大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)148号 判決

一 原告の請求の原因及び主張の一ないし三は、当事者間に争いがない。

そこで本件審決に、これを取消すべき瑕疵が存するかどうかについて考察する。

二 原告は、本件発明の、各区画壁の高さ寸法が、隣接する二個の区画壁を隔てる板部分の幅寸法に対してわずかな割合をなしている構成は、各引用例に示唆されていないと主張する(審決取消事由(一)(1))。

しかしながら、審決が認定し、被告が主張するように、右の点は第二引用例(成立について争いのない甲第五号証)の第九図、第一〇図(特に第一〇図)に記載されているところである。原告は、本件発明でいう「わずかな割合」とは、本件明細書の実施例として説明されたところを斟酌して少くとも一〇分の一以下であると解釈するのが正当であると主張する。原告が実施例と称するのは、明細書(成立について争いのない甲第二号証)第七ページ第一〇行ないし第二一行及び添付図面第三図を指すものと解されるが、右のような記載があるからといつて、特許請求の範囲においてなんらの限定をしていない前記「わずかな割合」を一〇分の一以下のものと限定解釈すべき理由はないし、またそう解釈しなければ、原告主張のような本件発明の作用効果が発生しないとの趣旨は本件明細書のどこにも記載されていない。しかも第二引用例の第一〇図には各区画壁の高さ寸法が、隣接する二個の区画壁を隔てる板部分の幅寸法に対して約一〇分の一の割合をなしているものが図示されている。

原告の主張は、理由がない。

三 原告は、本件発明の、各区画壁頂部の交叉部分における、直接相互接触によつてのみ、互いに支持し合うという構成は、各引用例に示唆されていないと主張する(取消事由(一)(2))。

第一引用例(成立について争いのない甲第四号証)には、平行に折曲した複数個の板状体を、その折曲方向が互に交叉し、且つ流体の流れる主方向に対して斜になるように直接積重ねて構成した蓄熱式熱交換器用の伝熱板組立体が記載されている(第四ページ第六行、第一一行、添付図面第二図、第七図)ことが認められる。このことは、第一引用例のものも、コ字状の突出部(目的及び作用からみて、本件発明の区画壁に相当すると認められる。)の各頂部の交叉部分における直接相互接触によつてのみ、互いに支持し合うという構成をとつているものということができる。

原告は、第二引用例は、板状体を交叉して積重ねることを排斥しているのであつて、中間平坦板を介して、あるいは波頭どうしを整列接触させて組付けるものであるから、これを交叉させ、交叉部における直接相互接触によつてのみ互に支持し合うように構成することは考えられないと主張する。しかしながら、第二引用例によれば、波形を設けた板状体を互に交叉させて配列することにより、通過ガスになるべく長距離通路を与えるとともに、不規則通路を錯雑流通させ、ガスを板状体によく接触させるように構成した蓄熱式熱交換器用の板状体組立体は公知であつたが、そのような構成では、ガスの流通抵抗が大きくなるという不利があるので、第二引用例はこれを避けるために、波状板を溝路が互いに並行に、且つ流体流通の主方向に延長するよう配置したものであることが認められる(第九四ページ第三行ないし第一七行)。これによると、流通抵抗が溝路を並行にした場合よりも大きくなることをしのぶならば、前記のようにガス接触を良好にするためその板状体を交叉させて積重ねてもよいので、これを本件発明の板状体に適用しうることが、第二引用例により逆に示唆されているものということができる。

原告の右の主張も理由がない。

四 次に原告は、本件発明の、隣接板体の頂部が、両端面に垂直をなす主流体流方向から、反対方向に同角度だけ傾斜して配列されている構成は第一引用例との相違点であり、審決はこの点を誤認しており、しかも各引用例に示唆されていないという(取消事由(一)(3))。

しかし、第一引用例には、板状体の折曲方向が互に交叉し、主流体方向に対して斜になるように配列した構成が示されていることは前説明のとおりであるから、審決には原告主張の誤認はなく、右の構成からすれば、第一引用例のものから、板状体の折曲方向を主流体流方向から相互に反対方向に同角度だけ傾斜させて配列するように具体的に構成することは当業者にとつて極めて自然であり、その示唆がないという原告の主張は理由がない。

原告は、第一引用例には、第二図に示されたような格子型の組立体は、第一図の<1>のように置くと記載されているが、第一図の<1>をみると、そのような配列は到底本件発明の構成を満足させるものではないと主張するが、第一引用例第四ページ第一三行には、第一図の<1>のように「置クヲ可トスルコトアリ」と記載されてあり、第二図の構成のものが必らず第一図の<1>のように配列されるとは認められないから、原告のこの主張も理由がない。

五 原告は、本件審決は本件発明の新規な構成による作用効果の顕著さをみすごしていると主張する。

(一) すなわち、原告はまず、本件発明は原告主張の四の(一)の(1)の構成により、主流体流の抵抗が小さいので、それだけ主流体流を流すための動力が少なくてすむと主張する(取消事由(二)(1))。

