東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1132号 判決 1977年12月21日
控訴人 株式会社泰平物産
右代表者代表取締役 倉澤厚
右訴訟代理人弁護士 青柳健三
被控訴人 高野機工株式会社
右代表者代表取締役 高野元嗣
被控訴人 佐田建設株式会社
右代表者代表取締役 佐田武夫
被控訴人 馬渡平八郎
右訴訟代理人弁護士 橋本和夫
被控訴人 福本政雄
右訴訟代理人弁護士 圓山潔
同 阿部博道
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。控訴人、被控訴人ら間において、別紙目録記載の債権が控訴人に帰属することを確認する。被控訴人佐田建設株式会社は控訴人に対し、金三三六万二、五五七円およびこれに対する昭和五〇年四月二七日以降完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに右金員支払部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人馬渡、同福本の各代理人はそれぞれ控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠の関係は、左記のほか原判決事実摘示(但し、当事者の主張に関しては、原判決三枚目裏七行目から同六枚目表六行目までの記載に限る。)のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決三枚目裏八行目に「本件債権」とあるのを「本件債権(別紙目録記載の債権)」と改め、同四枚目裏四行目に「甲事件」とあるのを削り、同五枚目表三行目の記載を「三、被告らの抗弁」と改める。)。
(控訴人の陳述)
一、原判決六枚目表二行目から四行目にかけて「同被告に対しては右三名ともに債権譲渡に基づく請求権を主張しえないのであって右債権譲渡はいずれも無効であり、」とあるのを「右三名に対する債権譲渡は何れも有効ではあるが自己が譲受債権の権利者であると主張することはできないのであり、」と改める。
二、被控訴人馬渡の後記一、および二、の主張はいずれもこれを争う。
(被控訴人馬渡の陳述)
被控訴人馬渡に関しては、原判決事実欄摘示に記載の抗弁をもって第三次的な抗弁とし、左の一、および二、のとおり、第一次的抗弁および二次的抗弁を追加する。
一、被控訴人馬渡は、昭和五〇年二月二六日被控訴人高野機工から同被控訴人の被控訴人佐田建設に対する本件債権を含む金三、〇〇〇万円の請負代金債権の譲渡を受け、高野機工から佐田建設に対して右同日付内容証明郵便をもって債権譲渡通知がなされ、右通知は翌二七日佐田建設に到達した(控訴人ならびに被控訴人福本が、被控訴人馬渡と同様に、被控訴人高野機工から本件債権の譲渡を受けたという事実はない。)。仮りに、控訴人ならびに被控訴人福本においても被控訴人高野機工から同被控訴人の佐田建設に対する本件債権を含む請負代金債権の譲渡を受けた事実があるとしても、控訴人の高野機工に対する債権はもともと金八〇万円にすぎないうえ、昭和五〇年一月二九日訴外戸田道路株式会社から金五六万三、〇〇〇円の支払を受けたから、残債権は金二三万七、〇〇〇円にすぎなかった。また、被控訴人福本の高野機工に対する債権については、昭和五〇年三月四日馬渡と福本との間で、馬渡が福本に合計金一、〇〇〇万円を代位弁済して、福本の高野機工に対する一切の債権を消滅せしめた。
二、仮りに、被控訴人高野機工が、同被控訴人の被控訴人佐田建設に対する本件債権を含む請負代金債権を控訴人ならびに被控訴人福本に対しても譲渡した事実があるとしても、佐田建設に対する債権譲渡通知は、譲渡人である高野機工がこれをなさず、控訴人ならびに被控訴人福本において、かってにこれをなしたものであるから、これら債権譲渡をもって、佐田建設ならびに馬渡に対抗することはできない。
理由
控訴人と被控訴人高野機工との関係において、控訴人主張の請求原因事実は、控訴人による本件転付命令の取得、従って、これに伴う控訴人への本件債権の移転帰属の点につき《証拠省略》によってこれを認めることができるほか、その余の点については当事者間に争いがなく、控訴人とその余の各被控訴人との関係において、控訴人主張の請求原因事実は当事者間に争いがない。
そこで、被控訴人らの共通して主張する抗弁について判断するに(なお、この抗弁は、被控訴人馬渡に関しては第三次的な抗弁に当るのであるが、裁判所の判断は請求の当否を導くのに必要な限度でなされれば足りるから、後記認定のように、抗弁を容れるときには(予備的相殺の抗弁の場合のほかは)、必ずしも主張の順序にとらわれることなく、いずれか一の抗弁が理由がある旨を示せば十分である。)、控訴人、被控訴人馬渡および同福本が、ともに被控訴人高野機工から本件債権の譲渡を受け、同被控訴人から債務者である被控訴人佐田建設に対する右譲渡の通知が、すべて昭和五〇年二月二六日付内容証明郵便をもって発せられ、翌二七日、同時に右被控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。
これに対して、控訴人は、「右三件の債権譲渡通知が債務者である被控訴人佐田建設に同時に到達したものである以上、右三名に対する債権譲渡はいずれも有効ではあるが自己が譲受債権の権利者であると主張することは許されないから、その後の昭和五〇年三月一九日被控訴人佐田建設に送達された本件転付命令によって控訴人が有効に本件債権を取得したものである」旨主張する。
しかし、債権の譲渡人から債務者に対する確定日付ある証書による債権譲渡の通知が、第三者に対する対抗要件であるとされている趣旨にかんがみれば、本件におけるように、同一確定日付による三件の譲渡通知が、しかも同時に、債務者に送達された場合には、右各譲受人は、互に他の譲受人に対して、自分のみが優先的唯一の譲受債権者であると主張することが許されない関係にあり、従って債務者に対しても同様の主張をすることはできないものの、後順位の譲受人に対する関係においては、先順位の右各譲受人が等しく債権者たる地位を有効に取得したものといい得る筋合であって、控訴人が本件転付命令により本件債権を取得したのは、被控訴人馬渡、同福本に対する前記各債権譲渡の通知が被控訴人佐田建設に送達された後のことに属するから、控訴人は、右転付命令により本件債権を取得した者としては、被控訴人馬渡および同福本に対する関係において後順位の債権譲受人にすぎないものというべく、右転付命令は、既に他へ譲渡され対抗力も具備した債権につき発せられたものとして、これに伴う債権移転の効力を否定される関係にあるというべきである。
従って、本件債権の帰属につき右転付命令の効力が被控訴人馬渡、同福本に対する各債権譲渡に優先することを前提とする控訴人の各請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないものといわなければならない。
よって右と同趣旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 江尻美雄一 裁判官 滝田薫 桜井敏雄)
<以下省略>