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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)1120号 決定

二 本件における第一の問題点は、相手方福岡支店が商法五一六条三項にいう支店に該当し、かつ、本件訴訟の目的である債権の発生原因である売買契約が同条同項にいう支店においてした取引に該当するかどうかである。

記録によれば、相手方の福岡支店は昭和四三年六月一日福岡市古門戸町五番八号(その後住居表示の実施により同市博多駅南五丁目一五番一二号となる。)に設置され、同年同月二九日その旨登記され、その後同市博多区博多駅前三丁目一六番一〇号に転じ、現在同所にあり、かつ、その旨の登記がなされ、また右支店所在地においても相手方の本店所在地におけると同一内容の登記がなされていることが認められるところ、相手方は、同支店という名称を有するけれども、独立の営業所としての実体を有しないから、商法にいう支店にあたらず、また同支店における取引はすべて本社の管理下において行われ、売掛金の請求等もすべて直接本社から抗告人に対してなされているのであるから、本件売買契約は支店においてした取引にあたらない旨主張する。よって検討するのに、記録によれば、

(1) 相手方福岡支店は、喫煙具事業部及び時計事業部の二部と管理課によって構成され、従業員は全部で三五名で、右各部にはそれぞれ支店長の肩書を有する者が配置されてそれぞれの部を統轄し、管理課は右各部と離れて両部の営業についての事務手続を行うものとされているが、支店全体を統轄する役職は存在しないこと。

(2) 支店の営業は、本社の決定した月間売上、回収目標額を基準として、支店所属の従業員が直接顧客と売買(継続的売買を含む。)契約を締結し、商品を引き渡し、管理課を通じて本社にその取引内容を通知し、本社が本社名義の請求書を作成して顧客に直接送付し、その支払を催告するという方法で行われていること。

(3) 右請求書は、東京銀行福岡支店を通じ同銀行本店の相手方普通預金口座へ代金の振込を依頼するための振込依頼書、右福岡支店から東京銀行本店を経由して相手方に送付される振込通知書、東京銀行福岡支店が振込人に対して発行する振込金受領書の各用紙と一体となっており、また右請求書用紙の裏面には「銀行振込分に対してはマルマンとしての領収書の発行を省略させていただいております。振込銀行から発行されるところの『振込金受取書』を大切に保存して下さい。」との文言が印刷されていること。

(4) 顧客が代金の支払を遅滞するような場合には、支店従業員がこれを督促し、代金の全部または一部が右振込の方法によらず現金、小切手の交付等によってなされる場合には、相手方名義の、事業所名欄に福岡、扱者名欄に当該受領者名の各記入がなされた領収書が右支払人に交付されていること。

(5) 本件抗告人と相手方の売買取引も、上記(2)ないし(4)の方法によって行われていること。

以上の事実が認められる。

これらの事実によってみるときは、相手方支店の組織及び活動の実態は、確かに相手方の主張するように、特定の主宰者の一定範囲における裁量と責任の下において、全体が一個のまとまった、ある程度の独立性をもつ営業活動単位をなすものとして事業が営まれるという支店の典型的形態からは多少遠ざかっているものであることを否定することはできない。しかしながら、相手方が前記のように相手方福岡支店を商法上の相手方の支店として登記している以上、相手方は同支店が支店としての実体を有しないことをもって善意の第三者に対抗することができず(最高裁判所第一小法廷昭和四三年一〇月二七日判決集二二巻一〇号二二〇四頁参照)、本件においては抗告人が悪意であることにつきなんらの立証がないから、相手方は右福岡支店が商法五一六条三項にいう支店に該当しない旨を主張することができないのみならず、これを実質的にみても、相手方福岡支店が支店たる実体を欠くものということはできない。

