大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)101号 判決

事実及び理由

第一  請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

第二  そこで、原告主張の審決取消の事由について判断する。

一  引用例の記載内容及び本願考案と引用例の技術とを対比した場合の構成上の相違点が審決に認定のとおりであることは、原告の自認するところである。原告は、右構成上の相違点に基づいて本願考案は、引用例のものにない格別の作用効果がある旨主張するので、この点について順次検討する。

1  ベルトの波打ち現象、左右の振れ現象について

原告は、引用例のものは、ベルトの波打ち現象、左右の振れ現象を生ずるとし、その原因として、(一)ベルトとチエンの相互のずれ、(二)ベルトの自重及び荷重による伸び、たわみをあげているので、この点について考える。

(一) ベルトとチエン相互のずれによるベルトの波打ち、左右の振れ現象

成立に争いのない甲第三号証(引用例)によると、引用例には、「各アーチ型片2に軸3が設けられ、その各端には支持ローラ4が設けられている。この支持ローラ4は山形杆の形をなしたレール5の間に置かれている。ベルトの横の移動を制限するために、軸3には、その端面に小形ローラ6が設けられている。これらは、ベルトが横方向のストレスを受ける場合には、レール5の垂直側に契合する。」との記載があり、このような記載と同引用例に示された図面とを併せ考えると、実施例に示されたベルトは、そのアーチ型片2が軸3と支持ローラ4とにより支持されており、チエンが軸3から懸吊されるフツクの下端で、かつ、ベルトの矩形片1の直下下面に懸吊されているので、この場合フツクは大きく傾斜することがないものと考えられる。すなわち、フツクがベルトの長さ方向、幅方向に傾倒しようとしても、支持ローラ、小形ローラ等に制限されて、あまり傾斜することがなく、ベルトとチエンの間には、さほどずれが生じないものと考えられる。そうしてみると、引用例のものは、始動時及び停止時に、ベルトの長さ方向に多少揺動することがあつても、回動中は、ベルトとチエンの相互にずれはなく、波打ち現象を起すとは考えられない。また、ベルトの幅方向に対しては、小形ローラがあるため、振れ現象を起すことがない。

成立に争いのない甲第二号証の一、二及び当事者間に争いのない本願考案の要旨とによると、本願考案にあつては、ベルト本体の長さ方向にわたつてチエンが固着し一体化していることからすると、ベルトの長さ方向に傾動を生じないものといえるが、ベルトに固着し一体化しているチエンについて、実用新案登録請求の範囲においてその数が特定されていないことが認められ、したがつて、例えば、ベルトの左右にそれぞれ一本づつ配置される場合ばかりでなく、一本のチエンで駆動される場合も当然に含まれるのであり、このように一本のチエンで駆動される場合には、本願考案のベルトも、例えば引用例における支持ローラのようなものがなければ、ベルトの幅方向に傾動しないとはいえない。そうすると、ベルトの幅方向の傾動において、両者に差異はなく、また、ベルトの長さ方向の傾動に関して、引用例のものは、多少傾動することがあつても、それは単にわずかな程度の差に過ぎず、これによつて波打ち現象が生ずるものとは考えられない。

つまり、引用例のものにおいても、ベルトとチエン相互のずれはなく、したがつて、それによるベルトの波打ち現象や左右の振れ現象は生じないものというべきであるから、構造上の差異については後に触れるとして、両者にこの点について特段の作用効果上の差異があるものとは認められない。

(二) ベルトの自重及び荷重による伸び、たわみとベルトの波打ち、左右の振れ現象

前掲甲第三号証によると、引用例(明細書)には、「コンベアベルトをゴムより造り、織布あるいは金網の挿入物を設けるのが最もよい。」との記載があり、このことからすると、引用例に示されたベルトは、コンベアにおいて通常用いられるベルトと同様のものであり、そうすると、ベルトの使用時の伸びは通例一、二パーセント程度であるから、引用例のベルトを構成する一個の矩形片1は、自重及び荷重によつて伸びたとしても、その値は極めて小さく、しかも、それぞれの矩形片1の伸びは、支持ローラのためフツクの傾動が制限されている関係上、隣接する矩形片にまでは及ばないものと解される。もつとも、その場合でも、矩形片1が、自重及び荷重により多少の伸び、たわみを生じないとはいえないとしても、従来のコンベアにおけるベルトの伸びたわみは、各部分部分の伸びが加算されて全体として大きなたわみとなるものであるのに対し、引用例のものは、チエンの各所に、フツクが設けられ、これにベルトが懸吊されているのであるから、個々の矩形片の伸びが加算されることがなく、したがつて、ベルト全体が大きくたわむことはないので、ベルトの波打ち現象は生じないと考えられる。

