東京高等裁判所 昭和52年(ネ)2369号 判決 1979年7月19日
控訴人(原告)
稲葉正司
ほか一名
被控訴人(被告)
栃木県運輸農業協同組合連合会
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人らは、各自、控訴人稲葉正司に対し、金六四万八〇六三円及びうち金五八万八〇六三円に対する、被控訴人栃木県運輸農業協同組合連合会にあつては昭和五一年一月二八日、被控訴人小平松吉にあつては同月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員、控訴人稲葉リヨに対し、金五四万八〇六三円及びうち金四九万八〇六三円に対する右各同日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を被訴訟人らの、その余を控訴人らの各負担とする。
三 この判決は、第一項の1に限り、仮に執行することができる。
事実
一 申立て
控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは、各自、控訴人稲葉正司に対し、金七六五万六三一〇円及びうち金六九六万六三一〇円に対する、被控訴人栃木県運輸農業協同組合連合会にあつては昭和五一年一月二八日、被控訴人小平松吉にあつては同月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員、控訴人稲葉リヨに対し、金七二〇万二三一〇円及びうち金六五五万二三一〇円に対する右各同日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
二 主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示のとおりである(ただし、原判決事実摘示中「亡稲葉栄子」とあるのを「亡稲葉榮子」と訂正し、同二枚目裏一〇行目に「原付自転車」とあり、同九枚目裏九行目及び一一行目に「自動車」とあるのをいずれも「原動機付自転車」と訂正する。)から、これを引用する。
1 控訴人らの主張の付加、訂正
(一) 本件事故は、被控訴人小平松吉(以下「被控訴人小平」という。)の重大な過失により発生したものである。
すなわち、被控訴人小平は、加害車を運転走行中、進路前方約六〇メートルの地点に被害車を発見したのであるから、少なくともこの時点において、大幅な減速をして衝突を回避すべきであつたのにかかわらず、漫然従来の速度を維持して更に約一八メートルも進行し、被害車との車間距離約三〇メートルの地点に至りはじめて若干の減速をしたにすぎなかつた。
次に被控訴人小平は、本件接触の直前、衝突を回避するための措置をとるべきであつたのにかかわらず、その措置をとらなかつた。
すなわち、仮に被害者亡稲葉榮子(以下「亡榮子」という。)の運転する被害車が衝突直前道路中央方向に向かつて進行し始め、加害車の走行車線内に進入して来たものであるとしても、被控訴人小平は、両車の車間距離約三〇メートルの地点でこれを十分認識していたというのであるから、少なくともこの時点において衝突の危険性を知り得たものというべく、同人としては、警笛の吹鳴を反覆することはもとより、更に急ブレーキを掛け、急拠斜め左方向にハンドル操作を行う等緊急の避譲措置を講ずべきであり、かつ、それが可能であつたのにかかわらず、その段階においてなお被害車の左方自車線内への復帰を期待し、一度警笛を吹鳴した上若干の減速をした程度でそのまま進行を継続したことは、被控訴人小平の重大な過失というべきである。
(二) 亡榮子には過失がないか、仮にあつたとしてもその程度は微々たるものである。
仮に被害車が衝突直前加害車の走行車線内に進入し、本件道路の中心線を約一五センチメートル越えた地点で事故が発生したものであるとしても、そのことをもつて本件事故発生の唯一の原因と目すべきではない。本件道路のような中心線の表示のない、幅員四メートル足らずの道路において、中心線を越えて車両が走行することは、決して珍しいことではない。したがつて、たまたま亡榮子の運転する被害車が中心線を越えて走行して来たものであるとしても、対向車を運転する被控訴人小平としては、右道路の状況からすれば、十分そのような事態を予想し、これに対処する措置をとる心構えで走行すべきものであり、被害車は対向車の適切な措置により十分自車線内に戻り得る状況にあつたのであるから、亡榮子の過失を重大視するのは当たらず、被控訴人小平の過失と対比するときは、前者の過失は無視されてしかるべきである。
