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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)691号 決定 1977年12月27日

抗告人 田島明峰

右代理人弁護士 成田哲雄

抗告人 東亜起業株式会社

右代表者代表取締役 立石直毅

右代理人弁護士 高橋敏男

同 岩崎千孝

相手方 鎮目豊高

<ほか四名>

主文

本件抗告を棄却する。

原決定主文第一項に「鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下二階地上一一階建共同住宅および店舗」とあるのを「別紙物件目録記載の建物」と更正する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定中抗告人らの申請を却下した部分を取消す。相手方らは、抗告人らが別紙物件目録記載の建物工事をするに当り、これを妨害してはならない。申請費用は全て相手方らの負担とする。」との裁判を求めるというのであり、抗告の理由は、別紙記載のとおりである。

一  抗告理由一について

本件記録によると、抗告人らは、原審において当初、申請の趣旨で「相手方らは、抗告人らが、原決定添付物件目録記載の土地(以下本件土地という)上に鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下二階地上一一階建共同住宅及び店舗(以下本件建物という)を建築するに当り、その工事の妨害をしてはならない。」との裁判を求めていたが、昭和五二年八月二二日付で申請の趣旨を減縮し、右建築物を別紙物件目録記載の建物(以下本件九階建建物という)としたことが明らかである。そして、本件疎明資料によると、右削減された建築物の容積率は四〇〇パーセントに近いものであることが認められる。ところで、原決定は「鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下二階地上一一階建共同住宅及び店舗を容積率三〇〇パーセントの範囲内で建築するのを妨害してはならない。」としているのであり、削減された本件九階建建物の容積率も三〇〇パーセントを超えているところからすれば、結局、原決定は減縮された申請のうち一部を認容し、その余を却下したことに帰するから、申立の範囲を超えて仮処分を命じているわけではない。抗告人らのこの点に関する主張は、採用することができない。

しかし、原審が右申請の趣旨の減縮を看過して、建築工事の目的物を減縮前の「鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下二階地上一一階建共同住宅および店舗」と表示したのは明らかな誤謬であるから、これを「別紙物件目録記載の建物」と更正することとする。

二  抗告理由二について

抗告人らは、原決定が保証を条件として仮処分を命じているのは違法であると主張する。なるほど、条件付仮差押命令を許容した明文の規定は存在しない。しかし、仮差押手続において債権者の立てる保証は、仮差押命令及びその執行により債務者の被ることがある損害を担保することを目的とするものであるが、実際上、仮差押命令自体により損害の発生することは少いから、仮差押命令前に予め保証を立てなくても、該命令の執行を保証の供与にかからせることによって右保証の目的を充分達成しうること、予めされた保証決定に基づき保証を立てた後でなければ仮差押命令を発しえないとすると、当該の事情により、特に急速に仮差押をする必要がある場合には、時機を失するおそれがあり、条件付仮差押命令を是認する実際上の必要があること、民事訴訟法第七四五条第二項は、仮差押命令に対し異議申立があった場合、異議裁判所が、当該仮差押命令の全部又は一部を認可するに当り、「自由ナル意見ヲ以テ定ムル保証ヲ立ツ可キコトノ条件ヲ付シテ之ヲ言渡スコトヲ得」と定めているが、この異議に対する認可の裁判は異議申立前における仮差押申請を認容する裁判とその性質を同じくするものであるから、同条項を後者の裁判についても類推適用すべきであることなどの理由から、現行法上、仮差押裁判所は、自由裁量により、保証供与後に仮差押命令を発する方法又は保証を条件として仮差押命令を発する方法を選択しうるものと解するのが相当である。そして、仮差押命令に関する規定は仮処分に準用されているのであるから、原決定が保証を条件として仮処分を命じたことはなんら違法ではない。

三  抗告理由三について

抗告人らは、原決定には所論のような事実誤認があると主張するので、検討する。本件疎明資料により一応認められる事実は、次に補足、訂正するほか、原決定理由説示(原決定二枚目表一行目から同七枚目表四行目まで)と同一であるから、それをここに引用する。

