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東京高等裁判所 昭和52年(く)330号 決定 1978年1月26日

少年 D・D(昭三四・一二・二三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は少年の保護者D・B、同D・Y子連名提出の抗告申立書に記載するとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

一  審判手続の法令違反をいう主張について。

所論に鑑み、本件の少年保護事件記録(原庁昭和五二年(少)第四二二四号、四二六一号、四三九〇号、四三九一号、一四六五三号)及び少年調査記録を検討すると、少年は、昭和五二年六月二一日窃盗、業務上過失傷害、道路交通取締法違反の非行により、浦和保護観察所の保護観察に付する旨の保護処分を受け、○○○○保護司の担当のもとに保護観察中に更に本件各非行をくり返したことが明らかであるが、所論指摘の少年の処遇に関する保護観察官や保護司の意見については、既に原審の家庭裁判所調査官による調査の時点において、浦和保護観察所から昭和五二年一一月一〇日付の保護観察状況等報告書の提出を受け、これが本件審判の資料として少年調査記録中に編綴されていることに鑑みれば、原審が保護司の意見を聴取せずに本件少年院送致決定をした旨の所論は前提を欠くばかりか、少年に処遇に関し改めて保護司等の意見を聴取すべき必要性を認めず、保護司等に対しその日時等を通知しなかつた原審の措置が裁量権を逸脱した違法不当なものとも認められないから、原決定には所論の審判手続の法令違反のかどはない。

二  処分の著しい不当をいう主張について。

所論に鑑み、一件記録を検討すると、少年は前叙のように窃盗等の非行により保護観察処分を受けたにもかかわらず、それから間もなくの昭和五二年七月下旬ころから多数回にわたり本件各窃盗等の非行を再びくり返したものであつて、非行の態様、被害の結果等に照らし犯情が芳しくないうえ、少年の性格、環境、保護者の保護能力等から認められるべき少年に対する要保護性の点をも考慮すると、社会内処遇によつて少年を矯正することはもはや困難と認めるのが相当であるから、少年と保護司との連絡状況、保護者の現在の心境、少年に対する将来の監督関係、原決定後において数名の被害者に対し被害弁償をしたことなど所論指摘の諸事情をすべて参酌しても、少年を中等少年院に送致した原決定の処分が未だ著しく不当であるとは認められない。

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 木梨節夫 裁判官 時国康夫 佐野精孝)

参考 抗告申立書

申立の理由

第一抗告人

抗告人らは、少年D・Dの父・母であり、D・Bは、大工職である。

第二抗告理由

一 原裁判所における審判手続には、保護処分の決定に影響を及ぼす法令違反がある。

(一) 少年審判規則第二六条は「少年の処遇に関し保護観察官若しくは保護司○○○○○の意見を聴くことを相当と認めるときは、保護観察所○○○にその旨及び意見を聴くべき日時等を通知しなければならない」旨定めている。右規則の趣旨は、審判において少年の保護措置(保護方針)を決定するに際しては広く専門機関の知識を綜合的に活用しその意見を十分に聴取・参酌し、適正な保護方針を決定することにある(ポケット註釈全書「少年法」二〇四頁)。

(二) 少年D・Dは、○○保護司の下で保護観察中であつたが、右○○保護司によると、少年D・Dは、毎月母の抗告人D・Y子と共に保護司の許に赴き、生活状況を話しており、性格も明るく素直で反抗的態度は見られなかつたと話している。原審は、本件処遇に関して○○保護司から意見を聴取すべきであり、同保護司から意見を聴取したならば、保護処分の内容は、少年院送致ではなく、保護観察処分とされていたであろうことは想像に難くない。

しかるに、原審が保護司の意見を聴取せず本件少年院送致を決定したことは決定に影響を及ぼす法令違反であり、取消を免れないというべきである。

二 本件処分は、少年D・Dに対する要保護性の認定を誤つた結果、著るしい不当があり、取消を免れない。

(一) 抗告人らの家庭は、抗告人ら父母が健在で父D・Bは、真面目な大工職であつて、月収は二〇万円、子供は少年D・D(長男)のほか長女(中学二年生)、次男(小学四年生)があり、生活は楽とはいえないがまず普通である。なお、住居は自己の所有である。

(二) 少年D・Dは○○工業高校夜間部に在学中で、昼間は、○○食肉センターに勤務し、月収約八万円を受け取つていた勤労少年である。少年が本件少年院送致の決定を受けることによつて、右高校を放校され、勤務先を解雇されるならば、少年の社会に対する適応性の道を塞ぐものであるばかりか、少年を一層自暴自棄に追いやる危険なものといわざるをえない。

(三) 少年D・Dは前述のとおり、○○保護司の指導を受け、抗告人D・Y子と月に一度は保護司の許に出頭し生活状況を報告していた。保護司は少年の性格が素直で明るかつたと話している。

(四) 今回の事件は、極めて遺憾であるが、これは中学時代の友人によつて少年が巧みに誘われて起したものである。

このため抗告人D・Bは少年を絶えず自己の手許に置いて大工の職業を覚えさせ、監督を強め、少年の保護を整備することとした。

(五) 抗告人らは、昭和五二年一一月二二日の審判において、右の保護方針を述べ、少年に対し在宅の保護処分を強く要請した。しかし原審は、「父の指導は判るが、一緒に仕事をしていない時には監督が及ばない」という意見を述べ本件決定を下した。しかし、この決定は抗告人らが少年に対する保護の整備を軽視するものである。

(六) 抗告人らは少年の非行(窃盗)の被害者に対する被害弁償に現在着手し、社会的批難の緩和に努めている。

(七) 右の如き諸事情を総合するならば原審の少年D・Dに対する本件は、要保護性の基礎事実につき誤認がありその結果著るしい不当を結果したものであり取消を免れない。

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