東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)150号 判決
事実及び理由
一 まず、審決で述べられている「ランプセードに設けた嵌挿孔を器具本体に設けた鍔縁に係止して載置する天井直付け型照明器具」が周知技術であるかどうか検討する。
成立に争いのない乙第一号証(実公昭四〇―二五八二五号公報)には、名称を「ソケツト支持具」とする考案が開示されており、その考案の要旨は、その実用新案登録請求の範囲に記載されているとおりの「ソケツト支持具を介してソケツトにグローブ又は反射笠を係止する白熱電灯器具において、ほぼ三角形の可撓性合性樹脂よりなるソケツト支持具の各頂点に設けた係止部に折曲げできるような溝を形成したソケツト支持具。」にあるものと認められる。また右公報に記載されている図面の簡単な説明および考案の詳細な説明を参照すると、右考案の要旨における「ソケツト支持具本体」および「グローブ」は、本願考案における「器具本体」および「ランプセード」にそれぞれ対応するものであること、右考案においては、「ソケツト支持具本体」の「係止部」の有する屈曲性を利用して、その下方から「グローブ」の嵌挿孔(嵌挿孔という文言は明記されていないが、グローブ上端の穴の開いている部分を嵌挿孔と呼称できることは自明である)を通過せしめることにより、「係止部」上に「グローブ」が係止され、その結果、「グローブ」は「係止部」上に載置された状態になること、および「ソケツト支持具本体」と「グローブ」の着脱が自在であることが認められる。
そして、天井直付け型照明器具自体が慣用技術であることは原告も明らかに争わないから、このような技術水準を前提にして右公報を検討すると、右考案の名称、実用新案登録請求の範囲において、考案の対象をコード吊り型の照明器具に限定し、天井直付けのものを排除する旨の記載はないことが認められるし、また、前記認定の右考案の技術内容自体は、天井直付け型のものにも適用可能であつて、天井直付け型のものに適用した場合には、本願考案におけるような器具本体を天井からはずさなくても、係止部を折曲げるのみで、ランプセードを交換しうることは自明であるから、右考案は、コード吊り型と天井直付け型の双方を対象として含むということができる。
なお、右公報には、従来技術に関し、「従来の白熱電灯器具において、ソケツトはグローブ又は反射笠に固定されるか又はソケツト支持具により係止されており、組立の場合、コードの先からグローブ、反射笠等の孔にとおしていた。この場合コードの先を外さなければセードの交換等ができない不便さがあつた。」と記載されていることが認められるが、この記載は、右考案の発想が、主として、コード吊り型のものにおけるセードの交換の不便さを解消することを出発点としていたことをうかがわせるにとどまり、右考案の要旨が、天井直付け型のものにも適用しうるものであることを否定する根拠とはなしえない。また、たとえ、原告が主張するように右公報の第4図に示されたものがコード吊り型のものであり、天井直付け型のものは右公報に図示されていないとしても、一般に明細書には、その実施例のひとつひとつがすべて記載されるわけではないから、このことも、右考案の要旨が、天井直付け型のものを含むことを否定する根拠とはなしえない。
してみれば、本願出願前に頒布された右公報には、実質上、ランプセードに設けた嵌挿孔を器具本体に設けた鍔縁に係止して載置するところの、天井直付け型照明器具を含む照明器具が開示されているということができ、右の照明器具についての技術的思想は、その内容、程度および従来の慣用技術にかんがみ、周知といつてもさしつかえない。そうすると、右の審決の判断に誤りはないことになる。
二 また、成立に争いのない甲第二号証(本願公報)によれば、本願考案においては、照明器具を天井から取りはずした状態で、照明器具の上面からランプセードを鍔縁に載せるだけの手間のかからない操作で、ランプセードの係止を可能とし、更に、照明器具がローゼツトにより天井に直付けされると、照明器具が位置的に安定するので、ランプセードは、鍔縁に載置されているというだけの状態で、安定に係止状態が保持されるという作用効果を有することが認められる。しかしながら、この作用効果は、器具本体とローゼツトとの嵌合係止を引掛け構造により行なう天井直付け型照明器具という慣用技術(その存在について原告は明らかに争わない)と、前記認定の周知技術および引用例に示された技術がそれぞれ有する作用効果の総和を超えるものではなく、普通に予測される範囲内のものと認められるから、これを本願考案の進歩性の根拠とすることはできない。
三 以上によれば、本件審決には原告主張の違法はなく、その取消を求める原告の本訴請求は失当であるから棄却する。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
外周胴に鍔縁を設けた器具本体の上面に、天井に固定された引掛けシーリング型のローゼツトと電気的及び機械的に嵌合係止される導電性引掛金具を突設すると共に、鍔縁に、有蓋部に鍔縁係止用の嵌挿孔をもつランプセードを載置して成る天井直付け型照明器具