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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)155号 判決

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 引用例の技術内容が原告主張のとおりのものであることは、その「注湯中に型枠を通じて減圧を行つても、型内空間の圧力は大気圧とほとんど異ならない状態となつている。」との部分を除いて、当事者間に争いがない。

2 本願発明の技術内容が原告主張のとおりのものであることは、その「非粘結性乾燥砂を使用するフルモールド法には……鋳込み中に砂壁が崩潰するという障害が起り易く、これを防止できないことが実用化を妨げる最大の原因になつていた。」との部分を除いて、当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第四号証によれば、「非粘結砂とC2型砂との間に大きな差異はないが、型崩れ等の危険がないという意味においてC2型砂の方が安全である。」(第三〇頁下から四行目~同三行目)との記載があることが認められるので、この記載と弁論の全趣旨によれば、非粘結性乾燥砂を使用する従来のフルモールド鋳造法には、鋳込み中に型砂層の崩潰が起り易いことが認められる。この事実によれば、右崩潰が起り易いという欠点は、非粘結性乾燥砂を使用するフルモールド鋳造法の実用化を妨げる原因になつていたことが推認される。この認定を覆すに足りる証拠はない。

3 原告は、引用例の技術内容は、注湯時に模型に設けられた気孔を経て鋳型外から導入されるガスの流れを形成させるものであるから、注湯中に型枠を通じて減圧を行つても型内空間の圧力は大気圧とほとんど異なるところがなく、その結果、型砂層表面に生じる圧力の勾配は、僅かなものであつて、密閉型を使用し模型樹脂分解のガス圧を利用しかつ型砂層を減圧状態に保つことによつて型砂層表面に生じさせる本願発明の圧力の勾配とは、異なるものである、と主張する。

これに対し、被告は、引用例のものにおいては、不活性ガスを使用するのであるから、気孔は不活性ガス供給源と気密に連結されており、模型樹脂の分解によつて生じるガスは減圧槽を経て排出されるまで鋳型内部に保持されるから、その結果、型砂層表面に生じる圧力の勾配は本願発明のそれと異なるところはない旨主張する。

よつて、検討するに、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例の発明の「発明の詳細な説明」の項には、「第1図ハに示すごとく鋳型3の上面を金属板等の板12で気密に遮蔽し、前記排気管8を通じて減圧槽7の減圧を開始し、純金属又は合金の溶湯を湯口4より湯道5を経て模型2の充填部分に鋳込むと、模型2は溶湯よりの輻射熱によつて順次気化し、その後に空洞部6を生じて注入された溶湯と置換する。鋳込中は減圧槽7が減圧され、したがつて、気体は鋳型外より押湯部又は上り9を経て浸入し、鋳型内の空洞6から、鋳型成型物質3の粒間を通り減圧槽7を経て鋳型外へ排出され、したがつて、鋳込中、鋳型各部に溶湯と鋳型壁と鋳型内空洞の界面を通る一定方向の気体の流れ(矢印)が形成される。気体に空気又はアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いると、それらの気体の流れが、鋳込時の模型2の気化により発生するガス並びに鋳型より発生するガスを乗せて溶湯に入ることなく、全部鋳型外へ排出され、凝固後の鋳物にはガスによる鋳造欠陥は生じない。本法において、一定方向の気流をつくるのに、上記した減圧方式の他に、加圧方式を用いることもできる。第2図は、加圧方式による実施例である。……加圧方式の場合は、空気又はアルゴン、ヘリウム等の加圧気体は管10より、押湯又は上り9の部分を経て鋳型に浸入し、鋳型内の空洞6から通気性の鋳型造型物質3の粒間を通り鋳型枠外へ排出され、したがつて、鋳込中、鋳型各部に溶湯と鋳型壁と鋳型内空洞の界面を通る一定方向の気体の流れ(矢印)が形成され、鋳込時に模型2の気化により発生するガス並びに鋳型より発生するガスは、この流れに乗つて溶湯に入ることなく、全部鋳型外へ排出され、凝固後の鋳物は、ガスによる欠陥は生じない。」(第二頁左欄一行目~右欄六行目)と記載されていることが認められる。

