大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(う)387号 判決

一 弁護人は、当審弁論において、被告人の自白のうち被害者を殺害した動機に関する部分、犯行ののち被告人が昼寝をしたり、銭湯に行つたりしたという部分、被害者を刺した凶器であるとする包丁及びその死体損壊に使用したとする果物ナイフのその後の使用状況や処分に関する部分並びに被害者の死体を運搬するのに使用した箪笥の引出し様木箱のその後の処分に関する部分などには、その自白内容自体に不自然な点があるばかりでなく、これらの点について原判決の説示するところには全然説得力がない旨主張しているが、被告人の自白のうち被害者を殺害した動機に関する部分、被害者を殺害したのち被告人が六畳間の炬燵に入つてひと寝入りしたという部分、果物ナイフを死体損壊に使用したとしながら、別に汚い物を切つたわけではないという理由で犯行後もこれを炊事に使つていたという部分などについては、原判決もこれを信用し難いとしているのであり、また、その理由として原判決が説示しているところには十分な合理性が認められるとともに、被告人の自白のうち、死体損壊の時期との関係でその前後のいずれであつたかは別として、被告人が被害者を殺したのち銭湯に行つたとする部分、被害者の殺害に使用した包丁のその後の使用及び処分並びに被害者の死体を運搬するのに使用した箪笥の引出し様木箱の処分に関する部分については、その自白内容にこれを措信し難いとする程不自然な箇所はなく、右包丁や木箱の処分に関する被告人の自白が信用できる所以について原判決の説示しているところも、弁護人が強く論難している箇所を含めて、十分これを肯認することができる。

以上を要するに、被告人の自白の信憑性を争う所論はいずれも首肯するに足りず、被告人の自白には前記のようにその一部に信用できない点のあることは既に指摘したとおりであるが、凡そ犯人が犯行を自白するに際し、常に必らずしも全面的に真実のみを供述するとは限らず、犯行の大筋についてはほぼ事実を正直に述べながら、なお自らの自尊心を傷つけないためとか、あるいは自己の立場を少しでも有利にしたいなどの考慮から、犯行の動機や方法などその一部について嘘言をまじえて供述する場合の希でないことは経験則上容認し得るところであるから、被告人の自白の一部分に信用できない点があるからといつてその全体の信用性を疑うのは当を得ないというべきであり、以上検討の結果によれば、本件各犯行の主要な部分については被告人の自白はなお信用できるとした原判決の判断はこれを肯認することができる。

二 所論は、原判決が本件殺人の動機を如何なるものとして捉えているか皆目不明であるから、かかる事実認定は違法であると主張しているが、原判決が、本件殺人の動機について、被告人が自白する被害者殺害についての動機には疑問があり、これをそのまま信用することはできないとし、痴情関係あるいは金銭関係が本件殺人の真の動機と考えられると説示するだけで、窮極的にその動機が如何なるものであるかを特定判示していないことは所論の指摘するとおりであるけれども、そもそも犯罪の動機は有罪の判決に示すべき罪となるべき事実には該当しないのであつて、これが証拠上明らかである場合には、主文のよつて生ずる量刑の理由をも示す意味で、判文上犯罪の動機を明確にすることが妥当なことはいうまでもないが、証拠上真の動機を確定し難いときにまでその動機を特定して判示する必要はなく、この意味で原判決が本件殺人の動機を特定判示しなかつたことには十分理由があると認められるから、この点についても原判決の事実誤認には所論のいうような違法は存しない。

三 所論は、原判決の死体損壊の事実認定が訴因を逸脱している旨主張しているところ、死体損壊の事実について、訴因がその犯行日時を昭和五〇年一月一二日午後一〇時ころとしていたのに、原判決はその時刻を右同日午後二時ころ被害者を殺害した直後と推認せざるを得ない旨説示し、罪となるべき事実としてはその時刻を限定しないまま単に昭和五〇年一月一二日と認定判示し、死体損壊の凶器についても、訴因がナイフを用いたとしていたのに、原判決は被害者を殺害するのに使用した包丁を用いた旨認定判示しているのであるが、訴因と原判決の事実認定との間にみられる右の差異が本件死体損壊の基本的事実関係や法律構成に変更を来たすものでないことはもとより、原審において、被告人が死体損壊の犯行を全面的に否認していたこと及び弁護人が、被害者の死体が損壊された時刻及び死体損壊の凶器について、原判決の認定とほぼ同旨の主張をしていたことを考え合わせると、前記差異は被告人にとつて死体損壊の訴因に対する防禦方法を基本的に修正する必要を生ぜしめるものともいえないから、その差異が訴因の同一性を害するとは考えられないし、弁護人が訴因に対する防禦方法として主張していたところがたまたまその点についての原判決の事実認定と合致したからといつて、その事実認定が不正義極まるものであるなどともいえないのであつて、原判決の右事実認定に所論のいうような違法は存しない。

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