(三) なお、引用例のものは、曲線路を移動するに適するように、曲線路の外側に位置するベルトの端部を伸張し、内側に位置するベルトの端部を収縮できるようにしたものであるが、ベルトの中央部分は、伸張も収縮もしない普通のベルトと変りがなく、この部分にフツクを介してチエンが懸吊されているものであるところ、審決が引用した技術は、ベルトにフツクを取り付け、そのフツクにチエンを懸吊したコンベアベルトであるから、引用例のものが本願考案との対比において不適当なものであるとはいえない。

2  ベルトの回転速度について

既に、1において検討したとおり、引用例のものにおいて、チエンとベルトのずれは、始動時又は停止時に若干生ずる程度であつて、回転中はゆるみやずれは生じないので、ベルトの回転速度は、ほぼ一定とみられる。そして、引用例のものは、ベルトを牽引するチエンがスプロケツトとの噛合により、ベルトが駆動されるのであるから、通常のコンベアのようにプーリによる摩擦駆動の場合にみられるスリツプ現象はなく、しかも、前1において述べたとおり波打ち現象、左右の振れ現象も起らないので、ベルトにスリツプ現象は生じないと考えられる。

結局、引用例のものも本願考案と同様にベルトの回転速度を一定に保つことができるものである。

3  コンベアの引張り強さについて

(一) まず、コンベアに必要な引張り強さを保持しながら、ベルトの引張り強さを小さくできるかについて検討する。

引用例のものは、前1、2において検討したとおり、チエンが駆動による引張り力を負担し、ベルトは単にチエンに引かれて動かされ、ベルトの自重と荷重のみを受けもつものであるから、コンベアの引張り強さとは無関係にベルトの引張り強さを小さくすることができるものと考えられる。したがつて、この点においては、引用例のものは本願考案のものと格別の差異がない。

(二) 次に、コンベアの引張り強さを大きくできるか否かについて検討する。

引用例のものは、前述のとおり、チエンのみが駆動による引張り力を負担するのであるから、ベルトの引張り強さは、コンベアの引張り強さを増大することに寄与せず、したがつて、コンベアの引張り強さを増大させるのには、もつぱらチエンの引張り強さを増大しなければならない。これに対し、本願考案では、ベルトの引張り強さにチエンの引張り強さを加算したものがコンベアの引張り強さとなるから、ベルト又はチエンのいずれかを強化すれば、コンベアの引張り強さを大きくすることができ、両者は、この点において相違する。

ところで、チエンとベルトとからなるコンベアにあつては、その引張り強さを大きくするのに、チエンの引張り強さを大きくする場合と、ベルトの引張り強さを大きくする場合とが考えられる。そして、前者の場合には、本願考案も引用例のものも、コンベアの引張り強さを大きくすることができる点で変りがないが、後者の場合、本願考案においては、コンベアの引張り強さを大きくすることができるけれども、引用例のものはコンベアの引張り強さを大きくすることができない。

しかし、ベルトの引張り強さを大きくしてコンベアの引張り強さを増化させることは、本願考案の明細書(前掲甲第二号証の一、二ページ六行目より三ページ一行目)に記載されているとおり、例えば、柔軟性が阻害され屈曲疲労を早めるなど種々の欠点を生じ、本願考案は、これらの欠点を除去することを目的とするものであるから、ベルトの引張り強さを増大させることは、本願考案の目的に反することである。したがつて、ベルトの引張り強さを大きくしてコンベアの引張り強さを大きくする点が引用例のものと相違しても、その点は、本願考案の利点とすることはできないし、一般に、ベルトの引張り強さを強化してコンベアの引張り強さを大きくすることは普通のことであつて、格別のものではない。