この記載によれば、引用例のものでは、一定方向の気体の流れをつくる方法には、減圧方式と加圧方式とがあり、減圧方式によると、鋳込み中は減圧槽7が減圧され、気体は、鋳型外より押湯部又は上り9を経て浸入し、鋳型内の空洞6から鋳型成型物質3の粒間を通り、減圧槽7を経て鋳型外へ排出されて、一定方向の気体の流れが形成されるものであり、気体として不活性ガスを使用する場合においても、空気を使用する場合と同様に、これらの気体は減圧槽7が減圧される結果、吸引により鋳型外から鋳型内に入るものであつて、加圧により押し込まれるものではないことが明らかである。また、模型2の気化によつて発生するガスは、鋳型より発生するガスと共に、右の気体の流れに乗せられ鋳型外に排出されるものであるから、模型2の気化によつて発生するガスは鋳型内に保持されないものである(換言すると、模型2の気化は、右の気体の流れが損なわれない限度において行なわれ、模型2の気化によつて発生するガスが右の気体の流れに逆らつて気孔13から鋳型外へ噴出することがないように、ゆつくり注湯して、一度に多量のガスを発生しないようにする。)と解せられる。

したがつて、「模型樹脂の分解によつて発生するガスは減圧槽を経て排出されるまで鋳型内部に保持される」との被告主張は必ずしも正確ではないというべきであるが、他方、本願発明は、模型樹脂の分解速度を何等限定していないのであるから、一般には、注湯及び模型樹脂の分解の仕方によつては(例えば、ゆつくりと分解させること)、減圧による気体の排出量の方が分解によつて発生するガス量を上廻り、鋳型内に分解ガスによる圧力が発生しない場合も起りうるところ、本願発明の要旨に即しそのような場合はさておき、少なくとも、圧の勾配を生ずる場合を考えても、その勾配が僅少のことも当然にありうるのであつて、この点を考えれば、原告主張のように、本願発明と引用例の発明とは、型砂層表面に生じさせる圧力の勾配が異なると断定することはできない。

4 そこで、以上の事実を前提として本願発明の進歩性の有無について考える。

引用例の発明が粘結砂を使用するフルモールド鋳造法に関するものであることは当事者間に争いがないところである。そうすれば、引用例の発明においては、非粘結性乾燥砂を使用するフルモールド鋳造法と異なり、鋳込中に型砂層の崩潰を起すことはないものと解せられる。

そして、前掲甲第三号証によれば、引用例の発明は、鋳巣、表面肌荒れ、湯じわ等の鋳造欠陥のない鋳造品を得ることを目的とし(第一頁右欄六行目~八行目)、更に、従来使用されている模型よりももつと密度の高い、したがつて、強度の大きい発泡性合成樹脂模型の使用を可能にし、模型のこわれや変型による鋳造品の寸法誤差の生じない充填鋳造法を提供することを目的として(同欄九行目~一四行目)、模型を鋳型砂に充填して鋳型をつくり、鋳型外から模型を貫通する気孔を設け、鋳込中気孔から空気又は不活性気体を鋳型内に導入し、鋳型砂の間を経て鋳型外へ排出し、鋳型の各部において一定方向の気体の流れを生じさせ、模型及び鋳型より発生するガスを右気体の流れに乗せて鋳型外に排出するもの(「特許請求の範囲」の項)であることが認められるから、この発明は、型砂層の崩潰を防止することには関しないものというべきである。

