東京高等裁判所 昭和52年(ラ)743号 決定
姓名判断に基づいて名を変更することはそれだけでは戸籍法第一〇七条第二項にいわゆる正当な事由によって名を変更しようとする場合にあたらない。もっとも姓名判断に基づいて戸籍上の名とは異なる名を使用してきた場合であっても、その使用が永年にわたり、今更これを戸籍上の呼称に変更するときには反って社会生活上著しい支障が生ずると認められるような場合があり得ることが考えられ、そのような場合にはなお名を変更しようとする正当事由ありといい得ることもあると考えられるが、本件においては抗告人はようやく本年(昭和五二年)小学校に入学したばかりの者であって、仮に出生後間もなく「ゆみえ」と呼ばれてきたとしてもその間わずか六年数か月であり、今これを「有満恵」と変更しなければ抗告人の社会生活に著しい支障を来たすほどの長年月の使用であるとは認められない。抗告人は、「和加子」を「有満恵」に変更することは、抗告人が現在小学校一年生であって、未だ社会的地位及び環境との関連において社会的に重大な影響を及ぼすとは考えられないから名の変更は許されるべきであると解される趣旨の主張をしているが、名の変更が社会的に重大な影響を及ぼさないというような事情は前掲戸籍法の「正当な事由」には該当しない。更に抗告人が現在に至るまで「ゆみえ」と呼ばれてきたとしても、「有満恵」が果して抗告人(又はその親権者)の希望するとおり「ゆみえ」と呼称されるかどうかについて疑問の点がないわけではなく、「うまえ」又は「ゆまえ」などと呼称されるに至る可能性も必らずしも否定することはできない。「有満恵」をもって「ゆみえ」と呼称させ、この名で今後抗告人に社会生活をさせて行こうというのは、現在の段階では親権者の主観的な意向にすぎず、それが果して抗告人本人の今後の幸福につながる可能性があるとすることにも一抹の疑問がないでもない。むしろ小学校に入学した現在の段階においてこそ従前呼称し又は呼称されてきた「ゆみえ」から戸籍上の「和加子」に戻す好個の機会でもあるということができる。
いずれにしても本件は抗告人の名を変更するについて正当の事由がある場合に該当するものとは認められないから、抗告人の申立を却下した原審判は相当であって、本件抗告は理由がない。
(菅野 舘 高林)