東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)77号 判決
一、請求原因一、二、三項の事実は当事者間に争いがない。そこで審決取消事由の有無について検討する。
(一)、(原告主張(一)について)成立に争いのない甲第一号証によれば、従来技術である文字盤の側面に紙を貼り文字枠に嵌めこみ固定する方式に比べ、本願考案が(イ)作業時間を短縮し、(ロ)熟練を要せず正確・簡単に装填を可能とすることができ、(ハ)温度や湿度の作用を受けることなく常に最初に規定した状態で維持され、(ニ)さらに文字枠から文字盤の落下を防止する効果がある点で差異があることが認められる。しかしながら、成立に争いのない甲第四号証、乙第一号証の一・二・三、同第二号証の一・二・三・四によれば、これらの効果は一般に取付手段として充填接着剤を用いたことによる効果であることが認められる。そして、写真植字機が光学機械の一種であり、光学基礎部品であるレンズの研磨皿への取付など光学部品の取付手段に充填接着剤を使用することが古くから知られた当業者の技術常識であることは当事者間に争いがない。してみると、前記(イ)、(ロ)の効果は従来慣用されている充填接着剤を用いた光学部品の取付手段の効果と何ら異なるところはなく、充填接着剤を文字盤の文字枠への固定に使用したことによる特別の効果ではないというべきである。また、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例においても「文字枠3を起立傾斜させ或は伏倒するも、文字枠より文字盤の抜け出る虞れは絶対になく、従つて持運びその他に便利である。」とあるから、前記(ハ)、(ニ)の効果は引用例のように固定用の挾持具を用いる方式と比べて特段の効果ということはできない。
(二)、(原告主張(二)について)本願考案が引用例のものに比べ、文字盤を文字枠により簡単・正確に位置規正をしつつ装填することができる効果があることは当事者間に争いがない。しかしながら、写真植字機が光学機械の一種として同じ技術分野に属することはいうまでもなく、そして光学部品の取付手段として充填接着剤を用いることが周知であることは、前記認定のとおりであるところ、前掲乙第一号証の一・二・三によれば、「レンズの研磨において心出しをする場合、黄銅管の一端にレンズの一側面を固定するために接着剤としてオリーブ油または蜜蝋をまぜた松脂のような接着剤を用い、この際心取機の廻転軸とレンズの光軸とが合わなければ接着剤をブンゼン燈で暖めて軟くしてずらせて直す」、との記載があるから、本願考案の上記のような効果は、取付手段として充填接着剤を用いる周知技術が有する作用効果と同一であつて、文字盤の文字枠への取付手段としての特有の効果ということはできない。
なお、原告は本願考案が固定後充填接着剤を軟化させ、再度の位置更正が可能で文字盤の文字枠への固定・取外しが容易である点において引用例と作用効果上の差異がある旨主張するが、この効果は、用いる充填接着剤が温度上昇によつて軟化する性質のもので実施しなければ生じないものであるところ、本願考案は考案として組合せる物品としての充填接着剤をそのような材料のものに限定していないことがその実用新案登録請求の範囲の記載から明かであるから、本願考案の作用効果とすることはできない。
(三)、以上のとおり、本願考案の作用効果として認められるものは、いずれも引用例および従来慣用の充填接着剤を用いる取付手段から予測できる範囲を出ないものであつて格別顕著なものということはできないので、原告の主張は採用することはできない。
二、よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却する。
〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。
すでに文字などの施されている文字盤を文字枠にその位置を正確に規正しつつ装填し、文字盤と文字枠との四隅の間隙に充填接着剤を埋込み文字盤と文字枠とを固定してなる写真植字機における文字枠