東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)159号 判決
原告の主張する審決取消事由の存否について判断する。
1 構成上の相違点その一について
(一) 請求の原因四の1の(一)の事実(本件考案では、(a)、(b)の要件が一体的に結合して必須の構成要件をなしており、他方、これに対応するものとして先願発明では(A)、(B)の要件が一体的に結合しているものであるとの点)は、当事者間に争いがない。
(二) ところで、原告は、(a)の細長横管と(A)の上部連通管(横長菱形容器)とが構成を異にしている旨主張するので、この点について検討する。
(1) 右両者が合成繊維の熱処理装置において果す機能についてみるに、成立に争いのない甲第二号証、同第三号証によると、(a)の細長横管も(A)の上部連通管も、各竪長容器毎に備えられた連通パイプ(本件考案における上部細短管、先願発明における上部連通パイプ)を介して、各竪長容器の内部(蒸気室)の上方部と連通している関係上、不凝結ガスが竪長容器の上部に停滞することなく直ちに通気室((a)の細長横管、(A)の上部連通管の各内部をいう。以下同じ。)に送り込まれ、蒸気室における熱媒蒸気の循環を促進すると共に、不凝結ガスによる竪長容器上部の温度低下を防止し、糸を加熱する部分(接糸面)の温度を均一にするものである点で同一であることが認められる。
(2) ところで、本件考案における細長横管の構造については、前掲甲第二号証によると、その明細書の「考案の詳細な説明」中には、右細長横管は、水平方向に細長く伸びた密閉容器で内部が通気室になつている旨の記載があるだけであり、「実用新案登録請求の範囲」中には、その形状、長さ、太さ、容積などについて特段の限定がない。もつとも、前掲甲第二号証によると本件考案の願書添付の図面には、実施例として、直円筒形状のものが図示されてはいるが、明細書の前記記載に徴し、このような形状のものに限定されるとは考えられない。
(3) これに対し、先願発明の上部連通管の構造については、前掲甲第三号証によると、その「特許請求の範囲」中には「それぞれ両端の幅が狭く中央部が広い、横形に設けた横長菱形の上部連通管」との記載があるほか、「発明の詳細な説明」中には、この点について詳述されていることが認められる。
(4) 本件考案の細長横管と先願発明の上部連通管との各構成を対比すると、両者は、共に水平方向に細長く連なる連通室としての密閉容器であり、その内部は、各竪長容器の上部とそれぞれ管を介して連通することにより、右各竪長容器を連通させている点で一致するが、前者においては、細長横管というだけで、それ以上の具体的形状について限定がないのに対し、後者においては、中央部において上下方向に断面積が最も広く、左右端に近づくにつれて順次狭くなる形状のものである点で異なる。
(三) 原告は、(b)の「上部細短管」と(B)の「比較的断面積の大きいパイプ」とが構成を異にしている旨主張する。
(1) 前掲甲第二号証、同第三号証によると、両者は、いずれも、各蒸気室と通気室とを連結する管であつて、各蒸気室に生じた蒸気及び不凝結ガスを竪長容器の上部に停滞させることなく、直ちに通気室に送り込み、蒸気の循環を促進し、併わせて、不凝結ガスによる竪長容器上部の温度低下を防止して接糸面の温度を均一にする点で、同一であることが認められる。
(2) 本件考案における上部細短管については、前掲甲第二号証によると、明細書には「上部細短管」とか「細管で連通し」などとされているだけであり、どの程度細くまた短いものか、それ以上の具体的限定はない。
(3) 一方、先願発明における「比較的断面積の大きいパイプ」の構造については、前掲甲第三号証によると、その明細書には、「竪長容器との連通管の断面積を充分大きくしたもの」とか「上部連通管と前記竪長容器の上部とを連通する比較的断面積の大きいパイプ」との記載があるだけで、その断面積がどの程度に大きいか、また、何に比して大きいかなど、それ以上の限定はない。
(4) そこで、(b)の「上部細短管」と(B)の「比較的断面積の大きいパイプ」との各構成を対比するに、両者は、共に、前記(1)の機能を果たすものであるところからみて、少なくとも各竪長容器の上部と通気室との最短距離をそれぞれ連通する流通抵抗の少ないパイプ構造を具備していることを要するが、それ以上の特段の限定はなく、結局、両者は、表現上に差異があるだけであり、構成上実質的な差異はないものといわざるをえない。
