大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(う)524号 判決

被告人 金正雄

〔抄 録〕

関係証拠によれば、池袋警察署の捜査官は、被告人に面会するため府中警察署に赴いた際菓子を持参したこと、被告人は昭和四九年七月二四日池袋警察署に移監されたが、その後同署看守係は被告人を扱いかねて被告人が留置場内において勝手な振舞いをするのをかなりの範囲で黙認ないし許容していたこと、同署捜査官は同年一〇月初めころ被告人に腕時計一個を贈り、府中刑務所に移監(同年一二月二日)後時計バンド一個を差し入れ、翌五〇年一月六日には菓子及び缶詰を差し入れていることなどが認められるのであり、更に証人吉岡一郎が原審公判廷において、被告人は池袋警察署に留置されている間右以外にも種々好意的な取扱いを受けていた旨を供述していることは所論のとおりである。

しかしながら、所論指摘の前記各供述調書はいずれもその任意性を十分認め得るものであって、その理由は既に原審がその判決中において詳細説示しているところにほぼ尽きていると思料される。なお所論にかんがみ補説するに、関係証拠によれば、被告人は、池袋警察署に移監される前から既に北海道における一〇件くらいの窃盗を自供しており、また右移監については捜査官に対し余罪を自供すると云って再三にわたり移監を求めていること、自供の動機については、原審第五回公判において、かって池袋署の警察官から無実の罪を着せられた恨みがあったうえ、また警察が自分を陥れようとしていると思ったので、逆にこれを利用し、法廷ではこれを覆そうという気持もあった旨述べており、他方、鬼沢博久に対し同人が被告人と共謀して犯罪を行なった旨虚偽の自白をするよう依頼した(なお被告人は、原審公判廷で犯行を否認した後、池袋警察署の係官に対し犯罪事実を認めるから弁護士費用を一〇万円送ってほしいとか、あるいは金がなければ事実を争うなどという趣旨の書簡を送っている。)事実が認められること、窃盗、住居侵入等の前科が九犯あるうえ、かなりの法律知識を有しており、利益供与により簡単に自供するとは考え難いこと、被告人の司法警察員に対する各供述調書は被告人が池袋署に移監されて間もない時期(昭和四九年八月一五日まで)に作成されているが、この段階では捜査官は特に問題となるほどの利益供与を行なっていないことなどを総合して考えると、被告人は余罪の追及を受け、自供するなら被告人をかって取調べたことのある池袋署の捜査官の取調べを受けた方が好ましいと考え、自分から進んで余罪を自供する一方、その代償として捜査官から同署内において取調中種々好意的な取扱いをするよう要求し、しかるのち利益供与を受けたことを逆用し、公判廷において自白調書の任意性を争うことを当初から考えていたものと認められるのであって、司法警察員に対する前記各供述調書は、被告人が池袋警察署の捜査官から利益供与を受けたために自供するに至ったものとは認められない。したがってまた、前記検察官に対する供述調書においてもその任意性は十分認められるところであって、所論はいずれも採用できない。

(服部 藤井 中川)

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