東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1483号 判決 1978年1月25日
控訴人
オーケー株式会社
右代表者
飯田勧
右訴訟代理人
久能木武四郎
被控訴人
宇津木栄
右訴訟代理人
堀岩夫
主文
原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二番を通じ、被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
当裁判所は、被控訴人の賃料相当額の損害賠償請求は、理由がないと判断するが、その理由は、次のとおりである。
賃貸借の目的となつている建物が焼失した場合において、右建物の所有者たる賃貸人が賃借人から賃貸借の目的物件の返還義務の不履行を理由として右建物の時価相当額の損害の填補を受けたときには、賃貸人は賃借人に対し、右建物の焼失によつて、得るべき賃料が得られなくなつたことを理由として、賃料相当損害金の賠償を請求することができないものと解するのが相当である。
けだし、賃貸借の賃料は、目的建物の通常の使用、収益によつて生ずべき利益であつて、特別の事情のないかぎり、特別な使用収益によつて生ずべき特別の利益というわけではなく、(本件においては、かかる特別の事情は認められない)、かかる利益は右建物の時価相当額中に包含されていると解するのが相当だからである。
そして、このことは、賃貸人が焼失建物と同様の建物を再築するのに相当な期間が必要であるとしても、焼失建物の時価相当額が填補されている以上、異なることはない(かかるときにも、賃貸人に対し賃料相当損害金の賠償を認めるとすれば、賃貸人は、損害について二重に填補されることになり、妥当を欠く)。
そして、被控訴人が、賃貸借の目的たる焼失建物の時価相当額について填補を受けて、損害賠償請求権が消滅したことは、原判決の説示するとおりであつて(原判決七枚目裏一〇行目から同一一枚目裏一一行目まで参照。なお、この点については被控訴人からの不服申立がないから、当裁判所において、審理、判断するかぎりでない)、被控訴人は、控訴人に対し賃料相当損害金の賠償を請求することができないものである。
そうだとすると、被控訴人の本訴請求はすべて理由がないというべきところ、原判決は一部これと異なることがあるから、これを取り消して被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(安藤覚 森綱郎 奈良次郎)