また、本願考案が、ベルトの引張り強さを小さくしてこれにチエンの引張り強さを加算し、コンベアの引張り強さを大きくすることができるとしても、本願考案は、前1に述べたとおり、ベルトに固着するチエンの本数、取付場所が特定されていないのであるから、例えば、ベルトの中央に一本のチエンを固着した場合は、中央部の強さは増加するが、荷重がかかるベルトの左右部分の強さは増加しない。したがつて、このような場合には、本願考案は、コンベア全体としての実用的な引張り強さをそれ程増加させることはできないものと考えられるので、格別なものとすることはできない。

(三) そうすると、引用例のものも、本願考案の明細書に記載された「ベルト本体の実用的強度を低下させることなく、ベルトの補強芯材の数及び太さ、厚みを減少でき、同時に軽量化する。」との効果を奏しうるものであり、コンベアの引張り強さにおいて前述のとおり本願考案と一部相違する点があつても、その点は格別なものではないから、両者に効果上格別な差異がない。

4  ベルトの薄肉化、軽量化及びコストダウンについて

前1、3に検討したとおり、引用例のものは、駆動による引張り力はチエンにかかりベルトにはかからず、ベルトには、自重と荷重がかかるだけであるから、引用例のものも、従来のベルトに比べてベルトの補強芯材の数量及び太さ、補強織布材の層数を減じ、ベルトの薄肉化、及び軽量化の効果を収めることができる。

したがつて、チエンの引張り強さがコンベアに必要な引張り強さ以上のものを選ぶ場合においては、引用例のものも本願考案と作用効果において格別の差異はなく、コストダウンを図りうる点においても両者変りがない。

5  耐久性について

前1ないし4で検討したとおり、引用例のものも駆動による引張り力はチエンによつて負担され、ベルトに波打ち現象等が生ずることもないから、ベルトを薄肉に形成して屈曲疲労による割れの生ずることを少なくすることができるので、ベルトの耐久性を向上させることができるものである。この点においても、引用例のものと本願考案との間に格別の差異はない。

二  当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、本願考案のコンベアベルトは、環状のベルト本体の長手方向にわたつて、環状のチエンを固着し一体化してなるものであるところ、この「固着し一体化」する構成については、前掲甲第二号証の一、二によれば、「ベルト本体1を構成するところの下面には、スプロケツト4に噛み合うように形成されたチエン5は、取付部材6によつて固着されベルト本体1と一体化している(第一図、第二図)。」、「ベルト本体を構成するところの下面に、スプロケツトに噛み合うようなチエンを固着し一体化しているので、ベルト本体を駆動するような駆動力を任意な個所から挿入することができる。」と説明されていることが認められる。したがつて、本願考案においては、チエンは、ベルト本体の下面に、適宜の数の取付部材によつて固着され、適宜の個所でスプロケツトと噛み合つて、駆動力の挿入を受けるものであることが明らかである。すなわち、チエンが、ベルト本体の下面に懸架固着されるコンベアベルトが、本願考案に包含されることはいうまでもない。

一方、前掲甲第三号証によれば、引用例のものにおいては、チエン(無端屈撓性牽引具)は、ベルト本体に捻子等により固定された軸に取付けたフツクによつて、適宜の個所でベルトの矩形片の直下下面に懸吊され、駆動輪に契合しこれとの同期運動が確保され、ベルトを駆動するものであることが認められる。

したがつて、本願考案と引用例のものとは、ベルト本体に、取付部材によつて懸架固着されるか、取付部材の一つであるフツクによつて懸吊されるかの単なる構成上の差異があるにとどまる(なお、後者は、ベルトを、直線路のみならず、曲線路上の運動にも適せしめるために、単にチエンの懸架固着にとどまらず、さらに創作力を加えて、フツクによる懸吊としたものと解される。)ところ、その作用効果についても、上来説明したとおり、特段の差異が認められないから、本願考案は、引用例のものに基づいて当該技術の分野における通常の知識を有する者の極めて容易に考案をすることができる程度のものとするのが相当である。原告の主張は、すべて採用できない。

第三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

環状のベルト本体の長手方向にわたつて環状のチエンを固着し一体化してなるコンベアベルト。

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