大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)17号 判決

事実及び理由

一  請求の原因(一)ないし(三)は当事者間に争いがない。

二  そこで、審決を取り消すべき事由があるかどうかについて検討する。

(一)  審決理由中、本願考案の要旨、第一、第二各引用例の記載内容、本願考案と第一引用例の相違点及び格別の差異が認められない点については、当事者間に争いがない。

(二)  問題は、本願考案の係合部の構成が第二引用例に示唆されているといえるかどうかである。

1  まず、本願考案の係合片及び円輪リールは第二引用例の駆動ハブ及びリング部材とそれぞれ相当するといえるかどうかという点から検討する。

原告は、本願考案における係合片は回転軸に直接にではなくて係合軸に取り付けられるものであるのに対し、第二引用例の駆動ハブはハブ軸に直接取り付けられるものである点で相違すると主張するけれども、成立に争いのない甲第一号証(審決謄本)によれば、審決は、本願考案と第一引用例との相違点として、「本願考案が係合片の外面に縦設した複数個の突条に円輪リールの内孔に設けた複数個の突起を係合させるようにしたのに対し、第一引用例のものはヘツド(筒状係合片)の上端に凹凸部を形成しこれにリール軸下端のピンを係合するようにした」点を挙げ、この相違点すなわち回転軸の回転運動を円輪リールに伝える構成のうち係合部自体に関してのみ第二引用例を引用したものであることが認められ、本願考案の係合片と第二引用例の駆動ハブとの間に、それぞれ回転軸ないしハブ軸の回転運動を円輪リールないしリング部材に伝達する作用をする点で対応関係があるかどうかが問題なのであつて、この点について係合片と円輪リールの関係および駆動ハブとリング部材との関係を吟味すれば足り、右係合片ないし駆動ハブの取り付け方に原告主張のような相違点があるかどうかを問題にする必要はない。そして、前記甲第一号証によれば、審決は、第二引用例の駆動ハブはハブ軸の回転運動をリング部材に伝達する作用をなす点で、回転軸の回転運動を円輪リールに伝達する作用をする本願考案の係合片に相当し、第二引用例のリング部材材は右駆動ハブを介してハブ軸の回転運動の伝達を受ける点で、係合片を介して回転軸の回転運動の伝達を受ける円輪リールに相当すると認めたものと解することができ、成立に争いのない甲第二、第四号証をあわせ読むと、右審決の認定は是認できるものである。

また、原告主張のピンと孔との嵌合の点は本願考案構成要件外のことであつて、第二引用例と1冒頭に記載した相当関係を吟味するにあたり、対比する必要がないといわざるをえない。

2  つぎに、前認定のように部品的に相当関係にある本願考案における係合部の構成と第二引用例のそれとを同視しうるかどうかについて検討する。

(1) 審決は本願考案における係合部の構成につき、原告の主張するような「係合片の突条と突条間、円輪リールの突起と突起の間には大きな空隙があり、突条と突起は回転軸の回転により係合する」ものとは解さず、突条と突起の「係合」は単なる凹凸のかみあいによる「嵌合」と異ならないという解釈をとり、これを前提として第二引用例と対比し、本願考案における突条と突起の係合の仕方を第二引用例における駆動ハブの歯列とリング部材の歯列のかみあいと同視したことは、審決の趣旨から明らかである。

(2) そこで、審決のこの判断を正当として是認できるかどうかについて考える。

ⅰ 本願考案の係合部の構成について本願明細書に即して吟味するのに

(イ) まず、前記甲第二号証(本願考案の出願公告公報)によれば、本願明細書中実用新案登録請求の範囲の項には、「録音機主体のシヤーシ1内に回転軸2を設け、これに備えた係合軸3に、ばね6で押上げられる筒状係合片7を上下可動にかつ空転しないように嵌挿してシヤーシから突出させ、この係合片の外面に縦設した複数個の突条101に、マガジン11内に備えた円輪リール13の内孔に設けた複数個の突起14を係合させるようにした磁気録音機のマガジン装着装置。」と記載されているのみで、原告主張のように設けられる突条と突起の数は「ごく少数」であるとか「突条と突起以外の空隙の方がはるかに大きい」とかの限定を意味する記載は見当らない。