(三) 以上のとおりであるから、仮に亡榮子に何らかの過失があつたとしても、双方の過失の程度を比較すると、その割合は被控訴人小平八に対して亡榮子二とするのが相当である。
(四) 本件事故による損害の点に関し、亡榮子の逸失利益及びその慰藉料並びに控訴人ら両名の慰藉料についての主張(原判決事実摘示中請求原因4の(一)の(1)、(2)、(3)、(二)及び(四))を次のように改める。
(1) 逸失利益 二四九七万二〇〇〇円
(イ) 事故後昭和五四年三月末日までの間に得べかりし賃金 三〇四万二五九七円
亡榮子は、本件事故当時満二四歳の女子で、訴外古河アルミニウム工業株式会社小山工場に勤務し、同社から毎月の給与のほか、年二回の賞与を支給されていた。そこで、本件事故後昭和五四年三月末日までの分につき、これを推定加算して亡榮子の得べかりし賃金を合算し、生活費二分の一を控除すると、次のとおりとなる。
71,567円×2(事故後昭和50年3月までの2月分の月額給与)+80,453円×12(昭和50年4月から昭和51年3月までの12月分の月額給与)+(180,047円+167,415円)(昭和50年度の年間賞与)+88,055円×12(昭和51年4月から昭和52年3月までの12月分の月額給与)+(167,415円+183,836円)(昭和51年度の年間賞与)+98,036円×12(昭和52年4月から昭和53年3月までの12月分の月額給与)+(183,836円+207,516円)(昭和52年度の年間賞与)+103,203円×12(昭和53年4月から昭和54年3月までの12月分の月額給与)+207,516円×2(昭和53年度の年間賞与)=6,085,195円
6,085,195円×1/2=3,042,597円
(ロ) 昭和五四年四月一日から亡榮子が満五〇歳に達するまでの間に得べかりし賃金一二〇五万三七八一円右訴外会社における女子従業員の停年は五〇歳であるから、亡榮子がその年齢に達するまで同会社において稼働して得べかりし賃金を推定合算し、生活費二分の一を控除した上、ホフマン式計算により昭和五四年三月現在の現価を算出すると、次のとおりとなる。
{103,203円(昭和54年3月現在の給与月額)×12+207,516円×2(昭和53年度現在の年間賞与)}×1/2×14.58(22年のホフマン係数)=12,053,781円
(ハ) 退職金 二六九万七一〇六円
亡榮子が五〇歳の停年時において得べかりし推定退職金額につき、ホフマン係数を乗じて昭和五四年三月現在の現価を算出すると、次のとおりとなる。
5,665,000円(推定退職金額)×0.4761(22年のホフマン係数)=2,697,106円
(ニ) 亡榮子が満五〇歳に達した後に得べかりし賃金 七一八万〇三六八円
二四歳の女子の平均余命年数は五三・四六年であり(簡易生命表)、亡榮子は、本件事故がなかつたとすれば、少なくとも満六七歳に達するまで稼働することができたはずである。よつて、同人が停年後右の年齢に達するまでに得べかりし賃金を、昭和五二年度賃金センサスの平均賃金(第一巻第一表の産業計・企業規模計・女子労働者・旧中新高卒)によつて計算し、生活費二分の一を控除した上、ホフマン式計算により昭和五四年三月現在の現価を算出すると、次のとおりとなる。
(50歳~54歳){134,300円(給与月額)×12+444,400円(年間賞与等)}×1/2×2.64(28年ホフマン係数-22年ホフマン係数)=2,713,920円
(55歳~59歳){139,700円(給与月額)×12+426,700円(年間賞与等)}×1/2×1.96(33年ホフマン係数-28年ホフマン係数)=2,061,038円
(60歳~67歳){133,200円(給与月額)×12+365,200円(年間賞与等)}×1/2×2.45(40年ホフマン係数-33年ホフマン係数)=2,405,410円
(50歳~67歳) 合計 7,180,368円