すなわち、情報の伝達と処理の方法が飛躍的に発展した今日においては、本店の支店に対する連絡と統制が極めて容易となり、それに伴って支店の本店に対する相対的独立性もおのずから減少し、その重点は当該地域社会との密接な接触という方向に移動せざるをえないのであって、本件においても、相手方の営業である喫煙具や時計の販売が商品の大量的、定型的かつ継続的販売である関係上代金の請求支払に関する事務を本社で一括処理するのが便宜であるところから右に述べたような営業方式がとられながらも、他方支店自体はそれぞれの地域における販路の拡張や顧客との交渉、及び取引関係の設定及び維持上必要であるとして、専らかかる活動目的のために存置せしめられているものと考えられるのである。このようにみてくると、相手方福岡支店が、若干の不完全さをもつとはいえなお前記のような組織と構成をもち、上に認定したような営業活動をしている以上、それは単なる本社の機械的一分肢ではなく、ある程度の独立性を有する営業体として商法上の支店たる実質を有するものとみるのが相当であるというべく、相手方が福岡支店につき前記のように支店の登記をしたのも、主としてこのような理由によるものと考えられるのである。そして相手方福岡支店の従業員らが、右に述べたような支店設置の趣旨、目的に従い、当該地域における顧客の開発や取引関係の維持継続のために活動し、その一環として顧客との間で売買契約の締結、商品の引渡その他これらに関する諸般の行為をし、取引の相手方もまた専らこれら従業員を相手方支店の従業員として認識し、これとの間で売買取引等に関する折衝等を行っている以上、この間における支店従業員と顧客との間の売買取引は、商法五一六条三項の趣旨に照らしても同条同項にいう支店においてした取引に該当するものというべきであり、前記のように、相手方の内部関係において支店自体に売買取引に関する裁量が乏しく、また売買代金の請求等につき直接本店がこれに介入する等の事実が存しても、これらの事情は右結論を動かすに足りるものとはいえない。そうすると、本件売買契約における売買代金支払義務の履行場所は、前記商法五一六条三項及び一項により、当事者間に特段の意思表示が存しない限り、相手方福岡支店であるといわなければならない。

三 そこで次に相手方と抗告人との間の売買契約においては売買代金の支払義務の履行場所を相手方の本店とする旨の合意が存するとの相手方の主張について考えるのに、前記二の(2)及び(3)で認定した事実、特に代金の支払請求が直接本社から本社名義で買主である抗告人に対してなされ、代金の支払が通常東京銀行本店における相手方の普通預金口座に振り込むという方法でなされているということから、直ちに相手方のいうように右代金支払義務の履行場所を相手方本店所在地とする旨の合意が成立していたものとすることはできない。けだし、右の請求書は、売買契約が成立し、その目的物が引き渡されたのちに発行されるものであって、売買契約締結の際における合意の内容を直接に示すものではなく、本件においては、右証拠を補強し、上記内容の合意の成立を肯認せしめるような他の証拠はなんら提出されていないからである。もっとも、契約締結当時にこのような約定が存しなくても、その後相手方が右のような形式による代金の請求をし、取引の相手方である抗告人がこれに従い銀行振込によって売買代金を送金していたという事実が存するときは、これによって両者間に代金の支払場所を相手方の本店とする旨の暗黙の合意が成立したものと解すべきではないかとの議論もありうるであろうが、本件においてはこのように解することも相当ではないと考える。なんとなれば、相手方は自己の便宜から、本店が代金の直接本店への支払を請求するという方法をとっているとはいえ、他方取引先の便宜をも考慮し、最寄りの銀行に相手方の銀行預金口座への振込依頼の方法をとることを勧奨し、右取引先がこの方法をとったときは、振込依頼先銀行による振込金受領書をもって相手方の代金領収書に代えることとしており、このことは、買主が右振込依頼をしたときは相手方の危険負担において売買代金支払義務の履行があったものとする旨を表示したものと解されないではなく、結局これをもって相手方が売買契約に関して代金の支払場所を本店とする旨を明確に表示したものとすることはできず、したがって取引の相手方がその勧奨する方法によって代金の支払をしているとしても、このことからそこに代金支払場所についてこれを相手方本店とする旨の暗黙の合意が成立したものと推認することは困難であるといわざるをえないからである。また、前記のように相手方福岡支店における売買代金の支払の事実及びこれに伴う支店扱による本店名義の領収書の発行の事実が存することも、右の結論を補強するものということができる。そして他に相手方の上記主張事実を認めしめる証拠はないのであるから、右主張は採用することができない。

(中村 石川 高木)

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