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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)109号 判決

一 請求原因事実中、本願発明について、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続の経緯、発明の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由の有無について判断する。

1 原料物質について

原告は、先願発明における原料たる有機カルボニル化合物はフルフラールを包含しないと主張する。

ところで、先願発明の要旨が審決認定のとおりであり、これには、原料について、単に「有機カルボニル化合物」とあるのみで、それ以上限定されていないことは、原告の自認するところである。そして、成立に争いのない乙第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三に弁論の全趣旨をあわせると、有機カルボニル化合物とは、カルボニル基を含む有機化合物の総称であつて、一般に、脂肪族、脂環式、芳香族、複素環式等に分類され、本願発明における原料たるフルフラールは、複素環式の有機カルボニル化合物に属するが、広義の芳香族化合物というときは、複素環式化合物中芳香族性を有するもの(フルフラールがこれに属する。)をも包含するものであることが認められるところ、成立に争いのない甲第四号証(先願発明の公報)によれば、先願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、原料たる有機カルボニル化合物について、そのうち複素環式のものを除外する旨の記載は存しないことが明らかである。

もつとも、右詳細な説明の項の冒頭には、原告の指摘する「本発明は、Rがアルキル基、アラルキル基及びシクロアルキル基であるR―NH2なる構造の第一級アミン類を相当するカルボニル化合物より製造する方法に関するものである。」との記載があり(この記載のあることは、被告も認めている。)、この「相当するカルボニル化合物」は、脂肪族、脂環式及び芳香族のものを指すものと解されるが、先願発明にいう「有機カルボニル化合物」がこれらのものに限定される趣旨であるとしても、その芳香族化合物が、芳香族性を有する複素環式化合物を除外したところの狭義の芳香族化合物に限られるかどうかについては、明細書上何らの記載がない。

のみならず、前掲甲第四号証によれば、先願発明は、還元アルキル化(還元アミノ化)反応として知られている、脂肪族又は芳香族アルデヒド又はケトンとアンモニアとから還元条件下に接触的に第一アミンを製造する従来法については、種々困難な点があつたので、補助アミンとして第一アミンを使用することによつて、目的物たる第一アミンを選択的に製造できるように改良したものであること及びその明細書の発明の詳細な説明の項には、従来法の技術を記載した文献として「オーガニツクリアクシヨンズ」(四巻一七四頁ないし二五五頁)を明記していることが認められるが、成立に争いのない乙第一号証の一、二(右刊行物)によれば、右刊行物中「芳香族アルデヒドから」とする項には、フルフラールからフルフリルアミンを製造する場合が記載されていることが認められるから、これからみると、先願発明の明細書の冒頭の記載が指すところの芳香族化合物とは、フルフラールを含む広義の芳香族化合物をいうものと解するのが相当である。

これについて、原告は、フルフラールが独特の挙動を示すものであつて、無差別に他のアルデヒドの代用にはされえない旨主張し、成立に争いのない甲第五号証の三には、その主張に添う記載が存する。しかし、同号証によれば、右記載は、シアン化アルカリの影響下にフルフラールを二量化する反応、カニツツアーロ反応あるいはフラン核が開裂するような反応の場合に、フルフラールが無差別には他のアルデヒドの代用にされえないという趣旨であつて、先願発明及び本願発明の対象とする還元アミノ化反応とは関係のない事柄というべきであり、また、かえつて、成立に争いのない甲第二号証(本願発明の明細書)によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、「イミンは不安定であり、該現象は、一般にイミンがそのC=N結合の近くにベンゾール又はフラン核を含有するような場合特に著しい。」(二頁五行ないし七行)及び「ベンズアルデヒドは、アンモニアの存在において同様の性能を有し、ベンジルイミンを生じ、次いでヒドロベンズアミドを、次いでアマランチンを生じる。」(三頁四行ないし七行)と記載されていることが認められ、これらの記載からすると、フルフラールと狭義の芳香族化合物たるベンズアルデヒドとは、還元アミノ化反応において類似の反応を示すものということができるから、前掲甲第五号証の三の記載があるからといつて、先願発明の有機カルボニル化合物がフルフラールを包含しないものとすることはできない。

また、原告は、本願発明が、フルフラールからフルフリルアミンを製造するについて存在した問題を解決したものであるのに対し、先願発明の明細書にはこれに触れていない旨主張し、その事実は、被告も認めるところである。しかし、前判示のとおり、本願発明の明細書自体に、ベンズアルデヒドがフルフラールと同様の反応性を示すことが記載されていることからも明らかなように、本願発明の解決した問題がフルフラールからフルフリルアミンを製造する場合に特有の問題であつたと解することはできないから、原告主張の事実をもつて、先願発明における原料からフルフラールが除外されていることの根拠とすることはできない。

