大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)792号 判決

(二) 一般に、物の所有者は、その所有権の範囲を逸脱し若しくは他人の権利・利益を侵害する結果となるような場合を除き、その所有物を如何なる手段・方法によっても使用収益することができ、第三者は、所有者から使用収益を承認されている場合を除いては、直接にせよ間接にせよ、他人の所有物を利用することによって所有者の使用収益を阻害してはならない法的関係にあるものといわなければならない。これを本件気球についていえば、右気球を特定商品ないし特定企業の広告媒体として使用することにより利益をあげることが広告宣伝業者たる控訴人の所有目的と認められることは前叙のとおりであるから、第三者が控訴人の右目的の実現に先立って、右気球を特定商品ないし特定企業の宣伝に利用し、それにより、控訴人の主張するように、右気球に特定の商品ないし企業のイメージを密着させてしまって、所有者である控訴人が使用収益の目的を達成することを不可能にしたとすれば、控訴人が右気球の所有者として有する利益を侵害したものというべく、かかる控訴人の所有目的及びこれを阻害する結果の発生を予見しうべき地位にある第三者が、あえて前記のような挙に出たときは、控訴人に対し損害賠償の責に任ずべき場合の生じうることは、これを否定することができない。そして、本件におけるように、気球を撮影した写真を素材とするポスターによって宣伝行為をすることも、ここにいう右気球の利用に含まれると解すべきである。

被控訴人東洋工業は、この点に関し、著作権法や意匠法との比較・権衡を論じて、物の所有権からその物の影像を排他的に使用収益する権利が生ずるものではないと主張する。しかし、人の知的所産を保護するために著作者や意匠の創作者に対して与えられる著作権法や意匠法による法的保護と、著作物の所有者や意匠に係る物品の所有者に対して与えられる民法上の法的保護とは、保護の目的・内容、保護されるべき権利主体を異にし、前者の法的処理をもって後者をも律すべき関係にはない。本件気球が著作権法や意匠法による保護の対象に該らないということは、本件気球については無体財産権としての著作権や意匠権の保護はなく、同種同型の気球を製作することは何人にも妨げられないことを意味するにとどまり、本件気球の所有者が、所有権に基づき自己の使用目的を確保するために、他人に対しその目的物である本件気球の利用(写真撮影を含む。)を拒みうることは、それと何ら矛盾することがらではなく、他人の権利を侵害しないかぎりその利用態様において本来何らの制約をも受けない所有権の性質からいって、被控訴人のいうパブリック・ドメインとして公共のため解放されるべき要請の強い無体財産権の保護が法定の期間内に限定されることとの権衝を論ずべき理由も存しない。

もっとも、本件気球はすでに公開されたものであるから、一般人がこれを撮影して鑑賞の対象とし、あるいは報道関係者が撮影して報道写真として掲載することは、所有者である控訴人において承認したところと認められるが、そのことの故をもって、本件気球を撮影した写真を素材とするポスターを作成して宣伝活動をするというような、控訴人の使用目的と競合し、右使用目的の達成を阻害することにもなりかねない態様における利用の対象とすることまで承認されていたものと推認することはできず、藤田麻生・ボンカラー・中央広告ないし被控訴人らのいずれかが、本件気球を撮影してその写真を宣伝広告の用に供することにつき、控訴人の承諾を得ていたことを認めさせる証拠はない。

(三) しかしながら、<中略>前叙のとおり、本件ポスターは、この種ポスター作成の専門業者である中央広告が、被控訴人東洋工業を注文者とする製作物供給契約に基づき、独自の判断と手法により作成して納入したものであって、注文者たる被控訴人東洋工業は、作成されるべきポスターの内容につき広告効果の見地から意見を述べたにとどまり、ポスターの素材となる気球の影像を如何にして用意するかというような、仕事を完成させるための手段・方法等は、すべて中央広告がその責任において選択決定のうえ作業を進めたもので(もとより本件気球を撮影した写真の利用は被控訴人東洋工業からの指示によるものではない。≪証拠≫によれば、同被控訴人にとっては、模型を撮影した写真を利用しても構わなかったことが認められる。)、それは、かかるポスター製作に必要な技術や経験を買って専門業者との間に製作物供給契約を結んだ注文者としてとる当然の態度であったということができる。したがって、本件ポスターに使用された気球の影像が、特定企業ないし特定商品の広告媒体として使用することを予定している宣伝業者の所有する気球を撮影した写真によったもので、これを本件ポスターに利用することにより、所有者の右使用目的を阻害する結果をも招きかねないものであることまでを予見し、所有者の使用許諾の有無等を確認すべき注意義務を注文者たる被控訴人東洋工業が負い、右注意義務を尽くすことなく本件ポスターを作成納付させて使用した点において同被控訴人に過失があったとすることはできない。もっとも、≪証拠≫によれば、中央広告は印刷に付する直前のいわゆる版下原稿を被控訴人東洋工業に見せていることが認められるので本件ポスターに顕出された気球の影像の外観上の特殊性やこれに付された表示等から、前記のような所有者の使用目的が推知されるとすれば、如上の観点から注文者にも指図上の過失があったとして、その責を問われるべき特段の場合に該るということができるが、≪証拠≫によれば、本件気球の外形や色彩等に気球の一般通念からみてそれほど特異な点があるとはいえないし、気球の吊り籠部分に張られた幕の文字を「Let'

(小林 横山 三井)

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