大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)16号 判決 1978年4月24日

控訴人(原告)

柏崎運輸株式会社

被控訴人(被告)

佐野生コン工業株式会社

ほか一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人に対し、被控訴人佐野生コン工業株式会社は金八〇万円を、被控訴人株式会社水倉組は金一六〇万円をそれぞれ支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを二〇分し、その一を被控訴人佐野生コン工業株式会社の負担とし、その二を被控訴人株式会社水倉組の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

第一  控訴代理人は、「原判決を取消す。控訴人に対し、被控訴人佐野生コン工業株式会社は金九六万円を、被控訴人株式会社水倉組は金五四四万円をそれぞれ支払え。」との判決を求めた。

被控訴人両名の各訴訟代理人は、それぞれ控訴棄却の判決を求めた。

第二  当事者双方の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

(控訴人の主張)

本件事故現場である国道一一六号線は、道幅約七・九メートルのアスフアルト舗装道路で、歩車道の区別はなく片側一車線で巻方面から柏崎方面に向つて、ゆるい右カーブとなつており、見晴橋を頂点として約五度の傾斜をなしており、大型車両の通行が比較的頻繁なところである。本件加害車が衝突したコンクリートミキサー車は、道路交通法上本来駐停車が禁止されている見晴橋頂上近くの坂に巻方面から柏崎方面に向つて左側車線をほぼ中央線付近まで占拠して駐車していたもので、右状態では同所において大型車どうしのすれ違いは不可能であり、大型車両と普通乗用車とのすれ違いも容易でなかつた。同所は巻方面から柏崎方面に向つて左側車線の端には圧雪約三センチメートルが凍結した状態にあり、本件事故当事吹雪で前方の視界が極端に悪く、見通すことのできる距離が約三〇メートルにすぎない状態であり、道路端にある掲示板や道路標識には吹雪のため雪が付着し、その警告する意味内容が不明確になつていた。右のような道路状況及び新潟県地方の冬季の激変しやすい気象状況に照らせば、道路左側を使用して道路工事をなし、工事用の生コンクリートの搬入・積降し作業をする被控訴人両名としては、工事・作業のために設置した道路標識や掲示板がその機能を果さなくなり、同所を通過せんとする車両が右工事・作業中であることに気付かず直進してくることもありうることを予見できるから、このような場合、被控訴人両名は、道路使用区間の前後に誘導員を配置し、交通整理をし、交通の安全をはかるべき注意義務がある。それにもかかわらず、被控訴人両名がこれを怠り、単に工事標識等を設置しただけで工事・作業を続け、本件事故を誘発したものであるから、本件事故については、被控訴人両名にも過失がある。

(被控訴人佐野生コン工業の主張)

被控訴人佐野生コン工業に過失があることは争う。

(当審において付加された証拠)〔略〕

理由

第一  本件交通事故発生の経過及びその態様についての当裁判所の認定は、次のとおり付加するほか原判決理由一項と同一であるので、これをここに引用する。

(1)  原判決七枚目裏三行目の「一四号証」と「によれば」と間のに、「同二七号証並びに当審証人椎谷敬二の証言」を挿入する。

(2)  同一一行目の「国道一一六号線は」を「同所付近の国道一一六号線は土手による台地上にあり、」と改め、同一三行目の「である。」を「であり、国道の両側は空地と田圃で建物は土手下に少数散在するだけで、左右から自動車等が進入する交差路はない。」と改める。

(3)  原判決八枚目裏二行目の「おり、」を「いたものであるところ、本件交通事故発生の日は時々吹雪き、とくに事故直前頃からは吹雪がいつそう激しくなつて見通しが悪くなつたので、水倉組の作業員のなかには自動車の往来による危険を感じ作業の打切りを主張する者もいたが、」と改め、同三行目の「関係上」を「関係上被控訴人佐野生コンの生コンクリート搬入予定もあつて作業を続けることにした。」と改める。

(4)  原判決九枚目表一〇行目末に「また右ポール(点滅灯)は本件事故発生当時点灯していなかつた。」と付け加える。

第二  そこで、右事実関係のもとで、控訴人従業員佐藤敬二(原判決後椎谷と改姓したが、以下旧姓のままで表記する。)、被控訴人水倉組側、同佐野生コン側に、本件交通事故による佐野生コン従業員入沢圭介の死亡について過失があるかどうかについて判断する。