(ホ) 以上(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)(各金額につき一〇〇〇円未満切捨)を合計すると、亡榮子の逸失利益は合計二四九七万二〇〇〇円となる。
(2) 亡榮子の慰藉料 一〇〇〇万円
自動車損害賠償責任保険の保険金額が、昭和五三年七月一日以後に発生する事故に関しては、死亡者一人につき金二〇〇〇万円となつたことにかんがみ、本件事故当時近く結婚を控えていた亡榮子の精神的無念を考慮すると、同人に対する慰藉料としては一〇〇〇万円を相当とする。
(3) 控訴人らは亡榮子の両親であり、同人の右(1)、(2)の損害合計三四九七万二〇〇〇円の賠償請求権を相続分に応じて承継したから、その金額は、各控訴人につき一七四八万六〇〇〇円となる。
(4) 控訴人らの慰藉料 各五〇〇万円
亡榮子の両親である控訴人ら両名の悲嘆を考慮すると、同人らに対する固有の慰藉料としては、各控訴人につき五〇〇万円を相当とする。
(5) 控訴人稲葉正司の積極損害(死後処置料、葬儀費用等)並びに控訴人ら両名についての損害のてん補及び弁護士費用については、原判決事実摘示(請求原因4の(三)の5及び6)のとおりであるから、各控訴人につき損害額を計算すると、次のとおりである。
(イ) 控訴人稲葉正司については、(3)、(4)に掲げる額に、右積極損害及び弁護士費用の額を加え、右てん補額を控除すると 一八五八万二三一〇円
(ロ) 控訴人稲葉リヨについては、(3)、(4)に掲げる額に、弁護士費用の額を加え、てん補額を控除すると 一八一二万八三一〇円
よつて、被控訴人らは、各自、控訴人稲葉正司に対しては、右損害額の一部たる金七六五万六三一〇円及びうち弁護士費用を除く金六九六万六三一〇円に対する訴状送達の日の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による金員を、控訴人稲葉リヨに対しては、右損害額の一部たる金七二〇万二三一〇円及びうち弁護士費用を除く金六五五万二三一〇円に対する右同日から同じく年五分の割合による金員をそれぞれ支払うべき義務がある。
2 被控訴人らの主張の付加
控訴人らの右1の主張については、すべて争う。
控訴人らは、被控訴人小平が結果回避義務を尽くさなかつたとして、これのみを攻撃するが、本件においては、亡榮子が前方注視義務、結果回避義務を尽くさなかつたことが事故の最大の原因をなすものであり、その過失割合は、被控訴人小平二に対して亡榮子八と見るのが相当である。
三 証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生及び事故現場の状況が控訴人ら主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 本件事故発生の状況及び事故の原因については、当裁判所が当審における鑑定人桶口健治の鑑定の結果を加味して判断するところも、以下に訂正、敷えんするほか、原判決がこの点に関して説示するところ(一二枚目表冒頭から一四枚目裏六行目まで、一五枚目表六行目から裏末尾まで。ただし、右部分中「亡稲葉榮子」とあるのを「亡稲葉榮子」と訂正する。)と同一であるから、右説示を引用する。
1 原判決一二枚目裏四行目に「時速約四五キロメートル位の速度」とあるのを「時速四〇キロメートル程度」と改め、同一三枚目表二行目中「警笛を吹鳴し」の前に「両車の車間距離約三〇メートルに達した地点で」を加え、同二行目から三行目にかけて「被害車は」とある次に「依然これに気付く様子もなく」を加え、同一四枚目表七行目から八行目にかけて「一・九五メートル」とあるのを「一・九六メートル」と改める。
2 控訴人らは、本件衝突地点は寒川方向に向かつて道路の右側(被害車の走行車線内)側端寄りの地点と考えられ、本件事故現場に残存していたタイヤずり痕(道路の南側すなわち加害車の走行車線内外側線から約一・八メートルの位置にある東西約一・一メートルの長さに及ぶもの)は被害車の車輪によつて生じたものではないと主張している。