(一)  原決定四枚目表四行目に「債権者両名を乙、丙とし、」とあるのを「債権者両名を乙、解体及び鳶土工業者らを丙とし、」と、同裏四行目に「建蔑工事」とあるのを「建築工事」と、同六行目に「同年同月二三日」とあるのを「同年同月二四日」と、同六枚目表五行目に「住民地域」とあるのを「住居地域」とそれぞれ訂正する。

(二)  相手方川手いきは、現在七三才の老令であり、田島マンション建設反対同盟に所属しているとしても、実際に本件建物建築工事に対する反対活動に従事しているとは認めがたい。

(三)  原決定六枚目裏二行目から同七枚目表四行目までを次のとおり改める。

本件建物が、抗告人ら主張のとおり、本件九階建建物に削減して建築された場合でも、その容積率は四〇〇パーセントに近く、その八階部分は高さ約二三メートル、その九階部分は高さ約二六メートル(塔屋部分は三一メートル)に達する。また、その場合でも、相手方問馬すず宅から本件九階建建物に対する視角は西方に二三三度、同じく仰角は八九・五度(一一階建の場合の仰角)より幾分減じた角度、同榎本光春宅から本件九階建建物に対する視角は西方に二一〇度、同じく仰角は八九度(一一階建の場合の仰角)より幾分減じた角度となる。

なお、本件九階建建物は南北に長いものであるが、日照阻害については、これを冬至における地盤面で見ると、右建物の西北方に位置する相手方川手いき宅には早朝よりほぼ午前一〇時まで、同建物の北方に位置する相手方鎮目豊高宅にはほぼ午前一二時半より午後一時半まで、同建物の東方に位置する相手方問馬宅には正午過ぎより午後三時過ぎまで、同建物の東方に位置する相手方榎本宅には正午過ぎより午後三時過ぎまで、同じく東方に位置する相手方深町寿美男宅には午後一時半過ぎより午後三時過ぎまでそれぞれ日影を及ぼすこととなる。

以上のとおりであって、原決定には所論(ただし、抗告理由三の(四)の点を除く)のような事実誤認があるとは認められないから、抗告人らの主張は採用することができない。

四  抗告理由四について

抗告人らは、本件建築はあくまで従来どおり容積率五〇〇パーセントで施工されるべきである、と主張するので、この点について判断する。

前記認定のとおり、本件九階建建物は南北に長いため、日照阻害は全般的には比較的軽微といえるが、右建物の東方に位置する相手方問馬宅、同榎本宅は冬至において少くとも三時間の日照阻害を被ることになり、また右建物は高層建築物であるところから、付近住民に採光、通風の阻害、天空狭窄、圧迫感等の被害を加え、特に右両名宅は、右建物に近接して存在するため、その被害は著しいものと推認される。ところで、本件土地周辺の地域は、昭和五二年六月六日以降、容積率三〇〇パーセントの近隣商業地域に指定替されたが、このことは高層建築物の密集を避けて住環境の保護を計ろうとする趣旨によるものであるから、右のような本件土地の地域性にかんがみると、容積率を四〇〇パーセントに削減して建築したとしても、本件九階建建物によってもたらされる前記のような日照阻害、採光及び通風の阻害、天空狭窄、圧迫感等は、受忍の限度を超え、相手方らの人格権を侵害するものといわざるをえない。そして、住環境保護の観点からみて、右建物は容積率三〇〇パーセントの範囲内で建築される限りにおいて、付近住民も同建物建築の結果生じる日照阻害等による被害を受忍すべきである。

なお、抗告人らが、本件九階建建物建築の準備作業も整わない段階で、本件土地上に杭一本を打込んだからといって、右建物が建築基準法第三条第二項所定の「建築中の建築物」に該当するといえるかどうか疑問であるが、仮に「建築中の建築物」に該当するとしても、そのことは叙上の判断を左右するものとは考えられない(建築基準法に適合するとして建築確認を得た建築物でも、受忍限度を超える日照阻害等があれば、違法な建築として差止請求が認められるのである。)。

その他、記録を精査しても、原決定を取消すべき違法の点は見当らない。よって、本件仮処分申請を一部却下した原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから、これを棄却し、原決定主文第一項中の建築工事の目的物を前記のとおり更正することとし、抗告費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 枡田文郎 裁判官 山田忠治 佐藤栄一)

<以下省略>

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