大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(う)2413号 判決

被告人 松本榮毅 外一名

〔抄 録〕

そこで、本件改造けん銃所持の経緯について検討すると、被告人松本の司法警察員に対する昭和五二年二月二一日付、同年二月二二日付及び同年三月一日付各供述調書、相被告人堀江の司法警察員に対する同年二月二二日付及び同年二月二三日付各供述調書、被告人両名の原審及び当審公判廷における各供述並びに当審における証人小島猛及び同鬼沢卓司の各供述を綜合すれば、次の一連の事実を認めることができる。

すなわち、被告人松本は、昭和五一年五月一五日ころ、同被告人が前件で東京拘置所に在監中に知り合った極東組幹部の小島、同人の内妻及び小島の輩下らから、小島が麻薬事件で四谷警察署に留置されているが、同署からけん銃一挺を提出すれば交換に釈放するといわれているので、けん銃を都合して欲しい旨を依頼され、そのころベレッタ型モデルガンを改造してけん銃一挺を作り、かねて網走刑務所で受刑中に知りあった友人である相被告人堀江を介して、これを小島の輩下に渡した。その数日後に、被告人松本は、釈放をうけた小島から喫茶店に呼び出され、同人から極東組の四代目を継ぐ襲名披露の費用を作るためけん銃をまわしてもらいたい旨を要求され、いったんは返答を保留したが、同月末ころ小島から再度呼び出されて前同様に要求された。その際、被告人松本は、小島から特段の暴行、脅迫を受けるようなことはなかったものの、極東組の威勢を示す新聞記事等を見せられて威圧を感じ、小島の要求に応じてけん銃をまわすことを承諾した。そこで、被告人松本は、相被告人堀江と相談のうえ、けん銃の改造場所として寿マンションの一室を借り受け、小型旋盤など改造用工具及びベレッタ型モデルガン三〇挺を購入し、部品の一部は町工場に注文し、前示のような方法で、モデルガン改造けん銃一五丁を製作した。

そして、被告人松本は、同年六月一九日午前八時ころ、相被告人堀江を介して右改造けん銃のうち五挺を小島に渡し代金一〇〇万円を受け取り、更に同日午後一一時ころ、相被告人堀江が残りの改造けん銃一〇挺を持って取引に赴いたところ、同被告人は、小島及びその輩下らによって車に連れ込まれ、小島の事務所である片岡ビルの一室に拉致され、ロープで手足を縛られ、殴る蹴る等の暴行を加えられ、次いで翌二〇日午前四時ころ、被告人松本も小島らから同所に呼び出され、先に渡した改造けん銃が良い品でなく恥をかいた、この責任をどうとるのか等と脅かされ、同所及び清水ビル内の小島方居室に監禁されて、前示改造けん銃五挺の代金一〇〇万円を回収されたほか金品を奪われ、更に、これだけではすまない、一〇〇万円を用意しろ、すぐ金はできないだろうからけん銃を作ってよこせ等と要求されたうえ、翌二一日午前零時ころようやく前示監禁場所から解放されたものの、寿マンションに帰った相被告人堀江には小島の輩下が見張りにつき(自宅に帰った被告人松本についてはそのようなことはなかった。)、同日から被告人両名は、寿マンションで小島の輩下の監視のもとに改造けん銃九挺を製作したが、同月二三日ころ警察官がいわゆる家庭訪問に訪れたのを機として、小島の輩下に改造けん銃七挺を渡し、寿マンションから逃れ出るに至った。(なお、残りの改造けん銃二挺は、被告人両名が右マンションを逃れ出る際に、前示のとおり被告人松本が相被告人堀江にその護身用として渡し、同被告人が自宅に持ち帰って所持していたものである。)

以上の経緯にかんがみると、まず、被告人松本が、小島から要求されて前示改造けん銃一五挺を製作した際には、小島から新聞記事等を見せられて威圧を感じたことはあるにしても、特段の暴行、脅迫を受けるようなことはなかったのであって、切迫した法益侵害の危険がある状態にあったとはいえないから、刑法三七条一項にいう「現在の危難」が存したとは認められない。次に、引き続き前示改造けん銃九挺を製作した段階においては、被告人松本は、前示のとおり、相被告人堀江ともども、小島らによって暴行、脅迫、不法監禁されており、いったん解放されたものの、相被告人堀江には小島の輩下が見張りについている状態であって、もし小島らの要求に応じない場合には、被告人松本又は相被告人堀江の生命、身体、自由等に危害を加えられる切迫した危険がある状態にあったことが窺われるのであって、刑法三七条一項にいう「現在の危難」が存し、被告人松本としては、右危難を避けるため前示改造けん銃九挺を製作したものと、一応いうことができるが、しかし、被告人松本が、小島らから前記のように解放されて二一日午前零時ころ自宅に帰った以後の段階において、直ちに警察、特に四谷警察署以外の署あるいは検察庁に被害を通報して被告人両名の保護ないし小島らの検挙を求める等他に適切な逃避の道をとる余裕は充分あったのであるから、被告人の本件行為をもって同条項にいう「止むことを得ざるに出でた」ものと認めることはできない。

(藤野 新関 渡辺)

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