東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)189号 判決
一 請求原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
二 本願発明の要旨及び第一引用例、第二引用例の各記載内容が審決認定のとおりであること、本願発明と第一引用例のものとの対比において、両者が、肉成形品を加熱調理するに当り、肉成形品を予熱処理した後、誘電加熱処理する点で一致していること、両者間に審決認定の相違点(1)ないし(3)が存することは、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第一号証(本願発明の特許公報)によれば、本願発明の目的は、「従来、この種の即席ハンバーグの製法は、肉類、油脂、野菜、澱粉質等の原材料の整形物を水蒸気処理、油浴処理、熱水浴処理又はオーブン処理等によつて加熱処理するため、その際の熱の不均一伝導による長時間処理、微量成分の破壊、溶出ロス、呈味物質の期待に反する変化、官能的評価を左右する変色の影響も大きく、更に、製品の保存性が低いため、商品価値を著しく損ねる場合も多い。本発明は、このような諸問題を改善したもので、肉類、油脂、野菜、澱粉質等のハンバーグ原料の整形物を加熱処理して、ハンバーグ製品とするに当り、該加熱処理の前段ではスチーミングして予備凝固せしめ、該加熱処理の後段では衝撃波誘電加熱して表面に脂質被膜を形成することにより、所期の成果をあげたものである。」ことが認められる。
(審決取消事由1について)
成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、次の記載のあることが認められる。
「本発明は、かまぼこ、ソーセージ、ハム等の練肉練燻肉製品およびコンビーフ、スチツク等のような加圧成形食品の調理加工、殺菌等のため、誘電加熱を行う方法の創案に関するものである。」(第一頁左欄八行目ないし一一行目)「また、本発明によるときは、上記の処理を行うに当り、薄層の容体に容入したような場合には、必要に応じて赤外線、熱風等を使用する予熱器を導波管、同軸管等の一部又は試料入口に装置して、そこを通過する試料の外壁を急速に予熱して、肉類等の結着力を強め、試料外壁の機械的強度を強める。しかし、強度大なる容体に容入したような場合には、そのまま本発明の処理を行つてもよい。」(第一頁左欄一九行目ないし二六行目)「このように急速な内部温度の上昇のため、練肉製品のような軟かい食品試料は、ややもすると爆発して試料が飛散せしめられ、加工に支障を来すこととなるものであるが、本発明の上記したような方法によるときは、誘電加熱を開始する前に、赤外線予熱器、熱風予熱器、熱湯予熱器等を用いて、二分間ないし三分間予熱処理することにより、先ず試料の外壁を加熱して、その機械的強度を高め、しかる後、誘電加熱を行うことにより、誘電加熱の際の上述の事故を防止することができるものである。」(第一頁左欄三四行目ないし右欄五行目)
右記載によれば、第一引用例の方法においては、食品試料を薄層の容体に容入する場合と強度大なる容体に容入する場合とがあり、食品試料を薄層の容体に容入する場合には、これをそのまま誘電加熱すると急速な内部温度の上昇のため爆発して試料が飛散し、加工に支障を来すことがあるので、必要に応じて、誘電加熱を開始する前に赤外線予熱器、熱風予熱器、熱湯予熱器等を用いて二分間ないし三分間予熱処理することにより、試料の外壁を加熱してその機械的強度を高め、爆発事故を防止し、食品試料を強度大なる容体に容入する場合には、前記の爆発事故が発生するおそれがないから、そのまま誘電加熱を行つてもよいものであることが明らかである。
そうであれば、第一引用例の方法は、強度大なる容体に容入されているものを含めて、包装食品に関するものであるというべきである。
被告は、第一引用例の方法の対象食品の例として挙げられている「かまぼこ」が通常包装食品ではないことからみて、第一引用例の方法の対象を包装食品のみに限定して解することはできない旨主張するが、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例の特許出願(昭和三四年三月一八日)前から、貯蔵性を増加させ、一地方に限定されていた土地の名産品を大消費地に送るため、かまぼこの摺身をケーシングに詰めて製造し、これを板につけた、いわゆる包装かまぼこも多数市場に出まわるようになつていたことが認められ、第一引用例の方法における予熱処理の目的を併せ考えれば、第一引用例の方法の対象食品の一つに挙げられている「かまぼこ」は、いわゆる包装かまぼこを指すものと解するのが相当であり、被告の前記主張は採用することができない。
