東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)125号 判決
事実及び理由
一 請求原因事実中、原告が実用新案権者である本件考案について、被告の登録無効審判の請求から審決の成立にいたるまでの手続の経緯、考案の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の取消事由について順次検討する。
1 原告主張の1について
本件考案と第一引用例のものの対応部位及び構造上の一致点が審決認定のとおりであること、ポンチの戻し上昇という機能において本件考案の引ばねと第一引用例のアキユムレータとが同一であること並びに本件考案も第一引用例のものも、穿孔子(ポンチ)の離脱上昇時における被穿孔体の共上り防止を目的とし、その効果を収めるものであることは、いずれも原告の認めるところである。
ところで、本件考案における穿孔作動が原告主張の順序、態様によつて行なわれることは、被告の明らかに争わないところであり、他方、第一引用例のものの穿孔作動については、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によると、次のとおりであることが認められる。すなわち、
液圧管6を通じて圧液導入孔から中空体1の上部に圧液を圧入すれば、ポンチ保持スピンドル11と一体に組立てられたピストン3は、ピストンの下側の室5の液を介してアキユムレータ26内の密封空気を圧縮しながら、分離ユニツト19及びポンチ17を伴つて降下して行き、一定位置まで来ると、分離ユニツト19はその下端が被穿孔体を押圧することにより降下を停止し、ポンチ17のみはさらにポンチ保持スピンドル11の降下続行に伴つて押ばね24を圧縮しながら降下して穿孔を行なう。そして、穿孔終了後は、ピストン3上面に対する液圧を抜けば、穿孔時までに圧縮されていたアキユムレータ26内の密封空気の膨脹する力と、圧縮されていた押ばね24の伸びる力(弾撥力)とによつて、まず、ピストン3と一体に組立てられたポンチ保持スピンドル11のみがポンチ17を伴つて先に上昇を開始し、スリーブ18の上縁が分離ユニツト19に設けた下部鍔に接触した後は、押ばね24の伸びは停止し、アキユムレータ26内の密封空気の膨脹力は、なお引続きピストン3と一体に組立てられたポンチ保持スピンドル11、ポンチ17及び分離ユニツト19を引上げ、ピストン3の上縁が蓋体に接することにより、すべての動きが停止する。
右両者の作動態様を対照すると、結局、本件考案において中ぐりピストン6、ポンチ10、押圧筒8、押ばね17、引ばね16等の有する機能は、それぞれ第一引用例のものにおいてピストン3と一体に組立てられたポンチ保持スピンドル11、ポンチ17、分離ユニツト19、押ばね24、アキユムレータ26等の有する機能と同等であつて、本件考案の引ばねの代りに第一引用例のものではアキユムレータが用いられているが、両者ともに、穿孔子の離脱上昇時における被穿孔体の共上り防止の目的を達成する技術手段として格別の差異があるものではなく、原告の主張する、本件考案における引ばねの引く力と押ばねの伸びる力との特有の力関係なるものも、第一引用例のものにおいても、アキユムレータの空気圧による力と押ばねの伸びる力との関係にそのまま相応するものであるから、これをもつて本件考案の特徴であるということはできない。
次に、原告は、ピストンを押圧する出力が、第一引用例のものでは、下方室にアキユムレータから送り出される圧力の分だけ減殺され、本件考案では、引ばねの引く力の分だけ減殺され、ともにその減殺分が出力損失となること(この点は、被告も認めている。)を認めながら、第一引用例のものより本件考案の出力損失がはるかに小さい旨主張する。しかし、原告が、その根拠として挙げる第一引用例の発明の詳細な説明の記載及び本件考案の実際製品における数値は、仮にそのとおりであるとしても、ともに一実施例の数値がそうであることを示すにとどまり、第一引用例や本件考案の技術がそれらの数値のものに限定されるものとは考えられないから、それらの例から直ちに原告の右主張を肯定することはできないし、他に、本件考案と第一引用例のものとの各構成上当然に原告主張のような出力損失の差が生ずることを認めるに足りる証拠はない。
以上のとおりであるから、本件考案が、いわゆる共上り防止の目的、効果を達する技術手段において、第一引用例のものにはない特徴を有するとの原告の主張は、採用することができない。
2 同2について