1  当裁判所も佐野敬二に過失責任があるものと判断するが、その理由は原判決理由二項の1と同一であるので、これをここに引用する。

2  被控訴人水倉組側の過失について

被控訴人水倉組は、国道一一六号線の歩道設置工事の施行に際して、工事場所の前方及び後方の道路端に「二〇〇メートル先工事中」の掲示板、「一〇〇メートル先工事中」の掲示板を設け、他に工事内容を表示する掲示板、上り坂の頂上付近の道路端に「徐行」の道路標識を設置し、右工事に用いるため購入した生コンクリートを搬送する被控訴人佐野生コンのコンクリートミキサー車が到来し、生コンクリートを工事現場に降ろす作業をする際にはさらにその車の前後にバリケード、点滅灯等を配置していたものであるが、本件事故発生の際これらの道路標識や掲示板は、吹雪のためその表面に雪が付着して目立ちにくく、これに記載された白色の文字も容易には判別できず、少くともその警告する意味内容は走行中の自動車から確認できなかつたものであり、さらに、ミキサー車の後方二〇メートルの地点に置かれた点滅灯は点灯されていなかつたので、右の点滅灯やバリケードは前記のような吹雪の中ではこれに近接するまで気付くことは困難であり、被控訴人水倉組の施したこれらの措置が、本件事故発生の際、国道の片側車線の通行を完全に妨げる状態で作業が行われていること予告する機能を果していたとは認め難い。そうだとすると、同所付近を通行する車両の運転者が右の道路標識又は掲示板の存在により工事等の道路交通上の障害を予知して減速ないし徐行してくることを十分に期待できる状態ではなかつたものというべきである。なお、柏崎方面へ坂を上つて進行してくる自動車が頂上の見晴橋付近においては道路交通法上徐行すべきものであるとしても、本件交通事故現場の国道一一六号線が新潟県地方の主要幹線の一つであり、空地及び田圃の中のいわゆる一本道で通常交通障害の存在することの考えにくい道路であることなどに照らせば、現実には多くの車両がほとんど減速しないで進行してくる可能性もあることは十分に予期されるところである。したがつて、道路交通法上原則として駐停車禁止区域となつている見晴橋付近の坂道で、吹雪のため視界も充分にきかないときに(新潟県地方では冬季間気象が激変し易く、このような状態が生ずることが稀ではないことは公知の事実である。)工事をしていた被控訴人水倉組としては、自己のために被控訴人佐野生コンのコンクリートミキサー車が生コンクリートの搬入積降ろしをするべく車道上片側車線いつぱいに駐車し、交通に支障を与えているのであるから、工事区間の前後に旗振り人もしくは仮設信号灯を配置して車両の通過の整理・誘導にあたり、もつて交通の安全を確保すべき注意義務があるといわなければならない。本件の場合、被控訴人水倉組が右の注意義務を尽さなかつたものであるが、かかる懈怠は本件交通事故の発生と因果関係のある過失というべきである。

3  被控訴人佐野生コン側の過失について

被控訴人佐野生コンのコンクリートミキサー車は、被控訴人水倉組の道路工事現場において生コンクリートを納入するため駐停車禁止区域である下り坂の片側車線いつぱいに駐車していたものであるが、被控訴人水倉組が前記のように掲示板等を設置するなどして道路工事実施中で交通障害のあることを警告する措置を講じていたといつても、その効果を信頼するに足りない状況にあつたことは前記2に判示したとおりである。このような場合、被控訴人佐野生コンの従業員は、右コンクリートミキサー車の前後に旗振り人もしくは仮設信号灯が配置されていて、車両の通過の整理・誘導等がなされ安全に生コンクリートの積降ろし作業ができるか否かを確認したうえで、同車を駐車し、その生コンクリート納入作業を行なうべき注意義務があるといわなければならない。しかるに、被控訴人佐野生コンの従業員は右の注意義務を尽さず、前記のとおりコンクリートミキサー車を駐車し、右作業を行なつていたものであるからかかる注意義務の懈怠も本件交通事故の発生と因果関係のある過失というべきであり、佐野生コンとしても本件事故の発生につき右従業員の使用者として又は同車の運行供用者としてその責を負わねばならないものというべきである。

4  以上によれば、本件交通事故による被害者入沢圭介の死亡は、控訴人従業員佐藤敬二と被控訴人両名側の各過失の競合によつて発生したものであり、右の各過失の内容に照らすと、右三者が責を負うべき過失の本件事故発生に対する寄与率及び損害賠償責任の右三者間における負担割合は、控訴人側が八五パーセント、被控訴人水倉組側が一〇パーセント、被控訴人佐野生コン側が五パーセントであると認めるのが相当である。

第三  本件交通事故の被害者入沢圭介の遺族である入沢金子他五名の右交通事故による損害額は治療費、葬儀費、墓石費、逸失利益、慰藉料の合計金二、一〇〇万円を下らなかつたこと、右のうち金五〇〇万円は自動車損害賠償責任保険に基づき支払がなされたこと、控訴人が右入沢金子他五名の控訴人に対する損害賠償請求事件(新潟地方裁判所昭和四九年(ワ)第二三八号)において裁判上の和解をなし、それに基づいて合計金一、六〇〇万円を右入沢金子他五名に支払つたことは、控訴人と被控訴人佐野生コンとの間においては争いがない。

成立に争いのない甲五、六号証、同一七号証、同二四ないし二六号証、前掲甲二七号証、並びに右甲二七号証及び弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲一八ないし二三号証によると、控訴人と被控訴人水倉組との間においても、右事実を認めることができる。

而して、被害者入沢圭介の遺族の右損害は、控訴人側、被控訴人両名側の各過失が寄与して発生したものであるから、控訴人が右入沢金子他五名に対して支払つた合計金一、六〇〇万円の損害賠償金については、前記寄与率及び三者間の責任負担割合に応じ、控訴人は被訴人両名に対し求償することができるものというべきである。

従つて、右損害賠償金につき前記の割合により被控訴人水倉組は金一六〇万円、同佐野生コンは金八〇万円を分担すべきであり、右の求償権を取得した控訴人に対し、それぞれ右各金額相当の金員を支払う義務がある。

第四  以上によれば、控訴人の本訴請求は、被控訴人水倉組に対し金一六〇万円、被控訴人佐野生コンに対し金八〇万円の各支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから棄却すべきである。

よつて、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、民訴法九六条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 外山四郎 鬼頭季郎 篠原幾馬)

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