(四) 進んで、本件発明における(a)、(b)と先願発明における(A)、(B)とのそれぞれの一体的構成について、検討する。
(1) 原告は、右両者が構成上相違することは、その各作用効果上の相違からも明らかであると主張するが、右主張は、要するに、本件考案は、先願発明における上部連通管のような複雑な構造をとらないで、不凝結ガスを竪長容器の上部に停滞させることなく通気室へ送り込み、また、各竪長容器の排出抵抗を等しくしうるという効果を奏することができ、更に、本件考案では、不凝結ガスは細長横管の上部全体に薄層となつて滞留するので不都合はなく、結局、先願発明よりも簡単な構成により、先願発明の有する作用効果のすべてを奏することができるというにある。
そこで考えるに、前掲甲第二号証によると、本件発明の明細書には、「本考案は各竪長容器5毎に上部細短管8を介して蒸気室7がその外部上方にある長い通気室10に連通されているので、竪長容器5の上部の不凝結ガスはここに停滞することなく直ちに通気室10に送り込まれ、蒸気室7の蒸気の循環を促進し、併せて、不凝結ガスによる温度低下を防止して、糸を加熱する部分の温度を均一にする。」との記載があり、この記載によると、不凝結ガスが竪長容器中に留まることなく通気室の上部に移行するものと解され、したがつて、不凝結ガスが竪長容器に停滞することによつて生ずる接糸部分の温度の低下ないし不均一を防止するという効果が奏せられることは明らかである。しかし、本件考案の明細書を子細に検討しても、各竪長容器の各排出抵抗を等しくするという効果についての記載はなく、本件考案においてこのような効果を奏しうると解すべき合理的理由も明らかではない。更に、本件考案において、不凝結ガスが通気室上部に停滞した場合には熱媒蒸気の通路がそれだけ狭まるものと解されるが、細長横管の太さについて、例えば、そのような場合でも熱媒蒸気の円滑な流通に支障がない程度の太さを有するなどという特段の限定がないところ、それにもかかわらずなお常に不都合が生じないものであるとする合理的理由も見出しがたい。
これに対し、先願発明にあつては、前掲甲第三号証によると、その明細書には、「本発明はこの竪長容器の上部の温度低下を防ぐために改良したもので、複数個の竪長容器の上部を連通している上部連通管を両端が幅が狭く中央部が広い横形に設けた横長菱形容器とし、かつ、竪長容器との連通管の断面積を充分大きくしたもので、両外側の竪長容器の上部に滞溜したガスを横長菱形容器の中央部上部に誘導せしめて、この部分に停滞せしめ、容器上部の温度低下を補修したものである。」、「上部連通管を両端の幅を小さく中央部を大きくしたのは、各竪長容器の排出抵抗を加熱器中央に対し等しくするようにしたことと、その上部及び下部にガス及び液体を滞溜できるようにしたためである。」との各記載があり、これらの記載によると、不凝結ガスが竪長容器に停滞することによつて生ずる接糸部分の温度の低下ないし不均一を防止するという効果のほかに、各竪長容器の各排出抵抗を等しくするとの効果及び不凝結ガスが通気室の中央部に停滞しても熱媒蒸気の円滑な流通が図られるとの効果が奏せられることが認められる。
そうしてみると、本件考案が先願発明におけるような複雑な構造をとらないにもかかわらず、先願発明と同一の作用効果を奏しうるとする原告の主張が採用できないことは明らかである。
(2) 原告は、(a)、(b)の構成に(A)、(B)の構成を置換した場合に、本件考案の目的を達成することができない旨主張する。しかし、これまでに述べた諸点、特に(b)の「上部細短管」と(B)の比較的断面積の大きいパイプ」とは実質的に同一であること及び右(1)の作用効果に関する説述を併せ考えると、(a)、(b)の構成を(A)、(B)の構成で置換した場合には、接糸部分の温度の低下ないし不均一を防止するという効果のほかに、各竪長容器の各排出抵抗を等しくするなどの効果をも併せ奏することとなるだけであつて、本件考案の目的を達成することができないとは解せられず、他にこのように解することを妨げる特段の資料はない。
