東京高等裁判所 昭和52年(ネ)2527号 判決 1978年12月26日
控訴人
亡木村武夫
右訴訟代理人
春田昭
被控訴人
近畿観光株式会社
右代表者
小浪義明
右訴訟代理人
関根栄郷
外三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一控訴人は、本件控訴提起後死亡したが、訴訟代理人があるから、訴訟手続は中断していない。
二当事者双方の主張ならびに立証に対する当裁判所の認定、判断は、原判決理由中に示された原審のそれと同一であるから、これを引用する。
三当裁判所の見解を次のとおり付加する。
1 従物は主物の処分に従うから、主物についての抵当権設定契約がなされれば、当然に抵当権の効力は従物に及ぶが、もし抵当権設定契約の当事者間に抵当権の効力は従物に及ばない旨の特段の合意があれば、これに従うべきは当然であるところ、本件抵当権設定契約の当事者である訴外富国生命株式会社と訴外中部観光株式会社との間にそのような合意のあつたことについては、これを認めるに足りる証拠はない。<証拠>によれば、本物件(一)ないし(三)はそれが本件建物に備付された時点において数億円の費用を要したことが認められるので、あるいは訴外中部観光株式会社側においては前記契約に際し、右物件を除外し、これに抵当権が及ばないことを意図していたかも知れないが、相手方である富國生命株式会社がその事情を了知したうえ、明示又は黙示に右意図に応ずる旨承諾した事実が認められない以上、右認定事実のみで、本件物件(一)ないし(三)に抵当権が及ばない旨の合意があつたとなしがたいことはもちろんである。
2 抵当権設定契約後競売開始決定前に備付された従物に主物に対する抵当権の効力が及ぶか否かの点について、仮りに及ばないと解したとしても、競落による主物の所有権移転については、従物も運命をともにすると解せざるを得ない。もしそのように解するとすれば、抵当物件たる主物の所有者は、競売開始決定後すみやかに従物の撤去をはかるおそれがあり、それが不当に抵当物件の価値をそこなうものでないとしても、本件のように抵当権設定契約の前後に亘つて従物が備付され、かつ個々の従物についてその先後が明らかでない場合には、所有者の右の行為によつて無用の混乱が惹き起されることが危惧される。むしろ、競売開始決定に伴う差押を主物に対する処分と見ることにより、差押の効力が従物に及ぶとみる方が合理的であり(主物従物の関係は通常客観的なものであり、最低競売価格の決定、競買人による申出価格の決定にさいして、従物の価値が織り込まれるであろうことは期待されてよい。)、さらにすゝんで原審の判断のように抵当権設定契約後主物所有者が従物を備付した場合抵当権の効力はこれに及び、爾後所有者も右従物を主物と切り離して恣に処分することができないと解すべきであろう。この点は抵当物件である建物に所有者が増築をし、これが附合により一箇の建物となつた場合に、所有者が右増築部分を抵当権者の意に反して取り壊すことが抵当権の効力により禁止されるのと同断である。
3 競売手続における従物の評価については、これを不動産と別箇に評価して積算する必要はなく総合的に評価されれば足り、本件建物の競売手続における鑑定人評価中に従物の評価が含まれていないということはできないとの原審の判断は、当裁判所も見解を同じくするものであるが、仮りに鑑定人が評価に当つて従物の価値を斟酌するのを怠つた事実があつたとしても、その事実に基づいてただちにかつ当然に本件建物の競落が無効であるといいえないことは言うまでもなく、従つてまた競落の効力が従物に及ばないといいえないことももちろんである。
四従つて、本件控訴は不当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(石川義夫 高木積夫 清野寛甫)