東京高等裁判所 昭和52年(ネ)2139号 判決
一 当裁判所も、控訴人の本訴各請求をいずれも理由がないものと判断するものであり、その理由は、つぎの(一)ないし(五)のとおり附加・訂正するほか、原判決理由欄記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(一) 原判決一五枚目表一〇行目に「大きさ」とあるのを、「太さの棒材が一本だけ係合可能な各種の大きさ」と訂正する。
(二) 同一五枚目裏四行目に「前記一方の」とある前に、「前記2枚のカムの位相をずらすことにより、」と附加する。
(三) 同一六枚目裏一行目に「一方のカム」とあるのを「他方のカム」と、同一七枚目裏七行目に「大きさ」とあるのを「太さ」と、それぞれ訂正する。
(四) 同一八枚目裏末行の次行以下として、つぎのとおり附加する。
「(1) 控訴人は、本件考案の一方のカム12の複数個の凹部15は棒材が特定されると係合機能をもつか、あるいは閉鎖機能をもつかのいずれかに決定されるもので、係合機能のみをもつものではない旨の主張をするが、右にいう閉鎖機能が、一方のカム12の被加工材の径に応当する(換言すれば選択された)凹部より小さい凹部に、選択すべき棒材を完全には収容しえないという意味であれば格別、選択すべき被加工棒材の径より小さい凹部についても被加工棒材が入ろうとすることに基づく騒音発生や送り作用の不円滑化を招く要因をなすであろうことがその構成上明白であり、ことに、一方のカム12の各種の大きさの凹部15a、15b……15xの相隣るものは、大きさの順に配列されるのが普通であろうから、その場合には応当する凹部15xとその隣位の凹部との大きさが近似しており、右隣位の凹部にも選択すべき被加工棒材が半分近く進入する可能性があり、してみれば応当する凹部15xより小さい凹部15といえども、それが開放されている限り、棒材の受入れ機能を全くもたないもの(換言すれば、同凹部自体が閉鎖機能をもつもの)とはいえない。
(2) 控訴人は、他方のカム13の凹部17が、一方のカム12の応当している凹部15xと、それより小さい凹部との両方に同時に対向していても被加工棒材を係合することには何らの支障も生じない旨の主張をするが、右にいう支障が、一方のカム12の応当している凹部15xより小さい凹部に、選択すべき被加工棒材が完全には入らないという意味であれば格別、右凹部15xより小さい凹部についても選択すべき棒材の少なくとも一部は入ろうとするものであるから、それに基づく騒音発生や送り作用の不円滑化を招くこと前示のとおりであり、明細書中にそのようなものを含む旨の記載のないことは勿論、その示唆もないばかりでなく、かえつて、応当する凹部15x以外の凹部15の全部を閉塞した実施例のみが記載されているにすぎないから、応当する凹部15x以外の凹部と同時に対向するような凹部17までは、本件考案の「対向」が意味するものとは解することができない。
(3) 控訴人は、本件考案における右両凹部の対向が、一対一以外の対向を含むものと解すべき理由として、本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲に、他方のカムには外周に前記各種の大きさの凹部のうち一番大きいものに等しい凹部だけに留まらず、それ以上の大きさの凹部を穿設したものも含む旨の記載のあることを挙げ、また、他方のカム13の凹部17は必らずしも被加工棒材と接触しないかたちで係合して一方のカム12に同調するものであるからその意味ではいくら大きくしてもよいこと及び一方のカム12の凹部15xに他方のカム13の凹部17を対向させ易くなることを挙げている。
なるほど、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「他方のカムには外周に前記各種の大きさの凹部のうち一番大きいもの……以上の大きさの凹部を一個だけ穿設し」(本件公報第二頁右欄一七ないし一九行)と記載されていることが認められるから、この記載のみからすれば、他方のカム13の凹部17が一方のカム12の複数個の凹部と同時に対向するものをも含むものと解しうること、他方のカム13の凹部17は被加工棒材と必らずしも接触するものではないこと及び他方のカム13の凹部17を一方のカム12の凹部15より大きくすれば、一方のカム12の選択された凹部15xとの対向を、そのような大きさの関係にないものを対向させた場合より容易にできること自体には誤りがないとしても、実用新案登録請求の範囲は勿論、発明の詳細な説明中にも、他方のカム13の凹部17が一方のカム12の凹部15の複数個と同時に対向するものであつてもよい旨の具体的な記載がないばかりでなく、その示唆すらなく、また、仮に他方のカム13の凹部17を一方のカム12の凹部15の二個以上と同時に対向する大きさとした場合においても、一方のカム12の選択された凹部15xとの整合までを不要とするものではないから、そのようにすることの調整効果が格別のものとは解しえないばかりでなく、明細書中には「被加工材の径に応当するカム12の凹部例えば15xをカム13の凹部17と重ね合せた上……固定する。