東京高等裁判所 昭和52年(う)2879号 判決
被告人 小林ハル
〔抄 録〕
刑法一一〇条一項の、いわゆる建造物以外放火の罪は規定の形式からも明らかなように結果的加重犯と解せられ、本罪の故意としては、火を放って同条所定の物を焼燬する認識があれば足り、公共の危険を生じさせる認識のあることは必要でないと解するのが相当であるから、原判決挙示の証拠によって認められるように、蓋をした電気洗濯機の上に覆ってあったビニールクロス様のものに放火しようと決意し、これにライターで点火し、そのビニールクロスと電気洗濯機を炎をあげて燃え上らせて焼燬した以上、その火が右洗濯機下のビニールござ及び洗濯機から約三六センチメートル離れた、川口英子ら八世帯家族の居住するアパート西沢荘の窓外側のビニール製防虫網等に燃え移り、右アパート建物にも延焼するおそれのある状態が生じたことについて、被告人に予め認識がなかったとしても、被告人に対し、本罪の成立を認めることができるものというべきであるが、被告人の捜査官に対する各供述調書、ことにその検察官に対する昭和五二年五月一二日付、司法警察員に対する同月一三日付各供述調書によれば、被告人は、本件当夜西沢荘に住む長女の川口英子を訪ねたが、折合いが悪く部屋に入れてもらえず、隣室の三瓶和吉の取りなしで同人方で英子と会ったが、喧嘩になり、三瓶から戸外に押し出され靴も放り投げられたので、ライターをともして靴を捜し出したが、その際、英子方入口前に建物に接して置いてあった電気洗濯機の付近も調べ、その後ろ側や横にビニール製ござ、ポリエステル製のバケツ、空瓶を入れた木箱等が放置されていることも判ったので、電気洗濯機の上にかけてあったビニールクロス様のものをつまんで点火した際、それがビニールござなどに落ちて燃えるのではないかと思った旨供述しているのであるから、被告人は前示のようにビニールクロス様のものに点火する際、多数の人の居住する建物に近接した場所で、右ござ等にもえ拡がること、即ち公共の危険を惹起するに至るであろう事情についても認識していたと認められる。所論は、被告人の右各供述調書の供述部分は捜査官に迎合した、真意に添わないものである旨縷々主張するのであるが、川口英子、三瓶和吉の各司法警察員に対する供述調書に照しても、被告人が当夜三瓶方から戸外に出された事情等についての供述は正確であり、その他本件犯行に関する一連の供述も自然であり、その他捜査官に対し迎合した供述をすべき理由も認められないから、右主張は採用できない。そうとすると被告人の本件犯行に対する原判決の法令の解釈適用には誤りはない。
(小松 千葉 鈴木)