東京高等裁判所 昭和52年(ラ)928号 決定
一件記録によれば、右競売事件において競売裁判所から競売の目的物件である本件土地・建物(原決定物件目録記載の土地・建物)の評価を命じられた鑑定人小林秀嘉は、本件建物を金七〇三〇万円、本件土地を金七一四万円と鑑定評価したこと、本件建物は鉄筋コンクリート造陸屋根六階建のビルで、本件土地に対する抗告人の抵当権設定後に土地所有者である相手方によって建築されたものであるが、右抵当権の設定当時本件土地上には相手方所有の木造亜鉛メッキ鋼板葺三階建の建物が存在し、本件建物は右旧建物を取り壊した跡に床面積を若干減じて建築されたものであったため、小林鑑定人は、競売の場合には本件建物のため取壊前の旧建物が残存する場合と同一内容の法定地上権が生ずるものとして、本件土地・建物の評価をしたこと、競売裁判所は本件土地・建物を一括入札払の方法により換価すべきことを命じ、右鑑定評価の結果を採用して、最低入札価額の総額を金七七四四万円としたほか、本件土地については抗告人が最優先順位の抵当権を有するが、本件建物については抗告人の抵当権に優先する小松建設工業株式会社及び林竹松の各抵当権があり、また両物件の所有者を異にするに至っていたため、物件毎に売得金を算出する必要があったので、本件建物につき金七〇三〇万円、本件土地につき金七一四万円の最低入札価額を定めたこと、がそれぞれ認められる。
そして、右認定のように土地に対する抵当権設定時に存在した法定地上権の成立要件を充足する建物が取り壊され、その跡に土地所有者により新建物が再築された場合でも、競売により土地と建物が所有者を異にするに至るときは、法定地上権の成立を妨げず、その内容は、原則として取壊し前の旧建物が残存する場合と同一のものとなると解すべきである(大審院大正一〇年八月一〇日判決民集一四巻一五四九頁、最高裁昭和五二年一〇月一一日判決、民集三一巻六号七八五頁参照)から、前記鑑定人の評価及びその評価額を採用して最低入札価額を定めた競売裁判所の措置に、法律関係に関する誤った判断を前提とした違法があるものということはできない。ここにいう旧建物が残存する場合と同一の内容とは、新建物のため土地を利用しうべき権限が、旧建物を基準として定められる区域や存続期間等の範囲内で認められることを意味し、新建物が従前の非堅固建物とは異る堅固な建物であるからといって、抗告人のいうように、遡って用法違反の建物となり収去を免れない関係をもたらすものではない。
抗告人は、本件土地上に存した旧建物を取り壊してその敷地を更地としたうえその地上に本件建物を建築するため、本件土地を更地として評価してこれに抵当権を設定し、旧建物の取壊資金と新建物の建築資金とを貸与したのであり、本件建物につき一番抵当権を取得した小松建設工業株式会社もこのことを承知して抗告人の融資金のうちから工事請負代金の内金二六〇〇万円の支払を受けたものであるから、右建物につき法定地上権の成立することを認めることは、土地抵当権者である抗告人の予期に反するとともに、建物抵当権者に対し不当な利益を与えるもので、失当であると主張する。しかし、前叙のとおり客観的に法定地上権の成立すべき要件を充足していることが認められる本件事実関係のもとにおいて、土地を更地として評価したうえ抵当権を設定したというような個別的事情によって、競売の法定効果を左右し、法の保障する関係者の利益を害することを認めることはできないところというべく、更地としての評価に応じてこれにより直接の利益を得た債務者自身については、あるいは法定地上権の利益の放棄を約したものとしての債権的拘束が及ぶにしても、かかる放棄の効果をもって、その後に建物につき抵当権を取得した債権者や右建物の競落人等の第三者に対抗しうべき限りでない。本件建物の一番抵当権者となった小松建設工業株式会社が、抗告人主張のように、本件土地上の抵当権設定時の評価事情を知り、また右抵当権設定に伴う融資金から自己の債権に対する内入弁済を受けたという事実があっても、そのことから直ちに、同会社を、自己の取得する抵当権の目的物件たる本件建物のために法定地上権の発生する利益を放棄したものとして扱うのが相当であるとはいえないから、上述したところと解釈を異にすべき理由は出てこない。
抗告人は、一括入札払の命じられた本件においては、競落の結果土地と建物とが所有者を異にすることはありえず、法定地上権の発生する余地は法律上も全く存しないのであるから、売得金の配分基準となる各物件の価額を定めるにあたっては、その主張するような抵当権設定時の事情に則り、法定地上権は度外視した評価方法がとられるべきであるとも主張する。しかし、本件のように同一所有者に属する土地及び地上建物につき個別に抵当権が設定され、各物件につき抵当権者の優先順位を異にする場合には、両物件が一括して換価される保障はなく、通常の換価方法である個別競売に付され、所有者を異にするに至ることが当然に予想されるが、その場合に民法三八八条の適用により法定地上権の成立が認められるのは、もともと、建物抵当権者は、かかる場合に成立すべき地上権を潜在的に伴ったものとしての建物のうえに、逆に土地抵当権者は、かかる場合に地上権が成立することを忍受すべき潜在的負担を伴ったものとしての土地のうえに、それぞれの優先弁済権を取得しているものとして扱うのが、各抵当権者及び設定者の合理的意思に合致するものとする法意に由来するものであるから、たまたま土地及び建物が一括して競売ないし入札払に付され地上権が現実には発生しない場合においても、売得金配分の基準価格は、両抵当権の内容として法の予定するところとみるべき前述のような担保価値の把握態様に応じ、潜在的に法定地上権の利益ないしその負担を伴ったものとして評価されるのが正当というべきである。抗告人のいう本件土地に対する抵当権設定時の事情を斟酌しても、設定者が法定地上権の利益の放棄を約したものとみるべきだからといって、そのことをもって、本件建物の一番抵当権者となった小松建設工業株式会社には対抗するをえず、同会社が自ら右利益を放棄したものとはなしがたいこと前叙のとおりであってみれば、右の結論は動かしえない。
(高津 横山 三井)