しかしながら、当審における鑑定人樋口健治の鑑定の結果によつても、本件事故は、被害車が左傾の状態で、そのハンドル右端及び運転者である亡榮子の身体の右側端が、加害車の右前端右角部に激突したものであつて、右タイヤずり痕は、両車両が接触すると同時か、又はその直前からの被害車の足ブレーキ操作により、その後車輪のスリツプが始まつたために生じたものと推定され、さきに引用した原判決がその認定の資料とした各証拠に右鑑定の結果を総合すれば、本件衝突地点は本件道路の南側外側線から約一・八メートルの地点であり、道路の中心線から加害車の走行車線内に約一五センチメートル入つた地点であること、被害車を運転していた亡榮子が下向きのまま道路の中心線を越えて進行したことが本件事故発生の主たる原因であることについては、疑問の余地がないといわざるを得ない。
なお、亡榮子がいかなる動機、原因から衝突直前に道路中央側に寄つて被害車を走行させるに至つたかについては判然としない点があるが、成立に争いのない甲第一二号証の一ないし三及び原審における控訴本人稲葉正司に対する尋問の結果によれば、事故当時亡榮子は日出直後の太陽に正対して走行する態勢であつたことが認められ、前記鑑定の結果によつても、少なくとも亡榮子において逆光線の関係で進路前方の車両を発見することが遅れ勝ちとなり、自車の走行位置の判断も困難な状況にあつたことは、十分推認されるところである。
三 以上認定したところによれば、本件事故は、主として被害車を運転していた亡榮子が下向きのまま同車を走行させ、進路前方の対向車両を発見することが困難な状況にあつたとはいえ、前方の注視を怠つたため、被控訴人小平の運転する加害車の接近を認識するに至らないまま、道路の中心線を越えて進行したことによるものであるが、他方加害車を運転していた被控訴人小平においても、対向車の不自然な接近状況を認め、又はその気配を感じたときには、再三にわたり警笛を吹鳴して警告を発するとともに速やかに相当の減速をし、更にそれにもかかわらず対向車の進行状況が正常に復せず、衝突の危険を感じたときは、左方向に避難する等の非常措置をとつて事故の発生を未然に防止する義務があり、かつ、被控訴人小平が対向車たる被害車を認めた時点における車間距離、被害車の走行経路、本件衝突地点の位置等から判断してそれが不可能であるとはいえない状況であつたのにかかわらず、一度警笛を吹鳴し若干の減速をしたのみで、安易に被害車の自発的な避譲措置に期待したまま進行を続けた点において、過失があることを免れない。
そこで、右事実関係の下における両者の過失の程度を対比すると、その割合は被控訴人小平三に対して亡榮子七と認めるのが相当である。
そして、被控訴人小平が加害車の運転者であること、及び被控訴人栃木県運輸農業協同組合連合会が加害車を自己のために運行の用に供していた者であることは、当事者間に争いがないから、前者は民法第七〇九条により、後者は自動車損害賠償保障法第三条により、連帯して控訴人らの被つた損害につき三割の限度で賠償の責めに任ずべきである。
四 次に本件事故により控訴人らが受けた損害の点について検討する。
1 亡榮子の逸失利益
成立に争いのない甲第一三号証の一、二、原審における証人田中三男の証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証、原審における同証人の証言及び控訴本人稲葉正司に対する尋問の結果によれば、亡榮子が事故当時訴外古河アルミニウム工業株式会社小山工場に勤務していたこと、同人は健康であり、事故当時婚姻の直前であつたが婚姻後も引き続き右会社に勤務する予定であつたこと、並びに同人が右会社から受けるべき月額給与及び賞与の額、右会社における停年の定め及び停年時に受けるべき退職金の額が控訴人ら主張のとおりであることを認めることができる。
また、成立に争いのない甲第五号証(そのうち昭和四八年簡易生命表)によれば、年齢二四歳の女子の平均余命は五三・四六歳(なお、昭和五〇年簡易生命表によれば五四・二三歳)であるから、亡榮子は、本件事故がなければ、五〇歳の停年により前記会社を退職した後、更に少なくとも六七歳に達するまでの一七年間労働することができたものと推認され、また、前記認定に係る右会社から得べかりしものと推定される賃金の状況に、右甲第五号証並びに原本の存在及びその成立に争いのない甲第一四号証(昭和五二年賃金センサス)を総合すれば、亡榮子は、右退職後六七歳に達するまで、少なくとも退職時に受けていた賃金と同程度の額の賃金を受けることができたものと推定される。
