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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)182号 判決 1979年4月26日

控訴人

丸中木材株式会社

右代表者

佐々木正治

右訴訟代理人

中西英雄

被控訴人

坪井稔

右訴訟代理人

鈴木俊二

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴会社代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左記のとおり附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決二枚目表一〇行目の「五〇〇円」を「五〇円」と訂正し、四枚目表九行目の「代表取締役就任をきめ」の次に「ここに丸長木材株式会社は、控訴会社の全株式の譲渡を受け」を加わえる。)。

(控訴会社の陳述)

(一)  被控訴人は、坪井藤吉が控訴会社の全株式を丸長木材株式会社に譲渡した後である昭和四三年二月一九日及び同年三月二九日の各新株発行により株主名簿上控訴会社の株主となつたことになつているが、右新株発行の事実は存在せず、また、仮りに、かかる事実があつたとしても、被控訴人は、その引受けにかかる株式につき現実の払込みをせず、払込期日の徒過により新株引受権も喪失したので、控訴会社の株主とはいえず、本訴につき確認の利益を有しない。

右の主張が自白の取消しに該当する旨の被控訴人の主張を争い、仮りに、それが自白の取消に該当するとしても、右の自白は真実に反し且つ錯誤に基づいてなされたものであるから、右自白の取消しは、許されるべきである。

(二)  また、百歩を譲り、被控訴人が控訴会社の株主であるとしても、控訴会社は、定款所定の会社存立期間の満了により昭和五二年八月二九日解散し、現在清算中であつて、取締役がその地位を喪失しているので、かかる地位を喪失した取締役の選任決議の不存在確認を求める被控訴人の本件訴えは、その確認の利益を欠くものというべきである。

(被控訴人の陳述)

控訴会社が原審において控訴会社の資本金額及び新株をも含めた発行済株式総数についての被控訴人の主張を認めておきながら、当審に至り新株発行の事実がないとか、株金の払込をしなかつたので株主になつていない等と主張することは、明らかに、自白の取消しであり、該自白の取消しには異議があり、右自白を援用する。

なお、被控訴人は、新株の株金払込を現実にしたが、もともと控訴会社としては、自らかかる商法違反の行為をしておきながらそのことを自己の利益に援用するがごときことは許されないものというべきである。

(証拠関係)<略>

理由

当裁判所も被控訴人の控訴会社に対する本訴請求は認容すべきものと判断するのであるが、その理由は、左に附加するほか、原判決の説示理由と同一であるので、ここにこれを引用する。

(一) 控訴会社が原審第二回口頭弁論期日において控訴会社の資本金は二七三万円、発行済総株式は五万四、六〇〇株、一株の金額は五〇円である旨の被控訴人の主張を認めたうえで、被控訴人は形式上一万三、〇〇〇株を所有していることになつているが、実際はその株式はすべて被控訴人の父坪井藤吉のものである旨を附陳したことは、記録に徴して明らかである。ところで、被控訴人の株主資格の有無が争われている本件訴訟において、右のごとく被控訴人名義の分も含めた控訴会社の全株式が有効に発行・存在するとの事実は、自白の対象となり得るものというべく、したがつて、控訴会社が当審に至り前叙のごとく全株式のうち新株に限り発行の事実がないとか、株金が払込がなされていないと主張することは、自白の取消しに該当するものというべく、これに対して被控訴人が直ちに異議を述べたことは、記録上明らかであるところ、右自白が真実に反し且つ錯誤に基づいてなされたものであることを認めるに足りる証拠はなく、却つて、<証拠>によれば、控訴会社は昭和四三年二月一九日及び同年三月二九日の二回にわたり新株を発行し、右増資により、発行済株式総数及び資本金の額が現在のようになつたのであるが、被控訴人はそのうちの一万三、〇〇〇株を所有し、株主として処遇されてきたことが認められる。

されば、控訴人の右自白の取消しは、許すべからざるものといわなければならない。

(二)  また、控訴会社は、存立期間の満了により取締役がその地位を喪失したので本件訴えは確認の利益を欠くと主張するけれども、会社は解散しても清算目的の範囲内では存続し(商法四三〇条一項、一一六条参照)、定款の規定による清算人または株主総会の選任による清算人がないときは、取締役が当然清算人となることとなつておる(同法四一七条参照)ので、定款の規定による清算人または株主総会の選任による清算人がある旨の主張・立証のない本件訴訟において解散前の取締役及び監査役の選任決議の不存在確認を求めることも、その利益がないとはいえない。

よつて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(渡部吉隆 浅香恒久 中田昭孝)

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