東京高等裁判所 昭和52年(ラ)1029号 決定 1978年6月16日
抗告人
巣鴨信用金庫
右代表者理事
田村冨美夫
右訴訟代理人
高桑瀞
同
高桑昭
相手方
大久保誠司
主文
1 原決定を取消す。
2 抗告人が金五〇〇万円の保証を立てることを条件として、別紙添附物件目録記載の不動産につき、相手方の申立によりなされた浦和地方裁判所昭和五二年(ケ)第七九号不動産競売手続を停止する。
3 申請費用及び抗告費用は相手方の負担とする。
理由
第一抗告の趣旨<省略>
第二抗告理由の要旨<省略>
第三当裁判所の判断
一<省略>
二元来、抵当権の実行を阻止するための仮処分は、右抵当権の設定が虚偽であるとか、詐害行為であるとか、抵当権が被担保債権の消滅その他の原因で消滅したとか、要するに名義上の抵当権者に対して抵当権不存在、無効確認、詐害行為取消、抵当権設定登記抹消登記手続請求等を本案訴訟として提起し得る場合に許されるものである。原審が「抵当権の行使が法律上可能な状態にない場合」と判示したのは、まさに右のような設例を想定したものであつて、本件が右の各場合の何れにも該らないことは、抗告人の主張自体により明白である。
三抗告人は、先順位の抵当権者が民法第三百九十五条の規定により抵当不動産に設定された短期賃貸借の解除を訴求している最中に、後順位の抵当権者が抵当権実行の挙に出れば、前記解除訴訟をなす目的が阻害されるから本件のような場合にも抵当権の実行を阻止する仮処分を認めるべきであると主張するけれども、右仮処分の被保全権利が賃借人久保田良雄らに対する民法第三百九十五条所定の解除権であり、本案訴訟も現在抗告人が久保田らを相手に提起中の解除訴訟であるとすれば、相手方は右の短期賃貸借解除と直接の関係はなく、解除訴訟の当事者でもないから、仮処分の債務者としての適格を欠くことになる。<中略>
四抗告人は、仮の地位を定める仮処分においては、本案訴訟の当事者以外の者に対しても仮処分を命じ得ると主張するが、それは会社を被告としてその取締役等の選任決議無効等の訴を提起した上、これを本案として当該取締役に対しその職務執行停止の仮処分を求める如く、仮処分債務者と本案訴訟との関係が極めて緊密な場合に限られるから、本件の如く、仮処分債務者たる相手方が本案たる解除訴訟と全く無関係な場合には妥当しない。
五しかし、前記認定の事実によるときは、競売法による競売には民事訴訟法第六百五十六条の準用がないとしても、相手方において抗告人が提起した前示短期賃貸借解除訴訟の係属中であるのにその抵当権をその実行しようとするものであつて、これは法律の許容する範囲を逸脱して権利を行使するもので到底適法なる権利の行使とは目し難く、即ち、自らは何らの得るところがないのに徒に先順位抵当権者たる抗告人の権利を侵害せんとする権利濫用として許されざる行為であると言わなければならない(大審院昭和一七年一一月二〇日判決、民集二一巻二〇号一〇九九頁参照)。本件仮処分の被保全権利については、抗告人の申請の全趣旨から見れば、右のように相手方が抗告人の抵当権を侵害しようとすることに対する妨害排除請求権をいうものとも解することが出来るのであり、従つて抗告人の主張は理由があるものとして是認すべきである。<以下、省略>
(高津環 横山長 三井哲夫)
物件目録<省略>