(五) 以上(一)ないし(四)に述べたところを総合すると、本件考案における(a)、(b)の構成と先願発明における(A)、(B)の構成とを対比した場合に、(a)の「細長横管」と(A)の「上部連通管」との構成が異なる点を除いて両者同一であり先願発明において、上部連通管を特に横長菱形容器とした点は、本件考案と同一の効果である接糸面の温度の低下ないし不均一の防止という効果に加え又はこの効果を更に向上するために、また、不凝結ガスを単に通気室の上部一帯に停滞させずに、これを中央部上部に停滞させ、併せて各竪長容器の各排出抵抗を等しくするという効果及び後述の(C)の構成と相まつて熱媒液をその中央部下部にのみ滞溜できるようにするとの効果を奏させるために、同一太さの通気室の基本的構成に係る技術的思想を前提としつつ、これに右各効果を奏するための構成を付加改良した技術的思想であると解するのが相当である。したがつて、(a)、(b)の構成は、(A)、(B)の構成に包含されているものと解して妨げがなく、このような場合には、(a)、(b)の構成は、これを先願発明に係る(A)、(B)の構成と対比する限りにおいて、実質的に同一であると解するのが相当である。原告の構成上の相違点その一の主張は採用できない。
2 構成上の相違点その二について
(一) 請求の原因四の2の(一)の事実(本件考案では(c)を、先願発明では(C)をそれぞれ構成要件としているとの点)は、当事者間に争いがない。
(二) ところで、(c)の構成における「細管」と(C)の構成における「小管」とは、前掲甲第二号証、第三号証によると、両者は、共に、上部の通気室と下部の連通管(本件考案の太長横筒、先願発明の下部連通管)とを連結し、下部の連通管内の加熱体によつて加熱されて竪長容器へ上昇し、これを経由して通気室に至つた熱媒体を、通気室から下部の連通管にもどすための熱媒体の循環経路の一部をなすパイプであるという点で同一であることが認められる。
(三) そこで、右(c)の構成と(C)のそれとの果たす具体的作用について検討する。
(1) 本件考案の明細書及び図面を検討しても、(c)の構成、特にその「細管」に関する作用効果については、特段の記載がないから、右細管は、結局右(二)に述べた以上のものとは解されない。
(2) これに対し、先願発明の(C)の構成に関しては、前掲甲第三号証によると、その発明の詳細な説明中に「7は、上部連通管と下部連通管とを連通し、上部連通管にて液化した熱媒を下部連通管にもどすためのパイプで、その上端は上部連通管の中央下端より若干容器内に突出して開口するように設け横長菱形容器の中央下部に一定量の熱媒液10を常に残留せしめ凝縮液化した熱媒液中に含有した低沸点物質を分離するごとくする。」、「熱媒蒸気は……上部連通管5に流入し冷却されて液化し、上部連通管5の中央菱形の下部に溜る。液化熱媒が一定量溜ると、パイプ7の上部開口よりオーバーフローして下部連通管の熱媒液中に流下する。」との各記載があり、これらの記載によると、(C)の構成、特にその「小管」(パイプ)は、要するに、竪長容器から通気室に移行した熱媒体から低沸点物質を分離するために、菱形横管中央下部に熱媒液を一定量滞溜させ、この一定量を超えた分だけ下部連通管に流下させる作用を果すものであることが認められる。
(四) 前(一)ないし(三)に述べたところによれば、本件考案における(c)の構成を先願発明における(C)の構成と置換した場合には、前(三)の(1)に記載の点のほかに、更に、同(2)に記載の作用をも併せ奏するにいたることが明らかである。原告は、この点について、細長横管内に小管の上端部が若干突出した場合を想定して置換が不可能である旨主張するが、先願発明における(C)の構成は、上部の連通管が菱形を呈している構成、すなわち、中央部が低くなつている構成に対応しそのようにされているのであるから、具体的場合に即応して技術的常識上当然に考慮されるべき構成や置換に伴い当然に必要な設計的事項について配慮することなく、ただ単に、本件考案における細長横管内に小管の上端部を若干突出させた場合について置換の可否を論ずるのは論外というのほかはない。