第二引用例に審決認定のような液圧ラムの押圧、戻し機構が記載されていることは、原告の認めるところである。そして、成立に争いのない甲第五号証(第二引用例)によると、第二引用例の押圧、戻し機構は、液圧ジヤツキに関するものではあるが、シリンダ内に往復自在に設けたピストンを用いる液圧作業機械の一種として、本件考案のような液圧作動によるパンチヤーと技術的に関連性があるものと認めることができる。また、一般に液圧押圧装置において、戻し手段にばね手段を用い、かつ、そのばねにつる巻ばねを用いることが周知であつたことは、原告も認めるところである。さらに、成立に争いのない甲第六号証ないし第一三号証によると、パンチヤーにおいて、共上り防止用の押圧筒の押ばねをポンチ保持スピンドルの外周に配置することは、押ばね配置に慣用される技術であつたことが認められる。
以上の諸点を総合してみると、前判示のように本件考案と目的、機能を同じくする第一引用例のものにおいて、戻し上昇手段として、アキユムレータの代りに、第二引用例の戻し機構を応用して中ぐりピストン(ポンチ保持スピンドル)内に引ばねを配し、かつ、押圧筒(分離ユニツト)の押ばねを中ぐりピストンの外周に配することは、当業者にとつてきわめて容易に考えられるものとするのが相当である。
なお原告は、本件考案は、第一引用例のものとの構造上の差異から、共上り防止目的に付随した種々の作用効果を収める旨主張するが、仮に、アキユムレータの代りに中ぐりピストン内に設けた引ばねを用いることによつて、原告主張の効果があるものとしても、そのような効果は、第二引用例のような、戻し手段として中ぐりピストン内に引ばねを配した液圧作業機械において収める効果にすぎないから、第二引用例の戻し機構を応用したことに基づく当然の効果であつて、これをもつて本件考案に特有の顕著なものということはできない。
したがつて、本件考案における引ばねと押ばねの配置構造について、周知及び慣用技術に基づききわめて容易に考案できるとした審決の判断は正当というべきである。
3 同3について
原告は、審決が「押ばねと押圧筒(分離ユニツト)との間について直接と部材介在との差」をもつて設計的事項であるとしたのに対して、右構成上の差から「こねり」発生の有無という格別の差がもたらされる旨主張する。
しかし、前掲甲第三号証によると、第一引用例のものにおいて、分離ユニツト19は、ポンチ保持スピンドル11に固定されたスリーブ18によつて上下に案内されていることが明らかであるから、たとい被穿孔体の表面が斜傾しても、これに応じて分離ユニツトが傾くことはなく、かつ、原告の説明図2からも認められるように、係止ピン21が分離ユニツトの上縁23に直接二個所において当接しているから、その押圧力は均等にかかるものとみるべく、したがつて、原告主張のような、スリーブ18が分離ユニツト19内周面との摺動に支障をきたし、円滑な降下ができないという事態が生ずるものとは考えることができない。
結局、本件においては、押圧筒(分離ユニツト)の押圧作用に関して、本件考案と第一引用例のものとの間に、原告主張のような作用効果の差異があるとは認めることができないから、審決の前掲判断に誤りがあるとはいえない。
4 以上のとおりであつて、原告の取消事由はいずれも理由がないから、審決には原告主張の違法はない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
コ字状アーム1の腕上片前端に縦シリンダー2を連設し、縦シリンダー2の上端を閉塞した蓋体3に油圧管aを連ねる油導入孔4を設け、縦シリンダー2内に縦シリンダー2の内周面上部に密接している上部鍔5が上部外側にある中ぐりピストン6を昇降自在に挿入し、縦シリンダー2内下部に中ぐりピストン6の外周面下部に密接している下部鍔7が上部内側にある被穿孔体押圧筒8を昇降自在に挿入し、中ぐりピストン6の外周面下部に設けた鍔受環9により下部鍔7を支持し、中ぐりピストン6の下端にポンチ10をポンチ10の下端が被穿孔体押圧筒8の下端と同じ高さにあるように中ぐりピストン6の下部に取付けた止金11で着脱自在に固定し、コ字状アーム1の下片前端に縦シリンダー2の直下にあつて被穿孔体bの下面に接する環状受体12を連設し、環状受体12の中心孔13内上半に降下したときのポンチ10の下部が嵌入する管状ダイス14を着脱自在に嵌合し、蓋体3と中ぐりピストン6の中心穴15の下底との間に引ばね16を張架し、縦シリンダー2内において上部鍔5と被穿孔体押圧筒8の上端との間に押ばね17を介在してなるパンチヤー
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
第一図面
<省略>
第二図面
<省略>