第二引用例には、波形を設けた板状体を互に交叉させて配列した蓄熱式熱交換器用の伝熱板組立体では、ガスの流通抵抗が大きく、送風機に要する動力が多くなる旨記載されている(前掲三の第二段引用個所参照)ことからも明らかなように、本件発明のように、伝熱板を、その区画壁が互に交叉するように積重ねた構成においては、主流体流が均等に流通する効果があるかわり、それにより受ける抵抗が大きく、流体流を流すためにそれだけ多くの動力を要することは想定できる。

しかし、本件発明が原告が主張するような構成により、その主張の効果を有することは本件明細書のどこにも記載されていない。原告は、区画壁の高さと区画壁を隔てる板部分の幅寸法とがほぼ等しく作られた板と板とを区画壁が交叉するように重ね合せた伝熱板組立体に比して、本件発明における主流体流の抵抗は当然に小となると主張するが、本件発明において、区画壁の高さ寸法と、区画壁を隔てる板部分の幅寸法との「わずかな割合」というのがいかなるものであるかを特定することができないことは前説明のとおりであるから、原告の主張は、例えばその比が一対一であるようなものに比べれば本件発明におけるものの方が主流体流の抵抗は小さいといえるかも知れないが、「わずかな割合」が無限定である以上、他にも存在しうる「わずかな割合」をなしているものに比べてなお、本件発明が原告主張のような効果があるものとは到底いえない。

原告の主張は理由がない。

(二) 原告が審決取消事由の(二)の(2)及び(3)で主張するような作用効果は、原告が本件発明が原告主張のような構成をとることによつて当然出てくるようなものであることは第一引用例(第四ページ第一一、一二行)及び第二引用例(第九五ページ第四、五行)において充分に示唆されているところであつて、これをもつて本件特許発明の特別の作用効果であるとすることはできない。

六 原告は、審決は第一引用例と第二引用例とを組合せて本件発明の容易推考性を認定しているが、二つの文献を組合せて発明の容易推考性を認定するためには、少くともどちらか一方に他と組合せることの示唆がなければならないとの趣旨の主張をする(取消事由(三))。しかしながら、各引用例とも蓄熱式熱交換器用伝熱板組立体に関する文献であるから、その一方の技術を他方の技術と組合せることが引用例そのものに示唆されていなくても、当業者がこれをみればその示唆を得られるということであれば、その引用例を根拠に容易推考を結論づけることになんの差支えもないことはいうまでもない。

原告は、第二引用例の技術は溝を常に主流体流の方向と一致させている構成であり、第一引用例のように主流体流の方向に斜になるように設置することを排斥しているものであるから、格別の理由を示すことなく、単に蓄熱体組立体用の板状体であるという理由で、第二引用例第九、第一〇図の板状体を第一引用例に適用すれば、本件発明が容易に導けるとした審決の理由は説得力にとぼしいともいうが、第二引用例が板状体を主流体流方向に斜になるように構成することを排しているのは、ガスの流通抵抗が大きくなることを避けるためであつて、ガスの流通抵抗が多少大きくなつても、その不利な点を越える有利な点があるとすれば、第二引用例のものを第一引用例のものに転用することは充分可能である。

原告は、また、第一引用例の開示する技術は極めて不明確であり、その添付図面をみても蓄熱材が主流体流の方向に対してどのように組付けられるかといつたようなことは全然判らないのに、このようなものに第二引用例の技術を組合せて本件発明を容易推考とした審決は独善的であるとの趣旨の主張もする。なるほど第一引用例添付の図面のみでは板状体をどのように組合せて回転加熱器を構成するのかは、必らずしも判然とはしないが、第四ページ第八行の「第二図ニ於テ本蓄熱用材ハ交叉シテ置ケルn状又ハ溝型ノ條片或ハ板(a)ニテ造リ」の記載及び同第一一行の「此ノ條片ヲ置ク方法ハ其溝ガ流体ノ流ルゝ方向ニ対シテ斜ニナル如キ置キ」なる文言をもつて、第一引用例において条片がどのように置かれるのかは一目瞭然というべきである。従つて原告の主張も結局理由がないことになる。

七 以上のとおりであるから、特許法第二九条第二項を理由に、本件審判の請求は成り立たないとした審決には、これを取消すべき瑕疵はないから、その取消を求める原告の本件請求を棄却する。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

複数個の成型された板体を積み重ねてその間に熱交換に関与する流体が通過するための開口端部を有する通路を形成してある蓄熱式熱交換器用伝熱板組立体にして、前記通路が組立体の両端面間に延在しており、各前記板体には互いに平行して隔置され且つ前記組立体の前記端面に対して斜方向に当該板体の一縁から対向縁に向つて延在する複数個の区画壁が形成されており、該区画壁は当該板体の両面から対称的に突出しており、各板が当該板の区画壁が当該板体に隣接する板体の区画壁に直交するような態様で互いに重ね合わされているような蓄熱式熱交換器用伝熱板組立体において、各区画壁の高さ寸法は、隣接する二個の区画壁を隔てる板部分の巾寸法に対してわずかな割合をなしており、又該隣接する二個の板体は各区画壁頂部の直交部分における直接相互接触によつてのみ互いに支持し合うように構成されており、更に又前記隣接板体の頂部は前記両端面に垂直をなす主流体流方向から反対方向に同一角度だけ傾斜して配設されていることを特徴とする蓄熱式熱交換器用伝熱板組立体

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

本件明細書添付図面

<省略>

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