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東京高等裁判所 昭和52年(う)264号 判決 1977年5月18日

被告人 野上博

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人斎藤正義作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意中法令適用の誤りの主張について

論旨は要するに、被告人が原判示第一(業務上過失傷害)、第三の一、二(救護義務違反、報告義務違反)の各犯行につき自首したのにかかわらず、自首減軽をしなかつた原判決には、法令の適用の誤りがある、というのである。

しかし、記録によると、被告人は本件事故の翌朝熊谷警察署に出頭して右各犯行を同警察署警察官に申告したものの、その際には既に本件事故の目撃者によつて通報された加害車両の番号により、被告人が同車両の所有者であることは、同警察署に判明していたことが認められ、このようにいわゆるひき逃げ事故の犯人が加害車両の所有者である場合にあつては、特段の事情のないかぎり、右所有者の氏名が官に判明した時点において、犯人が官に発覚したものと解するのが相当であり、更に進んで官が加害車両の現実の運転者を確知することまでを要するとの所論の見解には左袒できない。したがつて本件は刑法四二条という自首に該当せず、論旨は理由がない。

控訴趣意中量刑不当の主張について

しかし記録によつて認められる本件各犯行の罪質、動機、態様、ことに本件は、被告人が無免許であるのに、敢えて普通乗用自動車を所有し、これを運転中、前方不注視という一方的過失により自車を信号待ちのため停止中の前車に追突させて、いわゆる二重衝突事故を惹起し、前車の運転者及び前々車の同乗者一名に加療約一週間及び全治約一か月を要する各傷害を負わせながら、救護義務及び報告義務に違反してそのまま現場から逃走したという事案であつて、その犯行態様が悪質であること、被告人は、傷害、暴行による罰金刑の前科三犯のほか、道路交通法違反(無免許運転、酒酔い運転等)による罰金刑の前科三犯を有しており、ことに昭和四六年一一月交通違反により自動車運転免許を取り消されながら、その後無免許運転二犯を重ね、さらに本件各犯行に及んでいることなど、諸般の情状に徴すれば、その犯情は軽視を許されないものがあり、当審における事実取調の結果を合わせ、前記のとおり被告人が事故の翌朝本件各犯行を自発的に警察官に申告したこと、原審当時各被害者との間に示談が成立し、各被害者から原審に宛て被告人に対する寛大な処分を望む旨の嘆願書が提出されていることのほか、被告人の反省の情など、被告人に有利な諸事情を十分斟酌しても、原審の量刑はやむをえないものと認められる。論旨は理由がない。

よつて刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田一郎 高山政一 南三郎)

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