これに対し、本願発明は、非粘結性乾燥砂を使用するフルモールド鋳造法において、注湯開始直前から注湯を完了するまでの間連続して型砂層を減圧状態に保つことにより溶湯に接する型砂層表面に圧力の勾配を生じさせ、型砂層の崩潰を防止するものであるから(当事者間に争いのない「本願発明の要旨」)、仮に引用例の発明において型砂層の表面に本願発明と同じ程度の圧力の勾配が生じるとしても、型砂層の表面の圧力の勾配と型砂層の崩潰との関連につき何等教示するところのない引用例の記載から本願発明が容易に想到しうるものではない。

したがつて、本願発明をもつて引用例の記載に基づいて当業者が容易に想到しうる程度のものとした審決の判断は誤りとせざるをえないのであつて、原告の主張は理由がある。

以上の次第であるから、審決の取消を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編註その一〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願発明の要旨

非粘結性乾燥砂を使用する鋳造において、注湯開始直前から注湯を完了するまでの間、連続して型砂層を減圧状態に保つことにより、溶湯に接する型砂層表面に圧の勾配を生ぜしめ、型砂層の崩潰を防止することを特徴とする消失性原型を使用する鋳造法。

審決の理由の要点

本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

一方、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である特公昭四三-七五二六号特許公報(以下「引用例」という。甲第三号証)には、

その下方が通気性の板11で仕切られた減圧槽7を有する鋳型枠1内に合成樹脂発泡体製の模型2及び鋳物砂を充填することにより鋳型3を造型し、鋳型3の表面から模型2の下底に達する気孔13を模型2に穿設した後、鋳型3の上面を板12で気密に遮蔽し、減圧槽7に接続する排気管8を通じて減圧槽7の減圧を開始し、湯口4より溶湯を模型2の下部から鋳込むことにより金属を鋳造する方法が、そして、上記減圧が溶湯の鋳込み中継続されること及び上記減圧に伴つて上記気孔13の上部開口から導入された不活性ガスが気孔13、鋳型3及び通気性の板11を経由して減圧槽7に向うこと

がそれぞれ記載されている(別紙第二図面参照)。

右引用例の記載を検討すると、鋳型3と減圧槽7との間の板11は通気性であり、鋳型3の上部は板12で気密に遮蔽されているから、減圧槽7が減圧状態に維持されれば、鋳型3も減圧状態に維持されるものと認められ、また、溶湯は通気性ではないから、この減圧によつて溶湯に接する型砂層表面に圧の勾配が生ずるものと認められる。

そうしてみると、本願発明と引用例の発明とは、<1>前者が非粘結性乾燥砂を使用するものであるのに対し、引用例には非粘結性乾燥砂を使用する記載がない、<2>後者に用いられる模型2すなわち消失性原型が気孔を穿設して有し、かつ、この気孔を通じて不活性ガスを導入するものであるのに対し、前者はその消失性原型が気孔を有するものでもなく、不活性ガスを導入するものではない、<3>前者が型砂層の崩潰を防止するものであるのに対し、引用例にはこのことを直接表現した記載はない、という点で差異があるにすぎない。

しかも、いわゆるフルモールド鋳造法において非粘結性乾燥砂を用いることは新規ではなく、また、引用例の発明において模型2に穿設された気孔13から不活性ガスを導入する所以が模型2の燃焼により生ずる分解生成物を鋳型外に排出することを促進するにあることが引用例の全記載に徴して明らかであり、一方、本願発明において減圧状態を維持する所以の一つが消失性原型の燃焼により生ずる分解生成物を型砂層外に排出することにあることが本願発明の明細書中に記載されており、また、引用例の発明においても、前記認定のとおり、減圧によつて溶湯に接する型砂層表面に圧の勾配が生じている以上、この圧の勾配は型砂層の崩潰防止に少しは寄与するものと解される。

そして、本願発明が、引用例の発明に比較して、格別顕著な効果を奏するものとも認められない。

したがつて、本願発明は、引用例の記載に基づいて当業者が容易に想到しうる程度のものと認められ、特許法第二九条第二項の規定に該当し、特許を受けることができない。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

別紙第二図面

<省略>

<省略>

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