東京高等裁判所 昭和52年(ネ)572号 判決
控訴人らは、区画整理前の被控訴人周所有の旧建物が区画整理後の現在の位置に存在し得る法的根拠がないと主張する。思うに、換地処分については、土地区画整理法一〇四条により、換地は従前の宅地とみなされ、従前の宅地上の権利はそのまま換地に移行することとなるのであるが、従前の宅地の一部につき存していたにすぎない賃借権については、これが換地のどの部分に存続することになるかという「特定」の問題を生じてくる(もっとも、換地計画で当該部分が定められているときは、問題がない。)。この点については、所有者たる賃貸人と協議して定めることはもちろん可能であるが、本件におけるように、従前の宅地の一部につき賃借権の譲渡があり、これにつき賃貸人の承諾は得られないけれども、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情が存するという場合には、賃貸人と協議することそれ自体が必ずしも容易でないことが十分に考えられるのである。しかも、かかる協議ができていなくても、区画整理後の換地のどこかの部分に賃借権の存することは確かであり、客観的には換地のいずれかの部分に定まっているはずであるから、協議ができていないという一事をもって該賃借権をたやすく否定してしまうことは、早計にすぎるものといわなければならない。
これを本件の場合について検討するに、被控訴人周所有の本件(一)の建物は、区画整理の際の移転によって突如として公道に面するようになったのではなく、旧建物の当時から公道に面していた(この点は前記二で説示)のであるから、市太郎との間で協議ができるのであれば移築先はやはり公道に面する部分に決まったものと思料され、また、区画整理の際の移築も同被控訴人がほしいままに場所を選んでしたものではなく、公的機関たる施行者が直接施行したものであり(この点も前記二で説示)、これらの点からすれば、本件(一)の建物の現在位置が妥当であることにつき十分の合理性と客観性を見いだし得るのである。そうすると、本件にあっては、賃貸人市太郎との協議はできていないけれども、前記引用の事実関係によれば、この協議をすること自体がそもそも困難であったと認められるのであるから、かかる事情の下では、右に見たように本件(一)の建物の現在位置に十分の合理性と客観性がある以上、市太郎との間で被控訴人周が本件(一)の建物を換地上の現在の位置に存在せしめることにつき協議ができているのと同様に扱ってしかるべきである。もしこれを反対に解し、本件(一)の建物を現存せしめる賃借権なしとするときは、右建物が公道に面し本件土地のかなめの部分に位置する点を考慮に入れてもなお背信行為と認めるに足りない特段の事情を否定し得ないとした前記二の当裁判所の判断が、実質的に首尾一貫しないことになるのであるから、この点からしても、右賃借権を肯認するのを相当とする。
(岡松 賀集 並木)