このときカム12の他の凹部15は、カム13の外周によつて全て、閉塞状態となつているので、被加工棒材は前記凹部15xのみに係合可能状態となつている。加工に当りモータ5を始動すると……カム12、13が回転する。凹部17及び15xが、送り板1の下方に至ると被加工棒材Aが一個……落下し係合する。カム12、13は棒材Aを保持したままガイド18に沿つて矢印(図面にはないが、時計方向の矢印と見られる。)方向に回転し、」(本件公報第一頁右欄二九行ないし第二頁左欄二行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、本件考案の明細書記載の実施例に関する限り、カム12の選択された凹部15x以外の凹部が全部閉塞されていることにより円滑な棒材の選択送りを行えるようにしたものと解され、明細書にはこれ以外の実施例の記載がないばかりでなく、他の構造、ことに選択された凹部以外の凹部15が開放されていてもよい旨の記載は全くなく、かえつて、選択された凹部15xより大きい凹部15が開放されていれば、そこに被加工棒材が落下することになり、また、選択された凹部15xより小さい凹部15が開放されている場合においても、被加工棒材がその開放された凹部15に落下しようとするために騒音を発することをはじめ、送りを不円滑にする要因をなすことが明らかであり、そのようなものまで本件考案が意図するものとは到底解しえない。
(4) なお、棒材自動供給装置において、カムを往復回動させるものが例えば甲第三、四号証に記載されているように本件考案の出願前周知であつたことから、本件考案がそのような往復回動型棒材自動供給装置をも対象とするという控訴人主張自体に誤りはないとしても、明細書・図面中に他の実施例についての記載のなされていない本件考案については、明細書・図面に実施例として記載されたカム12・13をそのまま転用できるようなカム装置であれば格別、その一部すなわち、他方のカム13の凹部17を一方のカム12の複数の凹部15と同時に対向する程大きくしたものまで包含するものとは解し難い。何故なら、そのようなカム12・13からなるものを、回転型棒材自動供給装置に用いれば、前示のように選択した凹部15x以外の凹部でも棒材を受け入れ又は受け入れようとし、円滑な棒材の自動供給をなしえないことがその構成上明らかであり、そのようなものまで本件考案の明細書に開示されているものとは解しえないからである。
(5) 控訴人は、二枚のカムを重ね合せた場合、一方のカム12の応当している凹部より大きい凹部だけを、また、前記凹部の一部のみが送り板(送り棚)の下端部を通過する設計の場合はその凹部のみを閉塞するだけの外周を他方のカム13は有しておればよく、他方のカム13の凹部17は一方のカム12の応当している凹部15xを含み、前記応当している凹部より小さい複数個の凹部と同時に対向していてもよい旨の主張をする。
一方のカム12の応当している凹部より大きい凹部だけを他方のカム13の凸部で閉塞すれば、カムを回転させた場合においても加工棒材の自動供給をしうることを否定することはできず、また、送り板の下端を通過しない凹部に加工棒材の入る可能性はないから、送り板の下端を通過する一方のカム12の応当する凹部15xと共に、通過しない凹部15に、同時に他方のカム13の凹部17を対向させても、被加工棒材を送りうるか否かの点では差がないことにおいては、控訴人主張に誤りはないが、本件考案の明細書中には、そのような構成のものであつてもよい旨の記載も示唆もないから、それらのいずれにも適用しうるものであれば格別、それらの一方即ち一定角度(三六〇度未満の)往復回動する型式のものには適用できるが、所定方向だけに回転する型式のものには適用できないというものまでも、本件考案が対象とするものとは解しえない。
(6) なお、一般に「対向」というときには、一対一の対向だけでなく、その一方又は双方が複数と対向するものも含まれるといえるから、それを前提に本件考案の実用新案登録請求の範囲を見る限り、他方のカムの凹部が、一方のカムの応当する凹部15xとそれ以外の凹部とに同時に対向するものを全く排除するといえるか否かは必らずしも明確ではないが、明細書中にはそのようなものであつてもよい旨の記載がないばかりでなく、仮にそのようにすれば、必らずしも円滑な送り作用を奏しないものを含むことになり、そのような不都合が、棒材自動供給装置に許容されるものとは考えられず、本件考案はそのような不都合を生じないもののみを意図するものと解するのが自然であるから、本件考案にいう対向は、結局、他方のカムの凹部が一方のカムの応当する凹部一個だけに一対一の対向をすることを意味するものと解さざるをえない。」
(五) 同一九枚目裏一行目に「一方」とあるのを「他方」に、同二行目に「他方」とあるのを「一方」に、それぞれ訂正する。
二 よつて、本件控訴を棄却する。