東京高等裁判所 昭和52年(う)1425号 判決
被告人 塩井清従
〔抄 録〕
各所論は、要するに、本件駐車禁止の標識は生い茂る草木に遮られて見通しが悪い状態にあり、かつ本件当時、付近には多数の自動車が駐車していて被告人が通常の注意を尽しても右標識を確認することはできない状況にあったのに、被告人に対し確認義務を怠ったとして本件過失による駐車禁止違反の有罪の事実を認定した原判決には、この点において事実誤認のかしがある、というのである。
各所論に鑑み、記録及び原審取り調べの証拠を検討すると原判決がその挙示引用の関係証拠により被告人に対し原判示有罪の事実を認定した措置は、優にこれを首肯することができる。すなわち、関係証拠、就中、司法警察員作成の昭和五二年一月一〇日付実況見分調書、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書等によれば、被告人は本件当日普通乗用自動車を運転して本件道路を国道一号線の方向から永田町方向に向けて現場に至り、転回して本件駐車禁止場所に駐車したのであるが、本件道路は幅員五・六メートルの狭い道路であって、被告人車が駐車した地点の約六三・五メートル国道寄りの南側(国道に向けて左側)路端には同方向に進行する車両に対する駐車禁止の標識(前記実況見分調書のA標識)が、更にA標識から永田町寄り約九五・五メートル南側路端に同様の標識(同調書のB標識)がそれぞれ設置されており、またA標識とほぼ相対する位置の北側路端には永田町方向に進行する車両に対する駐車禁止の標識(同調書のC標識)が、更に被告人が駐車のため前記のように転回を開始した辺りの北側路端にも同様の標識が設置されていること、右の各標識は直径〇・六メートルの円形をなし、地上からの高さ一・九五メートルの支柱に取り付けられているものであること(したがって最上部の地上からの高さは二・五五メートル)、被告人は本件現場に至るまでに道路北側の駐車禁止の標識についてはこれを現認しているのであるから、走行中前方注視を尽せば前記C標識を認識する際、前記道路状況に鑑み、道路南側にも全く同じ型体のA標識が裏向き、すなわち永田町の方に向いて設置されていることは認識しえたはずであること、したがって被告人が転回して道路南側に駐車する際、仮に所論のように、被告人車の前後に大小の車両が既に駐車していて、被告人の位置からは現実にA標識が見えないような状況であったとしても、自動車運転者としてはA標識を認識しうる場所まで至って、本件現場が駐車禁止場所であるかどうかを確認すべき義務があったこと、しかして被告人は右注意義務を怠って本件駐車違反の挙に出たことの各事実が明らかであり、原判決には所論の事実誤認を疑うべきかどは毫も認められないから、論旨は理由がない。
(木梨 時国 佐野)