以上のとおりであつて、結局、先願発明の有機カルボニル化合物は、その要旨にあるとおり、格別限定されていないものであり、仮に限定されているとしても、少なくとも、広義の芳香族化合物については、これを包含する概念であるというべきであり、したがつて、本願発明における原料たるフルフラールは当然これに含まれるから、審決が、両発明は原料物質において差異がないとしたのは正当であつて、原告の主張は採用することができない。

2 希釈剤の使用について

先願発明においては、希釈剤の使用を必須要件としてはいないが、発明の実施に当たつて、希釈剤として水を使用するものであること及びその明細書に水以外の希釈剤について記載されていないことは、当事者間に争いがない。

なお、原告は、先願発明の明細書に「一般的にいつて、生成するシツフの塩基型物質が水不溶性となるようなアミン類を第三物質として選ぶのが望ましい。」との記載があること(このことは、被告も認めている。)を根拠として、先願発明の第一段階反応(シツフ塩基型物質を生成するまでの工程をいうものと解される。)では、水が希釈剤として使用できない場合を好ましいとしている旨主張するけれども、前掲甲第四号証によれば、右記載は、その表現どおり、水に溶解しないシツフ塩基型物質を生成するような第三物質(補助アミン)を選択することが望ましいというだけの意味であつて、原告主張のように、水を希釈剤として使用できない場合を好ましいとか、また、水不溶性の第三物質を使用するのが好ましいとかの意味を有するものであるとはいえない。

そこで、先願発明における希釈剤の使用について考えるに、前項において判示したとおり、先願発明は、従来法たる還元アミノ化反応について、補助アミンとして第一アミンを使用することによつてこれを改良したものであるところ、前掲乙第一号証の一、二によれば、従来法の文献たる前記「オーガニツクリアクシヨンズ」には、「還元が接触的に行なわれる場合、反応は、通常エタノール溶媒中で行なう。」(一七五頁本文の末尾二行)及び「(ベンズアルデヒドからの)反応は、エタノール溶媒中、ラニーニツケルを触媒として行なわれる。」(一七九頁一八行ないし二一行)の記載があることが認められ、これらの記載からすると、先願発明にいう従来法においては、一般に、溶媒(希釈剤)としてエタノールを使用していたものといつて差支えないから、その改良法たる先願発明においても、希釈剤として、明細書中にその具体的な例示はないけれども、エタノールを使用することは排除されていないものと解するのが相当である。

なお、原告は、本願発明においては、希釈剤としてエタノールを使用することにより、その主張の(イ)、(ロ)の作用効果を収める旨主張し、その事実は、被告も認めるところである。しかし、(イ)の効果が、エタノールに限らず希釈剤を用いたことによる当然の結果であることは、原告自身認めており、(ロ)の再使用(第一段階への返還)の点については、先願発明においても、希釈剤の回収再使用が必要可能であれば、当然それが実施されるものと解されるし、また、エタノール以外の希釈剤を使用することによつて、回収の際、モノブチルアミンと希釈剤とが分離したとしても、再使用の際、一緒にすればよいだけのことであつて、格別の困難性を伴うものではないから、結局、右各効果をもつて、先願発明には期待することのできない顕著なものであるということはできない。

そうすると、審決が、先願発明においても希釈剤の使用を排除するものでないとしたのは正当であつて、原告の主張は採用することができない。

3 反応体及び触媒の添加時期について

(一) まず、反応体たるアンモニアについて検討する。

先願発明の要旨には、「第一級アミンを第三物質として使用し、これに有機カルボニル化合物を縮合反応させて得たシツフ塩基型物質をアンモニアで処理した後、さらに……」とあり、これにその明細書(前掲甲第四号証)の記載をあわせると、先願発明において、アンモニアを反応系中に添加する時期は、原料たる有機カルボニル化合物と第三物質たる第一アミンとを縮合反応させてシツフ塩基型物質を生成した後の段階であることが明らかであつて、その時点については特定されていないとする被告の主張は、採用することができない。

他方、本願発明については、前掲要旨には、「フルフラール、……補助アミンとしてのモノブチルアミン、……希釈剤としてのエタノール及び一モル過剰のアンモニアを混合し、この混合物を室温で反応させ」とあり、これによれば、一見、アンモニアを反応の当初の段階から存在させることが要件となつているようにも窺われる。