以上の前提の下に亡榮子の得べかりし利益の同人死亡時における現価を計算すると、次のとおりとなる。
(一) 事故後昭和五一年三月まで(昭和五〇年度まで)の間に得べかりし賃金 六九万三二八九円
事故後昭和五〇年三月まで(二月分)の給与は毎月七万一五六七円、同年四月から昭和五一年三月まで(一二月分)の給与は毎月八万〇四五三円、昭和五〇年度の年間賞与(二回)は一八万〇〇四七円及び一六万七四一五円と推定されるから、以上を合計すると一四五万六〇三二円となる。そのうち生活費として五割を要すると見るのが相当であるから、これを控除し、更にその残額についてホフマン式計算(一年の係数〇・九五二三を乗ずる。)により年五分の中間利息を控除して得た六九万三二八九円(円未満切捨。以下同じ。)が、亡榮子の死亡時における右昭和五〇年度の利益の現価である。
(二) 昭和五一年度に得べかりし利益 六三万九九六五円
昭和五一年四月から昭和五二年三月までの給与は毎月八万八〇五五円、年間賞与は一六万七四一五円及び一八万三八三六円と推定されるから、(一)と同様の方法を用い、ホフマン式計算(二年の年金係数から一年の同係数を控除した一年分の係数〇・九〇九一を乗ずる。)により現価を算出すると、六三万九九六五円となる。
(三) 昭和五二年度に得べかりし賃金 六八万一六七二円
昭和五二年四月から昭和五三年三月までの給与は毎月九万八〇三六円、年間賞与は一八万三八三六円及び二〇万七五一六円と推定されるから、(一)と同様の方法を用い、ホフマン式計算(三年の年金係数から二年の同係数を控除した一年分の係数〇・八六九六を乗ずる。)により現価を算出すると六八万一六七二円となる。
(四) 昭和五三年度に得べかりし賃金 六八万八九一七円
昭和五三年四月から昭和五四年三月までの給与は毎月一〇万三二〇三円、年間賞与(二回)は各回二〇万七五一六円と推定されるから、(一)と同様の方法を用い、ホフマン式計算(四年の年金係数から三年の同係数を控除した一年分の係数〇・八三三三を乗ずる。)により現価を算出すると、六八万八九一七円となる。
(五) 昭和五四年四月以降満五〇歳に達するまでの間に得べかりし賃金 一〇二三万四八〇一円
昭和五四年以降亡榮子が満五〇歳に達する昭和七五年までの二一年間につき、(四)の月額給与・年間賞与額によつて年間賃金総額を一六五万三四六八円と推定し、(一)と同様の方法を用い、ホフマン式計算(二五年の年金係数から四年の同係数を控除した二一年分の係数一二・三七九八を乗ずる。)により現価を算出すると、一〇二三万四八〇一円となる。
(六) 退職金 二五一万七五二六円
亡榮子が満五〇歳の停年に達する昭和七五年に得べかりし退職金の額は五六六万五〇〇〇円と推定されるから、ホフマン式計算(二五年の係数〇・四四四四を乗ずる。)によると、死亡時の現価は二五一万七五二六円となる(なお、これについては生活費五割の控除は行わない。)。
(七) 五〇歳から六七歳までの間に得べかりし賃金 五二四万八八五一円
亡榮子が五〇歳に達した日から六七歳に達する日までの一七年間については、前記のとおり(五)の計算の基礎とした年間賃金総額(一六五万三四六八円)と同額の賃金を得べかりしものと推定されるから、この期間に得べかりし賃金につき、生活費五割を控除した上、ホフマン式計算(四二年の年金係数から二五年の同係数を控除した一七年分の係数六・三四八九を乗ずる。)によりその現価を算出すると、五二四万八八五一円となる。
(八) 以上により、亡榮子の得べかりし利益のその死亡時における現価は、(一)ないし(七)の合計額二〇七〇万五〇二一円である。
2 亡榮子の慰藉料
亡榮子が本件事故によつてその生命を失い、多大の精神的苦痛を受けたことは明らかであり、前示控訴本人稲葉正司に対する尋問の結果によつて認められるとおり、亡榮子が婚姻挙式を間近に控えていた矢先思わざる事故によつて生命を断たれるに至つた事情を考慮し、その他本件口頭弁論に現れた諸般の事情をしんしやくすると、その精神的損害に対する慰藉料としては、一〇〇〇万円を相当と認める。
3 相続