(五) 以上(一)ないし(四)に説述したとおりであるから、本件考案における(c)の構成と先願発明における(C)の構成とを対比した場合に、細管ないし小管の上端部が通気室内に若干突出しているか否かの点を除いて両者同一であり、先願発明において小管の上端を通気室内に若干突出させた点は、両者が共通に有する技術的思想を前提としつつ、これに加え、通気室中央部下部に熱媒液を若干量滞溜させるという効果をも奏させるための構成を付加改良した技術的思想であるというのが相当である。そうしてみると、本件考案における(c)の構成は、先願発明における(C)の構成に包含されているものと解するに妨げがなく、このような場合には、(c)の構成は、先願発明に係る(C)の構成と対比する限りにおいて、実質的に同一であると解するのが相当である。原告の構成上の相違点その二の主張も採用できない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕本件における請求原因は左のとおりである。
本件考案の要旨
前面に竪方向の溝6を設け内部に熱媒蒸気を収容する蒸気室7を形成した竪長容器5の上下両部をその後方において細管で連通し、蒸気室7に発生した不凝結ガスを蒸気室7の外に排出するようにした合成繊維の熱処理装置において、上記細管の上部に細長横管1を設けて蒸気室7の上部の不凝結ガスが上部細短管8を介して直ちに細長横管1に入るようにし、また、上記細管下部に電熱シーズヒータ4を内蔵した熱媒溶液3´を入れる収容室3を形成した太長横筒2を設けて該細管下端を該太長横筒2の底部に連通し、該太長横筒2上部と竪長容器5の下部とを連通し、上下両細短管8、9と竪長容器5で構成された一組の蒸気の通過部分が細長横管1と太長横筒2との前面において両者間に多数組渡された合成繊維の熱処理装置。(別紙図面(一)参照)
審決理由の要点
1 本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。
2 これに対し、名称を「合成繊維の熱処理器の改良」とし、本件考案の出願前である昭和四三年六月二五日に特許出願され、昭和四六年一月二七日出願公告、昭和四六年八月二六日登録第六一六四七一号をもつて設定の登録がされた発明(特許出願公告昭和四六―三二九二号特許公報に記載のもの、以下「先願発明」という。)の発明の要旨は、次のとおりである。
「前面に接糸面を設けた竪長の容器を一定間隔に複数個竪形に並べ、その下部を下部連通管にて互に連通し、該下部連通管内にその下部に加熱体を設け、また、前記複数個の竪長容器の上背部はそれぞれ両端の幅が狭く中央部が広い横形に設けた横長菱形の上部連通管に比較的断面積の大きいパイプにて連通した加熱容器内を充分真空とした後、前記加熱体が充分浸る程度の熱媒を封入し、かつまた、前記上部連通管の中央下端よりその上端を該管内に若干突出して小管を連通し、該小管の下端は前記下部連通管の下部に連通したことを特徴とする合成繊維の熱処理器。」(別紙図面(二)参照)
3 そこで、本件考案と先願発明とを対比すると次のとおりである。
(一) 一致点
内部に熱媒蒸気を収容する蒸気室を形成した竪長容器の上下両部をその後方において細管で連通し、蒸気室に発生した不凝結ガスを蒸気室の外に排出するようにした合成繊維の熱処理装置において、上記細管の上部に横管を設けて蒸気室の上部の不凝結ガスが上部短管を介して直ちに横管に入るようにし、また、上記細管下部に電熱シーズヒータを内蔵した熱媒溶液を入れる収容室を形成した太長横筒を設けて該細管下端を該太長横筒の底部に連通し、該太長横筒上部と竪長容器の下部とを連通し、上下両短管と竪長容器で構成された一組の蒸気の通過部分が横管と太長横筒との前面において両者間に多数組渡された合成繊維の熱処理装置である点。
(二) 相違点
(1) 本件考案の竪長容器は、前面に竪方向の溝を備えている。
(2) 本件考案の横管は細長横管であるのに対し、先願発明のそれは両端の幅が狭く中央部が広い、横形に設けた横長菱形の横管である。
(3) 本件考案の上部短管は細いのに対し、先願発明のそれは比較的断面積が大きい。
(4) 先願発明の細管は、横管内に若干突出しているのに対し、本件考案はこのような構成を有していない。
(三) 相違点について考えるに、
(1)の点は、本件考案の出願前すでに周知慣用の手段である。