(ロ) もつとも、右甲第二号証によれば、考案の詳細な説明の項には、原告主張のように「・・・従来のようなリールの数個の切孔を回転軸の数個の突条に嵌合させるものと異なり・・・」との記載があることが認められるけれども、右の記載は、「………マガジン11の孔12にシヤーシ1から突出する係合片7が嵌入するようにマガジンをシヤーシ1上に置けば、リール13の突条(本判決注。「突起」の誤記であることは当事者間に争いがない)14が係合片の突条101間の空隙に入つて回転により係合し、回転軸2の回転をリールに伝達するが、突起14が突条10に当つても、ばね6を圧縮して係合片を押下げるだけで、両突条(本判決注。「突条と突起」の誤記であることは当事者間に争いがない)を傷めることなく、少し回転軸を回わすと、両突条は直ちに係合する。従つて、従来のようなリールの数個の切孔を回転軸の数個の突条に嵌合させるものと異なり、マガジンの録音機主体への装着が遥かに容易で、この種のマガジンを頻繁に着脱する磁気録音機において誠に有利である。」という文章の一部であることが認められ、この文と前記実用新案登録請求の範囲の記載をあわせ読むと、右の「・・・従来のようなリールの数個の切孔を回転軸の数個の突条に嵌合させるものと異なり」という記載は、本願考案の係合部の構成が「突起と突起、突条と突条の間に大きな空隙がある」という点で従来のリールの数個の切孔を回転軸の数個の突条に嵌合させるものと異なることを意味するものではなく、従来の数個の切孔を回転軸の数個の突条に嵌合させるものでは、数個の突条が直接回転軸に設けられているため、突条が切孔に嵌合せず切孔以外の部分に当つた場合、突条を押下げることができず突条を傷めることが発生し、マガジンの録音機主体への装着も困難になるのに対し、本願考案では、直接回転軸に突条を設けず、回転軸に備えた係合軸にばねで押上げられる筒状係合片を上下可動にかつ空転しないよう嵌挿してシヤーシから突出させるように構成したため、この係合片が嵌入するようにマガジンをシヤーシ上に置いた場合、マガジンのリール内孔に設けた突起が係合片の外面に設けた突条に当つても、ばねを圧縮して係合片を押下げるだけで突起と突条を傷めることがなく、少し回転軸を回わすと、突起と突条は直ちに係合し、マガジンを録音機主体に容易に装着しうる効果を奏することを意味すると解することができる(なお、右のような構成自体が第一引用例との相違点でないことは当事者間に争いがない。)。

なお、前記甲第二号証によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の項には、「従来のようなリールの数個の切孔を回転軸の数個の突条に嵌合させる」とか「内面の縦溝5と嵌合する突条10」とかのように「嵌合」という表現が用いられている個所がある反面、本願考案の突条と突起に関しては「リール13の突条(前記のように「突起」の誤記)14が係合片の突条101間の空隙に入つて回転により係合」するという表現がとられていて「嵌合」と「係合」を使い分けしていることがうかがわれるけれども、本願考案における係合部の構成は突条と突起以外の空隙の方が大きいものであることが明確に示されていない以上、本願考案における突条と突起の「係合」は突条と突起が空隙にはまりこむ「嵌合」と格別な差異があるということはできない。

(ハ) また、前記甲第二号証によれば、本願明細書添付の図面には突条と突起以外の空隙の方が大きいものが示されていることが認められるけれども、これは、前記登録請求の範囲からみて、本願考案の一実施例を示すに過ぎないと解するのが相当である。

そうすると、係合片に縦設されて突条と円輪リールの内孔に設けた突起の数はいずれも「ごく少数」だとか、「これらの突条と突起以外の空隙の方がはるかに大きい」とかの点はいずれも本願考案の構成要件をなしていると解することは無理であり、本願考案の係合部の構成は単に突条と突起との係合にあるとした審決の判断は是認できる。

ⅱ 第二引用例のものは、リング部材の凹所の側面に設けられた歯列と駆動ハブに設けられた歯列の形成する凹凸のかみあいによつて駆動ハブの運動をリング部材に伝達する構成になつていることは当事者間に争いがない。

ⅲ 以上のところからすると、本願考案における突条と突起の係合の仕方を第二引用例における駆動ハブの歯列とリング部材の歯列のかみあいと同視し、本願考案の係合部の構成は第二引用例に示唆されているとした審決の判断に誤りはないことになる。

(三)1  つぎに、原告は、本願考案においては、突条と突条、突起と突起の間に大きな空隙があることを前提として、装着の容易性、係合部の損傷防止の点において顕著な効果があると主張しているけれども、右の前提が成りたたないことは前示したとおりである。そして、本願考案の係合部以外の構成はすべて第一引用例に示されており、また係合部の構成たる突条と突起の係合も第二引用例における駆動ハブに設けられた歯列とリング部材に設けられた歯列の凹凸のかみあいによるものと差異がないことも既に述べたとおりであるから、本願考案がマガジンの装着の容易性、係合部の損傷防止という点で第一、第二引用例から予測しえない効果を奏するとは認めがたい。

2  また、第一引用例および第二引用例の公知となつた時期から本願考案の出願時まで長年経過しているとしても、それだけで本件考案が容易想到でないとはいえないことは、いうまでもない。

(四)  そうすると、本願考案は第一ないし第二引用例からきわめて容易に考案できたとする審決の判断に誤りはなく、審決を取り消すべき事由はない。

三  よつて、本訴請求を棄却する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

録音機主体のシヤーシ内に回転軸を設け、これに備えた係合軸にばねで押上げられる筒状係合片を上下可動にかつ空転しないように嵌挿してシヤーシから突出させ、この係合片の外面に縦設した複数個の突条にマガジン内に備えた円輪リールの内孔に設けた複数個の突起を係合させるようにした磁気録音機のマガジン装着装置

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