電磁石4の間に設けられているスイツチ5が閉路状態にあるのは、ガス燃焼器の不使用時か燃焼中であるときであり、即ち、ガス燃焼器を消火する場合以外はすべて閉路状態であることが認められる。
次に、本件明細書には、スイツチ5に関する作用効果として、「本発明は上述のように熱起電力を応用したガス安全弁を用いてスイツチ5の操作のみによつて消火することができる極めて取扱いの簡単なもので従来のガス燃焼器の如く中間にコツクを必要とせず、従つてコツク部からのガス洩れとか故障の心配がないものである。」(公報一頁右欄二〇行目から二五行目)と記載されていることが認められる。ところが、これは、サーモエレメントと電磁石との回路中に常時閉路状態にあるスイツチ5を設けたこと自体の効果であつて、スイツチ5が、手動に限らず、タイマーその他適宜の信号による自動操作のものでも奏しうる効果であることは明らかである。もつとも本件明細書には、「この燃焼を停止せんとする時はスイツチ5を押してサーモエレメント3と電磁石4回路を開路すれば」(公報一頁右欄一四行目から一六行目)と記載されていることが認められ、「押す」が通常の用語では手で押す意味であるとしても、本件発明の要旨には手動に限定する趣旨の記載のないこと、および前記の本件明細書に記載されたスイツチ5の効果が手動、自動によつて異らないと考えられることからみると、右記載は、自動のものを含まない趣旨に解することはできない。ただ本件明細書の第一図には、スイツチ5は押ボタン式のものが図示されており、また本件明細書には、「サーモエレメント3が自然冷却して熱起電力がなくなるから電磁石4の磁力は消えて吸着板11は旧位置に解放されて自動的に消火するもので、人為的及び自動的消火の両用に供することが出来るもので極めて利用価値の広いものである。」(公報一頁右欄二五行目から三二行目)と記載されていることが認められるが、これらの図示および記載は、前記まで検討したところによれば、実施例としてスイツチ5が手動の場合もありうることを示唆するにとどまり、スイツチ5が手動に限られるということまで意味するとは解せられない。
二 以上の検討によれば、本件発明の要旨の「平常時は閉路状態のスイツチ」とは、常時は回路が閉じているが、入力信号が加わつたとき、即ち方法を問わずスイツチが操作されたときに回路が開く常時閉路型のスイツチであり、手動操作型と自動操作型のいずれをも含むものであるということができる。したがつて、右スイツチが、「スイツチを人為的に操作する以外の場合は閉路状態のスイツチ」であることを前提とする原告の主張は前提自体既に失当である。
そして、引用例の「温度ハイリミツトスイツチ(88)」が、常時接点が閉じていて入力信号が加えられたときに開くスイツチ、即ち常時は回路が閉じているが、入力信号が加わつたときに回路が開く常時閉路型のスイツチであることは当事者間に争いがない。また成立に争いのない甲第三号証によれば、右スイツチは自動操作型のものであることが認められる。してみれば、本件発明の要旨の「平常時は閉路状態のスイツチ」は、前記のとおり、常時閉路型で、自動操作型を含むものであるから、引用例の「温度ハイリミツトスイツチ(88)」とは、常時閉路型・自動操作型のスイツチである点で一致することになる。また右両スイツチを除いた本件発明と引用例の各構成が一致していることは当事者間に争いがないから、両者は構成においてすべて一致しており、したがつて作用効果も同一であつて、結局両者は同一発明であるということになる。
よつて、両者が同一発明でないことを前提として審決の違法をいう原告の主張は失当であつて採用できない。
三 以上のとおり、審決には原告主張の違法はなく、原告の本訴請求は失当であるから棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
本文に詳記し実施図に示す如くガス通路とバーナーとの間にサーモエレメントを使用してガス通路を開閉するガス安全弁を設け、且つサーモエレメントとサーモエレメントの加熱により励磁する電磁石との回路間に平常時は閉路状態のスイツチを設けたことを特徴とするガス燃焼器の自動停止装置