(2)の点については、本件考案の細長横管という構成において、細いということは、比較の基準を何におくかによつて定まるもので、何に対して細いのか特定できず、明細書の記載に照らしても、特段細くなければならない理由はないし、先願発明の上部連通管も、全体として細長い形状のものとみることができる。そうすると、(2)の点は、先願発明のものが、本件考案にはない「両端の幅が狭く中央部が広い横形に設けた横長菱形」という構成を有する点にある。しかし、先願発明は、本件考案にはない「各竪形容器の排出抵抗を加熱器中央に対し等しくする」との作用効果のほかに、本件考案の明細書に記載された「竪長容器毎に上部細短管を介して蒸気室がその外部上方にある長い通気室に連通されているので、竪長容器の上部の不凝結ガスはここに停滞することなく通気室に送り込まれ蒸気室の蒸気の循環を促進し、併わせて不凝結ガスによる温度低下を防止して糸を加熱する部分の温度を均一にする。」という作用効果をも併わせ奏することは明らかである。それゆえ、先願発明は、本件考案の構成及び作用効果をすべて備えている。
(3)の点は、表現上相違するが、本件考案は、横管や横筒に比較して細いと表現し、一方、先願発明は、後方の細管に対して比較的断面積が大きいと表現しているのみで、実質的な構成上の相違はない。
(4)の点について、先願発明は、本件考案の細管が備えている構成をすべて有しており、かつ、本件考案の細管が奏する作用効果をも奏していることは明らかである。
4 そうしてみると、本件考案は、先願発明と同一であるから、実用新案法第七条第三項の規定に違反して登録されたものとして、同法第三七条第一項第一号の規定によりその登録を無効とすべきものである。
審決の取消事由
本件考案と先願発明とは、以下に述べるとおり、その構成が異なるものであり、このことは、両者の作用効果が顕著に相違することからも明らかである。しかるに、審決は、このような相違点を看過し、本件考案は、先願発明と同一であると認定し、本件考案の登録は無効とすべきものであるとの誤つた判断をしたものであるから、違法として取消されるべきである。
1 構成上の相違点その一
(一) 本件考案は、その実用新案登録請求の範囲の記載から明らかなとおり、次の(a)、(b)の要件が一体的に結合して必須の構成要件をなしている。
(a) 竪長容器5の上部と連通する横管を細長横管1としたこと。
(b) 竪長容器5の上背部と右の細長横管1とを連通する管を上部細短管8としたこと。
これに対し、先願発明では、本件考案の前記要件(a)、(b)に対応する要件は、次の(A)、(B)であり、先願発明はこれら要件が一体的に結合したものである。
(A) 複数個の竪長容器1の上背部と連通している上部連通管5を、両端の幅が狭く中央部が広い、横形に設けた横長菱形容器としたこと。
(B) 竪長容器1の上背部と右の上部連通管5とを、比較的断面積の大きいパイプ6で連通したこと。
(二) このように、<1>(a)の細長横管と(A)の横長菱形の上部連通管とが相違していること、<2>(b)の上部細短管と(B)の比較的断面積の大きいパイプとが相違していること<3>本件考案と先願発明とがこれら(a)、(b)と(A)、(B)とをそれぞれ一体的に構成したものであることを考慮すれば、本件考案と先願発明とは、その構成要件を異にするものであることは明白である。
(三) このように、本件考案と先願発明とが構成要件を異にすることは、(a)、(b)の構成と(A)、(B)の構成との相違に基づいて次のとおり両者の作用効果が異なることからも、明らかである。
(1) 本件考案では、先願発明の上部連通管5に相当するものを(a)の構成のとおり細長横管1とすると共に、これと竪長容器5の上背部とを細く短い管よりなる上部細短管8にて連結して、竪長容器5の上部の不凝結ガスをここに停滞させることなく直ちに細長横管1に送り込ませ、蒸気の循環を促進させているので、各竪長容器5の排出抵抗が加熱器中央に対して等しくなるという利点を有している。
これに対し、先願発明は、その明細書において、「上部連通管を両端の幅を小さく中央部を大きくしたのは、各竪長容器の排出抵抗を加熱器中央に対して等しくするようにしたことと、その上部及び下部にガス及び液体を滞溜できるようにしたためである。」と、上部連通管5の形状がもたらす作用効果について、記載する。
かくして、本件考案は、細長横管1を、先願発明の上部連通管5のように、構造を複雑にすることなく所期の効果を奏することができる。また、本件考案は、細長横管1に液体を滞溜させないが、この点は、何ら不都合を生じない。むしろ、先願発明のように、特に上部連通管5の上部中央及び下部中央にガス及び液体を滞溜させるために、上部連通管の構成を複雑化することは、「容接ビードの長さを短くして気密を保持すると共に製作を簡易にする。」という本件考案の効果を失わせるもので、本件考案が先願発明より優れているのである。