控訴人らが亡榮子の両親である事実は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により亡榮子の相続人は控訴人ら両名のみであることが認められるから、控訴人らは、亡栄子の右1、2の損害合計三〇七〇万五〇二一円につき、その賠償請求権を相続分(各二分の一)に応じて承継したので、その額は各控訴人につき一五三五万二五一〇円となる。
4 控訴人稲葉正司の積極損害
前示控訴本人稲葉正司に対する尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、第七号証の一ないし九及び右控訴本人尋問の結果によれば、控訴人稲葉正司において、死後処置料一万四〇〇〇円及び葬儀費用等約三五万円を支出した事実が認められ、うち三〇万円は、同控訴人が受けた本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
5 控訴人らの慰藉料
亡榮子の両親である控訴人ら両名が、亡榮子の死亡により深い精神的苦痛を受けたことは明らかであり、本件口頭弁論に現れた諸般の事情を考慮すると、その被つた精神的損害に対する控訴人ら固有の慰藉料としては、各控訴人につき三〇〇万円を相当と認める。
6 控訴人らの損害額の合計
以上によれば、控訴人稲葉正司については3、4、5の合計額一八六五万二五一〇円、控訴人稲葉リヨについては3、5の合計額一八三五万二五一〇円が各損害額となる。
7 過失相殺
前記三のとおり、被控訴人小平の過失割合は三割と認めるのを相当とするから、6の各損害額にこれを乗ずると、控訴人稲葉正司について五五九万五七五三円、控訴人稲葉リヨについて五五〇万五七五三円となり、控訴人らはそれぞれ被控訴人らに対し右各金額の損害賠償請求権を取得したこととなる。
8 損害のてん補
控訴人らが栃木県共済農業協同組合連合会から自動車損害賠償責任共済の損害賠償金として一〇〇一万五三八〇円の支払を受けたこと、及び各控訴人につき、これを折半した五〇〇万七六九〇円が亡榮子の逸失利益相続分の一部に充当されたことは、控訴人らの自認するところである。
9 損益相殺
したがつて、6に算出した損害額から7のてん補額を控除すると、控訴人らの各損害残高は、控訴人稲葉正司につき五八万八〇六三円、控訴人稲葉リヨにつき四九万八〇六三円となる。
10 弁護士費用
前示控訴本人稲葉正司に対する尋問の結果によれば、控訴人らは、本件訴訟の遂行を弁護士尾崎重毅に委任するに際し、裁判における認容額の一割を報酬として支払う旨約している事実を認めることができ、更に本件事案の難易その他本件に現われた諸般の事情を考慮すると、弁護士費用については、控訴人稲葉正司につき六万円、控訴人稲葉リヨにつき五万円をもつて被控訴人らの不法行為に基づき控訴人らの被つた損害と見るのが相当である。
11 結論
よつて、控訴人らが被控訴人らに対し賠償を請求し得る損害は前記9、10により、控訴人稲葉正司において六四万八〇六三円、控訴人稲葉リヨにおいて五四万八〇六三円となる。
五 以上の次第であるから、控訴人らの本訴請求は、控訴人稲葉正司において、被控訴人らに対し各自金六四万八〇六三円及びうち弁護士費用を除く金五八万八〇六三円に対する訴状送達の日の翌日(被控訴人栃木県運輸農業協同組合連合会にあつては昭和五一年一月二八日、被控訴人小平にあつては同月二七日であることが記録上明らかである。)から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、控訴人稲葉リヨにおいて、被控訴人らに対し各自金五四万八〇六三円及びうち弁護士費用を除く金四九万八〇六三円に対する右各同日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において、それぞれ正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきものである。
よつて、右と結論を異にする原判決は一部不当であり、本件控訴は一部理由があるから、原判決を右の限度で変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を適用し、なお、仮執行の宣言を付するのを相当と認め同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 貞家克己 長久保武 加藤一隆)