大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)73号 判決 1977年6月14日

原告

やまだあられ株式会社

右代表者

山田福二

右訴訟代理人

村林隆一

外四名

被告

株式会社みながわ製果

右訴訟代理人弁理士

吉井昭栄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  請求原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、「囲炉裏あられ」の文字を縦書きしてなる商標について、商標法施行令第一条別表第三〇類「あられ」を指定商品として昭和四三年三月二九日登録出願をし、昭和四四年九月一一日第八三一〇一八号をもつて商標権設定の登録を受けた権利者であるところ、被告は、昭和四五年二月一七日特許庁に対し右商標登録について無効審判の請求(同庁昭和四五年審判第一五二一号)をし、昭和五一年五月一七日に「登録第八三一〇一八号商標の登録は、これを無効とする」旨の審決があり、その謄本は同年六月一七日に原告に送達された。

二  審決理由の要点

本件登録第八三一〇一八号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙一のように「囲炉裏あられ」の文字を縦書にしてなり、第三〇類あられを指定商品とするものである。これに対し、請求人の引用する登録第七一〇一六二号商標(以下「引用商標」という。)は別紙二に表示した構成よりなり、第三〇類、菓子、パンを指定商品として昭和三九年四月六日登録出願、同四一年六月一四日その登録がされたものである。

そこで検討すると、本件商標はその構成前記のとおり「囲炉裏あられ」の文字を書してなるものであるが、これを構成する文字中「あられ」の文字は商品菓子の一種を示す普通名称であるから、本件商標の識別標識としての機能を果す部分は「囲炉裏」の文字部分である。したがつて、本件商標はその文字に相応して「イロリ」(囲炉裏)の称呼、観念を生ずる。

一方、引用商標は別紙二に表示したとおりの構成よりなるものであるが、円輪郭内に表わされた図形は、炉を中心として自在鉤に吊された鍋、五徳、火箸などを組合せ、囲炉裏全体の特徴をそのまま描写しているので、このような図形は広く親しまれている囲炉裏を表現したものとして認識されるのが最も自然といえる。そうとすれば、簡易迅速を尊ぶ繁忙裡の商取引において需要者は、ありふれた円輪郭より生ずる称呼を省略し、単に図形部分に着目し、それより生ずる「イロリ」(囲炉裏)の称呼、観念により取引に資する場合が決して少なくないものと考えられる。したがつて、引用商標は「イロリ」(囲炉裏)の称呼、観念を生ずるものと判断するのが相当である。

してみれば、本件商標と引用商標とは、外観の異同に論及するまでもなく、「イロリ」(囲炉裏)の称呼、観念において類似する商標であり、かつ、本件商標の指定商品は引用商標の指定商品中に包含されていることは明かであるので、本件商標は商標法第四条第一項第一一号に違反して登録されたものであり、同法第四六条第一項第一号の規定により、登録を無効としなければならない。

三  審決取消事由

審決は、引用商標がイロリ(囲炉裏)の称呼、観念を生ずるとしたのは判断を誤つており、違法であつて取消されねばならない。

引用商標は筆書きであつて、よく検討すると円輪郭内にあるが、この輪郭はでこぼこであつて、何を示しているのか全く理解できない。そして、その中にある図形をみると、主たる構成は、横線と右側縦線の接点の外側が円輪の内径に附着しており、一見右接点から垂直線が下向しているように見えるので、従来から我が国で使われていた箱型の火鉢に見える。また円輪内上方の二本の火箸は、上方が円形でその中間が空隙となり、箱型火鉢に使用されていた真鍮の火箸を思わせ、箱火鉢を連想させる一助となつている。そして火鉢の中にごたごたとあるものは必ずしも判然としないが、火鉢内の茶碗置き等を連想させよう。そうすると、全体としては居間などに置かれた箱火鉢を連想、観念させることはあつても、「イロリ」を観念させることはない。

かりに、これを「イロリ」と称呼、観念するにしても、自在鉤、鍋、五徳などこの図形から明瞭に把握することができないばかりでなく、背景・道具立に欠けている。すなわち、これを「イロリ」と称呼、観念するためには、古びた水屋、くすぶつた天井、火鉢の平面性、火鉢と同じ平面で火鉢をかこんだ座ぶとん(藁のようなもの)を並べることが必要である。

しかも、引用商標の出願時における取引者、需要者の状態をみるのに、戦後わが国の国民は旧い慣行を破壊し、若者は新規なものを追求するに急であつたので、昔の「イロリ」を称呼し、観念したなど到底考えられず、むしろ当時は家庭で火鉢を使つていた時代であり、この図形からは角火鉢を連想したとするのが自然である。また、その指定商品は菓子・パンであり、購買者は女、子供であり、しかも店頭で迅速に購入されるものであるから、一見してこの図形から直ちに「イロリ」というような特定の称呼と観念を生じようがない。

したがつて、引用商標からイロリの称呼、観念を生ずるとし、ひいては本件商標と類似するとした審決の判断が誤りであることは明かである。<以下、省略>

理由

請求原因一、二項の事実は当事者間に争いがない。

そこで、審決取消事由の有無について判断する。

引用商標が別紙二のとおりの図形のものであることは当事者間に争いがないところ、原告は、この図形からは「イロリ」の称呼、観念を生ぜず、むしろ「角火鉢」を連想する旨主張する。

しかしながら、囲炉裏は、我が国の農山村部で最近までひろく使用され、現在においても従来の民俗を偲ぶよすがとして一般に親しまれ、また、民話・文学・演劇・イラストレイト・テレビなど多岐な方面にわたつてそのイメージが普及していることは当裁判所にも顕著な事実であるから、老若を問わず取引者・需要者の多くの人は、たとえ円輪郭内の図形の個々については必ずしもつまびらかでなくても、このような図形、ことに自在鉤を示す図形との結合から先ず端的に囲炉裏を直観するのが最も自然であると認められる。

もつとも、この図形をみる者の職業、経歴、嗜好、趣味、心情などの如何によつては、たとえば「ふるさと」「いなか」「だんらん」「山家」「鍋料理」あるいはまた囲炉裏が舞台装置の一部として演じられる劇・脚本の題名など様々なものを連想することもあろうが、こうした連想も、その喚起の根源、想像の機縁は、この図形から「イロリ」を直観・印象することに基ずく連想の発展であり、潜在的には「イロリ」の観念を共通にしていると考えられる。

そうすると、簡易迅速化をめざす現在の商取引において取引者・需要者は、ありふれた円輪部より生ずる称呼を省略し、図形部分に着目して「イロリ」の観念を想起し、また「イロリ」の呼称にしたがつて取引を行う場合が少なくないので、引用商標は「イロリ」(囲炉裏)の称呼・観念を生ずるものとし、ひいては、本件商標と称呼・観念において類似するものとした審決の判断には原告主張のような誤りはなく、何ら違法のかどはないというべきである。<以下、省略>

(杉本良吉 舟本信光 小笠原昭夫)

<別紙一>

<別紙二>

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