一方、前掲甲第一号証の記載内容及び弁論の全趣旨によれば、本願発明のハンバーグ原料は、包装されていない状態で加熱処理されるものと解されるので、本願発明の方法は非包装食品に関するものというべきである。
したがつて、本願発明は非包装食品に関するものであるのに対し、第一引用例は包装食品に関するものであるところ、審決は、この相違点を看過したものというべきである。
(審決取消事由2について)
本願発明の予熱処理は、スチームにより行われるのに対し、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の方法の予熱処理は、赤外線、熱風、熱湯等により行われるものであることが認められ、スチームによる予熱処理は例示されていない。
ところで、前認定のとおり、本願発明はハンバーグ原料を包装していない状態で加熱処理するものであるのに対し、第一引用例の方法は食品を包装している状態で加熱処理するものであつて、両者はこの点で相違している。
第一引用例の方法は、食品を包装している状態で加熱処理するものであるから、食品は包装材料を介して加熱されることになり、予熱処理の熱源の種類が赤外線、熱風、熱湯等と異つていても、食品が熱源の種類の相違による影響を受けることはない。したがつて、第一引用例の方法における予熱処理の熱源として、例示されている赤外線、熱風、熱湯のほかに、通常の熱源としてよく知られているスチームを使用することは、容易に考えうることであるということができる。審決が、第一引用例の予熱処理の手段として通常のスチーム加熱も使用されるものと解することは不都合とはいえないとした点は、それ自体は誤りとはいえない。
しかしながら、本願発明は、ハンバーグ原料を包装していない状態で予熱処理するものであつて、前掲甲第一号証によれば、予熱処理はスチームのみによつて行われ、これにより、熱線や天火等のドライヒーテイング方式の予熱処理による場合に生ずるハンバーグの表面が乾燥する欠点を除くことができるばかりでなく、ハンバーグの表面が多孔質構造となり、次の誘電加熱の際に、この多孔質構造を透して、ハンバーグ内部の油脂が表面層へ滲出することを助長し、特にハンバーグの表面に脂質被膜を形成するという作用効果を奏するものであることが認められる。
これに対し、第一引用例の方法は、予熱処理の熱源にスチームを使用したとしても、食品を包装している状態でスチームにより予熱処理することになるのであつて、包装されていないハンバーグ原料をスチームで予熱処理する本願発明とは製造法についての構成を異にするものといわなければならない。しかも、前述のとおり、本願発明は、右の構成により第一引用例の方法では得られない作用効果を奏するものである。
そうであれば、包装されていないハンバーグ原料をスチームで予熱処理するという本願発明の構成は、第一引用例の方法からは予測されるものではなく、結局、審決は、前項における相違点を看過したことと相まつて、相違点(2)についての判断を誤つたものというべきである。
(審決取消事由3について)
成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、ウエルシユ菌に汚染された肉食品による食中毒を防止するもつとも手近な方法は、食品を加熱調理後、できるだけすみやかに喫食することであり、食品を長時間保存する場合は、前もつて行う調理あるいは加工は第一次加工程度にとどめ、加熱は給食直前に行う方がよく、やむをえず最終行程まで調理するときは、その後の保存方法に充分注意しなければならず、保存の原則は加熱食品を急冷することである旨記載されていること、ウエルシユ菌の芽胞は、耐熱性であり(一〇〇度Cの温度に四時間耐えるものもある。)、しかも、嫌気性であるから、包装されている食品であつても、加熱処理だけでは完全殺菌ができず、菌が増殖して食中毒を起すおそれがあることが認められる。
本願発明のハンバーグは、肉食品であつて、しかも、加熱後直ちに喫食するものではなく、加熱後保存するものであるから、右認定の事実によれば、加熱後急冷する必要があることは明らかというべきであり、本願発明の加熱後急冷する工程は、第二引用例の記載から当事者が容易に想到できることである。相違点(3)についての審決の判断に誤りがない。
三 右のとおりであつて、審決は、本願発明と第一引用例との対比において相違点を看過し、結局、相違点(2)についての判断を誤つたものであるところ、これは、たとえ相違点(3)についての判断に誤りがないとしても、審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
所定形状に整形されたハンバーグ原料を加熱処理してハンバーグを製造するに当り、上記の加熱処理の前段ではスチーミング処理によつてハンバーグ原料の予備凝固をはかり、その後段では衝撃波誘電加熱した後、急速冷却することを特徴とするハンバーグの製造法。