(2) 本件考案は、運転時に発生した不凝結ガスが細長横管1の上部全体にわたり薄層となつて滞溜するので、何の不都合もない。
先願発明は、その明細書において、「横長菱形容器の中央部は、ある程度大きい容積とすることができるので、前操作で排出できなかつたガスをほとんど滞溜せしめることができて、吸着ガスによる竪長加熱容器の上部温度の低下を補修することができる。」と、その作用効果を説明している。
そうすると、このことからもまた、上部連通管5をして複雑な構造を採らしめる先願発明に対し、本件考案は、気密性の保持、製作の簡易化の点で優れている。
(四) (a)、(b)の構成と(A)、(B)の構成とが実質的に異ることは、次のとおり両者の置換を試みた場合に一層明白である。
本件考案の実施例として、細長横管1に代えて、先願発明における横長菱形の上部連通管5を採用したと仮定する。そうすると、竪長容器5は、上部細短管8によつて横長菱形の上部連通管に連通しているので、竪長容器5の上部に熱媒蒸気と共に移行する不純ガスを上部連通管内に流入させることができない。かくて、「不凝結ガスの影響が糸を加熱する部分に及ばぬようにして該部分の温度の均一化を図る」という本件考案の目的を達成することができない。何となれば、複数個の竪長容器の上背部を連通する上部連通管の形が、(A)の構成のとおり両端の幅が狭く中央部が広い横形に設けた横長菱形容器である場合には、これと竪長容器の上背部と連通する管が比較的断面積の大きいパイプであつてこそ、複数個の竪長容器の両外側の容器の上部に滞溜するガスがこのパイプを通過して上部連通管内に流入するからである。したがつて、本件考案における細長横管1を、これに対応する先願発明における上部連通管5をもつて置換することはできない。このことは、本件考案における(a)、(b)の要件と先願発明の(A)、(B)の構成とが実質的に異なることを示している。
2 構成上の相違点その二
(一) 本件考案は、その実用新案登録請求の範囲の記載から明らかなとおり、次の(c)を必須の構成要件としている。
(C) 細長横管1と下部の太長横筒2の底部とを細管で連通すること。
これに対し、先願発明の構成要件のうち、右(c)に対応するものは、次の(C)の構成である。
(C) 上部連通管の中央下端よりその上端を該管内に若干突出して小管7を連通し、該小管の下端は前記下部連通管の下部に連通すること。
(二) このように、(c)の細長横管と太長横筒とを細管により連通することと(C)の上部連通管内に小管上部を若干突出して連通し、該小管の下端は下部連通管に連通させることとは構成を異にするものであることは明白である。
(三) (c)の構成と(C)の構成とが実質的に異ることは、次のとおり両者の置換を試みた場合に一層明白である。
本件考案において、細長横管と太長横筒とを細管により連通する部分に、先願発明の(C)の構成である「管内に若干突出して細管を連通する」構成を採用したと仮定する。そうすると、細長横管1内に熱媒蒸気の流れを邪魔する突起が現われることになり、しかも、この部分を積極的に冷却する場合には、細い細長横管1の底部全面に熱媒液が溜つて細長横管1内の気体有効流通面積が縮まり、ガス及び液の円滑な流れを阻害するため、糸を加熱する部分の温度を均一化するとの本件考案の目的を達することが不可能となつてしまう。したがつて、本件考案における細長横管と細管との間を先願発明の上部連通管とパイプとの関係のような構成のものとすることはできない。このことは、本件考案の(c)の構成と先願発明の(C)の構成とが実質的に異なることを示している。
なお、先後願の発明(考案)が基本的着想を共通にする場合であつても、その着想を具体化した発明(考案)そのものとして構成要件を異にするときは、両者を同一の発明(考案)とすることはできない(東京高裁昭和四二年一月一九日判決、昭和三五年(行ナ)第一〇号参照)。ところで、本件においては、先願発明と本件考案とは、基本的着想を共通にするとしても、その具体的構成が前述のとおり相違しているのであるから、両者は同一の発明(考案)ということはできない。
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>