ところで、前掲甲第二号証及び成立に争いのない甲第三号証(本願発明の手続補正書)によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、合計七個の実施例(但し、そのうち一及び六は従来法に関するものである。)が示されているところ、実施例四においては、反応装置である加圧釜中にすでに装入されているエタノール、モノブチルアミン及びアンモニアの混合物中に原料たるフルフラールを導入する方法、すなわち、アンモニアが反応の当初の段階から存在する方法が記載されているが、その反面、実施例二、三、五及び七においては、加圧釜中にエタノール、モノブチルアミン及びフルフラールを装入した後の段階にアンモニアを添加する方法が記載されていることが認められる。もつとも、原告は、実施例二、三、五及び七について、他の反応成分の添加後、時間的にはほとんど同時にアンモニアを添加していると主張する。しかし、もともとアンモニアは第一段階たるシツフ塩基型物質の生成に関与しないものであること(この事実は、当事者間に争いがない。)をも考慮すると、右各実施例の場合において、加圧釜中に前記成分を装入してからこれをアンモニアの圧力下におく操作をするまでの時間が、原告主張の「ほとんど同時」といえる程度の短時間であることを必須とするものとは、容易に考え難いところであつて、少なくとも、アンモニアが添加される前に、すでに、原料たるフルフラールと補助アミンたるモノブチルアミンとが反応して、シツフ塩基型物質が生成しているものと解するのが相当である。

そうだとすると、本願発明の要旨中前掲の文言は、フルフラール、モノブチルアミン及びエタノールに対するアンモニアの混合順序を特定したものではなく、また、アンモニアを反応の当初の段階から存在させることを要件としたものと解することは相当ではなく、本願発明は、一及び六を除いた各実施例に示されるように、アンモニアを反応の当初の段階から存在させる場合はもとより、シツフ基型物質が生成した後の段階にこれを添加する場合をも包含するものであるといわねばならない。

したがつて、右のうち後者のアンモニア添加時期は、まさに先願発明の場合と同一であるから、その点において、両発明の間に差異がない。

(二) 次に、触媒について検討する。

先願発明の要旨には、「……縮合反応させて得たシツフ塩基型物質を……遊離アンモニアの存在下、接触的に水素化反応を行なう……」とあるのみで、他に触媒の添加時期を特定した文言はないことが明らかであり、また、前掲甲第四号証によれば、先願発明の明細書の発明の詳細な説明の項に示された実施例においては、いずれも、反応混合物に触媒を加えてオートクレーブ(反応釜)に入れ、これに水素を圧入して水素添加反応を行なつていることが認められる。

他方、前掲本願発明の要旨には、「通常の水素添加触媒、例えば……の存在下に反応混合物をそのまま水素添加を受けさせ」とあるのみで、他に触媒の添加時期を特定した文言のないことは、先願発明の場合と同様であり、また、前掲甲第二、第三号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項に示された実施例においては、いずれも、触媒の入つている反応釜に反応混合物を入れ、これに水素を圧入して水素添加反応を行なつていることが認められる。

右各認定から考えると、先願発明及び本願発明においては、触媒については、いずれも、水素添加反応の段階でこれを関与させることが要件とされているのみであつて、これを反応の当初の段階から存在させるかどうかの点は、何ら特定されていないものというべきである。

したがつて、両発明は、触媒の添加時期の点においても差異があるとはいえない。

(三) 以上のとおりであるから、審決が、両発明におけるアンモニア及び触媒の添加時期についての差異を看過したとする原告の主張は、採用することができない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

フルフラールからフルフリルイミンを生成し、次にフルフリルイミンを接触的に水素添加することによつてモノフルフリルアミンを製造する方法において、フルフラール、フルフラールに関して少なくとも一〇分の一の化学量論的割合の量、好ましくは化学量論的過剰の量の補助アミンとしてのモノブチルアミン、二五重量%以下の水を含む希釈剤としてのエタノール及び一モル過剰のアンモニアを混合し、この混合物を室温で反応させ、八〇ないし一五〇度C、好ましくは一〇五ないし一二五度Cの温度で、一〇ないし三五〇バール 好ましくは一五ないし三〇バールの有効圧力下、通常の水素添加触媒、例えばラニーニツケル、ラニーコバルト、又は担体上に担持した還元ニツケルあるいは還元コバルトの存在下に反応混合物をそのまま水素添加を受けさせ、再生した補助モノブチルアミン及びエタノールを一緒に反応生成物から分離し、そして、過剰アンモニアとともに再循環させることからなることを特徴とするモノフルフリルアミンの製造方法。

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