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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)102号 判決 1978年10月30日

控訴人

佐藤英一

訴訟代理人弁護士

大森清治

被控訴人

小川巖

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金一七一万一、一三〇円及びこれに対する昭和五〇年三月二五日から完済まで年六分の金員を支払え。被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じて五分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

三  この判決は被控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。

理由

一  《省略》

二  次に控訴人の当審における主張について検討する。

(1)  右主張一について《省略》

(2)  右主張二について、

《証拠》および控訴人本人尋問の結果(当審第一回)に前記一認定の事実を総合すると、駿河建設が昭和四六年一〇月四日三島信金と締結した信用金庫取引約定に基づき同信用金庫に対して負担する債務につき、昭和四九年四月一七日、同会社の当時の役員であつた被控訴人(代表取締役)、控訴人、笹原、久保田(以上いずれも取締役)らが、債務元本極度額金一七〇〇万円の範囲で個人として連帯保証をしていたところ、控訴人は昭和五〇年一月二三日、同日現在の同会社の債務金三五五万五、四八〇円を三島信金に弁済したことが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

そうとすれば、その負担部分について特段の主張立証のない本件にあつては、控訴人は右弁済の日に連帯保証人である被控訴人に対し、右金三五五万五、四八〇円の四分の一に相当する金八八万八、八七〇円の求償債権を取得したというべきである。

そして、控訴人が被控訴人に対し、昭和五二年六月一五日の当審口頭弁論期日において、右金八八万八、八七〇円をもつて被控訴人の本訴債権と対当額で相殺する旨意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

ところで、被控訴人の本訴債権は、昭和四九年八月二五日振出、満期日昭和五〇年三月二五日の額面金二〇〇万円の本件一の手形金と、昭和四九年一〇月二五日振出、満期日昭和五〇年二月七日の額面金一八〇万円の本件二の手形金の内金六〇万円とであるから、控訴人が自働債権たる右求償債権を取得した昭和五〇年一月二三日当時には、受働債権は存在していたもののその満期はいずれもいまだ到来していなかつたわけであり、このように受働債権が手形債権である場合には、手形債権者たる被控訴人は満期までは手形を流通させることにつき利益を有し、満期前に弁済を受けることを強制せられるものではない(手形法四〇条一項)から、満期前に相殺適状を生ずることはないものと解するのが相当である。

従つて、本件相殺の効力は、本件二の手形の満期日にさかのぼつて同手形金中被控訴人の請求額金六〇万円につき、次いで本件一の手形の満期日にさかのぼつて同手形金中二八万八、八七〇円(自働債権たる求償債権の金額金八八万八、八七〇円から右金六〇万円を控除した残額)につき生じたものと解するのが相当である。

よつて、被控訴人の本訴債権は、本件二の手形金六〇万円については相殺により消滅し、本件一の手形金二〇〇万円は金一七一万一、一三〇円の限度で残存することになる。

(3)  右主張三について

《証拠》を総合すると、

被控訴人が代表取締役をしていた駿河建設は、昭和四九年七月頃、清水市所在の堀池マンションの請負工事について欠損を出し、その窮状を乗り切るため、同年八月二二日訴外佐野保との間にマンション建設工事を代金二、二〇〇万円で請負い(この事実は当事者間に争いがない)、昭和五〇年一月中旬までに右工事代金の内金二、〇〇〇万円を受領した。一方被控訴人は昭和四九年八月一二日に代表取締役を辞任し、同年一一月二一日同会社の主取引銀行である三島信金に対し、以後同会社に対する新規の融資については一切個人保証をしない旨を通知した。同会社は同年一一月に第一回目の不渡手形を出し、さらに昭和五〇年一月二五日に第二回目の不渡手形を出して倒産し、その結果佐野マンションの建設工事も中止されたので、佐野は、残存工事を他の業者に依頼してこれを完成させ、そのため当初の請負工事代金の外に他の業者に対する工事代金を追加出捐させられ、損害を蒙るに至つた。そこで佐野は右追加工事代金の内金一四〇万円につき控訴人に対しその賠償を求め、控訴人は昭和五二年一二月三〇日までに右金員を賠償支払いした。

以上の事実を認めることができ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

しかしながら、右認定の事実に被控訴人本人尋問の結果(当審)を総合すると佐野マンション建設工事請負契約締結当時被控訴人は既に駿河建設の代表取締役を辞任し、右契約及び工事は主として控訴人が担当して行なつたものであり、被控訴人が同会社の倒産を右契約締結当時当然予期し、あるいは予期すべき事情があつたとは認められず、また、被控訴人が代表取締役を辞任し、かつ三島信金に対し新規の融資につき個人保証しない旨の通知をしたことが同建設の倒産に至つた原因であると認むべき証拠はないから、他に特段の事情の認められない本件にあつては、被控訴人に右金一四〇万円の賠償支払いにつき商法二六六条の三に基づく責任を肯定することはできないというべきである。従つて、控訴人の主張三は採用しない。

三  よつて、被控訴人の本訴請求は、本件一の手形金の内金一七一万一、一三〇円とこれに対する満期の日である昭和五〇年三月二五日から完済まで手形法所定の年六分の利息の支払いを求める限度で理由があり、その余は失当として棄却すべきところ、これと異なる原判決を右のとおり変更する

(裁判長裁判官 川島一郎 裁判官 田尾桃二 小川克介)

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