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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)3078号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二被控訴会社及び被控訴人青野新一に対する各請求について被控訴会社が鉄筋の加工、組立て、販売及び鉄骨工事を目的とする有限会社であること、その専務取締役青野新一が前示昭和四六年五月二五日の事件で逮捕された控訴人の身柄引受人となつてその釈放に努力した後も控訴人と被控訴人小野菊枝との紛争の解決に尽力したこと、控訴人が被控訴会社から同月末ごろ同月二四日までの賃金と金九〇〇〇円を受け取り更に同年七月一六日金一万五〇〇〇円を受け取つたこと、小田原労働基準監督署長が被控訴会社と控訴人との間の雇用関係につき同年七月一五日解雇予告除外認定をしたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

そして、右争いのない各事実並びに前記一所掲の争いのない各事実及び証拠により認定した各事実に<証拠>を総合すると、

1 控訴人は、昭和四五年一一月以降も鉄筋工として被控訴会社に採用されたが、以前のような季節労務者としてではなく継続して永く勤務する意向を持ち、これを被控訴会社に伝え、住民登録を田舎の茨城県から勤務地の小田原市に移した後はいわゆる常雇いにしてもらう含みをもつて、当分の間従前どおり季節労務者として勤務することとなつたものであるところ、右採用に際し、被控訴会社専務取締役の被控訴人青野新一は、かねて控訴人と被控訴人小野菊枝との関係を耳にしていたので問い質し、控訴人をして被控訴会社に迷惑をかけるようなことは決してしない旨を約束させたこと。

2 しかるに、控訴人は、右約束に反し、被控訴人小野菊枝が不倫な関係を清算しようとしたにもかかわらず、昭和四六年四月上旬以降数回にわたり同被控訴人方に押しかけては暴れ、その間に被控訴人青野新一が被控訴会社の責任者として駆けつけなければならないこともあつた上、同年五月二五日夜またも被控訴人小野菊枝方に押しかけて乱暴を働き警察に逮捕されて二日間留置され、被控訴人青野新一が身柄引受人となつてようやく釈放される始末であつて、ここに至り、同被控訴人は、被控訴会社としても見逃すことができないと考え、同月二七、二八日ごろ、控訴人に対し「警察に留置されるようでは会社の信用を傷つけ他の従業員にも示しがつかないから、身を引いてほしい。」と申し向け、種々話し合つた結果、控訴人も、会社に迷惑をかけた以上やむを得ないと考えて身を引こうと答え、ついては今度田舎から出てきた際には再び使つてもらえるかと尋ね、これに対しては確答を得ることができなかつたが、一方、被控訴人小野菊枝との件につき話をつける機会を作つてもらいたいと頼んでおいたところ、これに応じた被控訴人青野新一のあつせんにより同月三一日ごろ被控訴人小野菊枝から手切金一〇万円を受け取ることができ、更に、これと相前後して被控訴会社から賃金の未払分のほか帰郷旅費の意味を含む金九〇〇〇円の支給を受け、翌六月早々田舎に帰つたこと。ちなみに、控訴人は、従前も毎年四月ごろ離職するに際し帰郷旅費相当の金三、四千円程度の支給を受けてきたこと。

3 ところが、控訴人は、同年六月中ごろ再び小田原に現れ、労働基準監督署に解雇予告手当の問題を持ち込み、任意退職であると主張する被控訴会社との間で見解が対立して容易に解決しそうもなかつたところ、被控訴会社においては、一つの打解策として解雇予告除外認定を申請し翌七月一五日その認定を受けたが、これとは別に幾らか金を出してやれないかとの同監督署長の示唆により、翌一六日控訴人に対し金一五、〇〇〇円を支給したこと。

以上の各事実を認めることができる。

これらの事実関係に徴して考えるに、被控訴人青野新一が「身を引いてほしい」と告げたのは、被控訴会社を代理して任意退職を控訴人に促したものと認めるのが相当であり、これに対し、控訴人も、身を引こうと答えた上、自ら申し出た被控訴人小野菊枝との間の解決も被控訴人青野新一のあつせんで手切金を入手して話をつけることができ、毎年春の離職に際しもらつていたのと同趣旨の帰郷旅費相当の金員も被控訴会社から受領して田舎へ帰つたのであるから、控訴人の方から身を引いて職を離れたものというべきであり、もつて被控訴会社から促された任意退職に応じたものと認めるのが相当である。したがつて、ここに両者間の雇用関係は、合意解約により終了したものと解することができる。もつとも、右3で認定した控訴人のその後の行動、<証拠>によると、控訴人自身としては、「身を引いてほしい」と言われたことは任意退職を促されたというよりもむしろ解雇を申し渡されたものと受け取つており、六月早々の帰郷も解雇されたからであると認められる余地もないではないが、その当時被控訴会社において控訴人自身のかような考え方を知り又は知り得べきであつたとすべき事情を認めるに足りる的確な証拠がない以上、意思表示の解釈としては、帰郷に至るまでの控訴人の一連の言動を客観的に理解した上、右のように任意退職に応じたものと解釈するほかはない。なお、被控訴会社が解雇予告除外認定を申請したことは、右3に認定した事情によるものであるから、雇用関係の合意解約に関する右の判断の妨げとはならないし、また、被控訴人青野新一は、原審昭和四七年(ワ)第五三号事件(ただし、同被控訴人に対する取下前)の答弁書において控訴人を懲戒解雇予告除外認定を受けたと記載しているが(このことは、記録上明らかである。)、同被控訴本人の前掲供述によれば、これは法律に必ずしも明るくない同被控訴人が弁護士にも依頼しないで書いたものであることが認められ、そして解雇予告除外認定を受けた事情は右3で認定したとおりであるから、右答弁書の記載をもつて右の判断を動かすことはできない。ほかには、以上の認定及び判断を左右するに足りる的確な証拠はない。

右のように、被控訴会社と控訴人との間の雇用契約は、控訴人が昭和四六年六月初め帰郷した際既に終了しており、また、控訴人が同年五月二五日以降右帰郷に至るまでの数日間被控訴会社に対し労務を提供したことを認めるべき証拠はないから、被控訴会社に対し雇用契約上の権利を有することの確認を求めるとともに右五月二五日以降の賃金の支払を求める控訴人の各請求は、理由がない。

(岡松行雄 田中永司 賀集唱)

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