東京高等裁判所 昭和52年(ラ)421号 決定 1977年9月07日
抗告人
横浜興産株式会社
右代表者
三村正己
右代理人
最首和雄
相手方
池仁浩
主文
本件抗告を却下する。
理由
抗告の趣旨及びその理由は、末尾添付の別紙のとおりである。
本件債権差押及び転付命令が、債務者である抗告人及び第三債務者である株式会社三菱銀行に、いずれも、昭和五二年五月二八日に適法に送達されたことは、一件記録上明らかである。そして、債権差押及び転付命令は、被差押債権を執行債権の弁済に換え券面額にて転付し、執行債権者に対し排他的、独占的に執行債権についての弁済を確保するにあるから、債務者及び第三債務者に対する送達により、強制執行手続は終了し、債務者は、執行手続即時抗告などの不服申立をすることができないものと解すべきである。
もつとも、執行当事者間において、もととなる債務名義についてあらかじめ強制執行停止決定が存し当事者間に送達されているなど、本来、執行当事者間において、強制執行をなすべきでないような法律状態が形成されているにもかかわらず、執行債権者がこれを無視し、執行手続上の不備を利用して、差押及び転付命令を申請するなど、執行手続上信義に反するようなことをしたような場合には、債務者に対し、不服申立を許容すべきである(当部昭和五二年(ラ)第三一五号事件昭和五二年七月六日決定参照)が、さもないかぎり、前記のように、差押及び転付命令に対する不服申立は許されないと解するのが相当である。
ところで、本件記録によると、債務者である抗告人は、昭和五二年六月三日前記差押及び命令につき当裁判所に対し即時抗告の申立をし、同年六月六日、横浜地方裁判所から本件差押及び転付命令のもととなる仮執行宣言付手形判決について強制執行停止決定が発せられたことが認められるけれども、右は、すでに、強制執行手続が適法に終了した後にされたものであり、したがつて、かかる事情があるからといつて、債務者たる抗告人に対し、不服申立を許容すべきいわれはない(かかる場合にも、不服申立を許容すべきであるとの裁判例もないではないが、かかる場合にまで、不服申立を許容するのは、前述した転付命令の制度の趣旨を無にするに等しく、従い難い。)。
なお、本件債権差押及び転付命令の請求債権目録中の支払期日について、更正決定がなされ、右決定が昭和五二年六月八日、いずれも、抗告人および前記第三債務者に送達されたことが、一件記録により認められるけれども、この事実が前記執行手続の終了を左右するものではないことはいうまでもない。
以上、述べたところによれば、抗告人は、本件差押及び転付命令に対する即時抗告をすることができないものというべきであるから、抗告人の本件抗告を却下することとし、主文のとおり、決定する。
(荒木秀一 中川幹郎 奈良次郎)
抗告の趣旨<省略>
抗告の理由<省略>