東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)198号 判決
一 原告の請求の原因及び主張の一ないし三は、当事者間に争いがない。
そこで、本件審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。
二 原告は、本件特定発明における触媒と引用例の触媒とはその製法が異なるから構成が異なり、結局別異の物であると主張し、引用例の触媒は酸化亜鉛、酸化銅及び酸化アルミニウムが同時に沈澱する共沈法によつて製造されるものであるのに対し、本件特定発明に係る触媒は酸化亜鉛及び酸化アルミニウムと酸化銅が異時に沈澱したものであつて、その製法は共沈法によるといつても、引用例におけるような同時の共沈によるものではなく、三種の金属は最終的にはすべて沈澱するから、共沈とは言い得ても、その方法は「いわゆる」共沈法であると主張する。
しかしながら、成立について争いのない甲第二号証(本件特許公報)によれば、本件特定発明の特許請求の範囲の記載は、「純金属としての銅に対する亜鉛の重量比が約銅一に対して亜鉛三の割合の酸化亜鉛と酸化銅を含む混合物に、重量比として一~五五%のアルミナを加えた一七七℃~三四三℃の温度での水性ガス転化用触媒。」というのであつて、そこには酸化亜鉛と酸化銅とアルミナ(酸化アルミニウム)が原告の主張するような意味の共沈法によつて共沈澱させられたことを限定するような記載はなんらない。しかも、本件特定発明における触媒が原告のいわゆる共沈澱によつて得られるものであることは、明細書の記載からはうかがい知ることができない。原告の主張は理由がない。
原告は、また、本件特定発明においては、アルミン酸ソーダを炭酸ナトリウムに加えた混合溶液に硝酸亜鉛―硝酸銅混合溶液を加える原告のいうアルカリ側不均一共沈法が唯一の方法であるのに対し、引用例では硝酸亜鉛―硝酸銅に硝酸アルミの形でのアルミナを加えることが絶対条件であるから、両者は触媒の製法を異にすると主張するが、本件発明の特許請求の範囲には、アルミン酸ソーダを炭酸ナトリウムに加えた混合溶液に硝酸亜鉛―硝酸銅混合溶液を加えて触媒を製造する旨の記載はないから、原告のこの主張もまた理由がない。
三 原告は、本件特定発明に係る触媒と引用例の触媒はその製造法が異なるから、両者の成分を比較することはできないのに、審決は両者においてその成分比に差異がないとしたもので誤つていると主張する。
しかしながら、本件特定発明に係る触媒が引用例のそれとは異なつた製造法によるものであると主張することができないこと前説明のとおりであり、両者の触媒の成分割合についての審決の認定には誤りがないと認められるから、原告の主張は理由がない。
原告は、また、引用例記載の触媒は三〇〇℃以下の温度においての水性ガス転化用のものであるのに、本件特定発明のそれは、引用例のものとは一部重複するところがあつても、なお、三〇〇℃を超え三四三℃に至る間においても高活性を示すものであつて、両者の相違は歴然たるものがあると主張するが、そのような効果は、本件特定発明を引用例とその構成において異ならしめるほどの特段のものであるとは認められないから、原告のこの主張もまた理由がない。
四 原告は、審決は特許庁の定めた産業別審査基準に反するものであつて違法であると主張する。
しかしながら、原告の主張する産業別審査基準(成立について争いのない甲第一六号証)中原告の引用する産〔3〕―14―5頁の末尾五行の説明は、被告が主張するように、同頁第九行以下の〔説明〕の項の冒頭から続くものであり、触媒の製法などの成分の由来が規定されている場合について述べていることが明らかであり、本件特定発明は製法についての成分の由来を特に規定していないから、審決がそれについて判断していなくても、審査基準に反するものとはいえない。
また、審決は右審査基準産〔3〕―14―6頁の記載にも反するとの主張は、引用例も本件特定発明も共にナトリウムの使用の有無を構成要件とはしていないから、理由がない。
五 以上のとおりであつて、本件特定発明は引用例と実質的に同一であるとした審決の判断に誤りはないから、これを違法としてその取消を求める原告の請求を棄却する。
〔編註〕 本件における特許発明の要旨は左のとおりである。
1 純金属としての銅に対する亜鉛の重量比が約銅一に対して亜鉛三の割合の酸化亜鉛と酸化銅を含む混合物に、重量比として一~五五%のアルミナを加えた一七七℃~三四三℃の温度での水性ガス転化用触媒。
2 銅及び亜鉛をその炭酸塩の形でそれらの可溶性塩類の水溶液より共沈させ、この複分解反応は、銅―亜鉛溶液を炭酸ナトリウムの水溶液に添加することにより行ない、該沈澱物を洗浄してナトリウム塩類を除去し、該沈澱物をさらに乾燥か(煆)焼して酸化物を形成せしめ、水を加えて該酸化物を再スラリー化し、重量比で一から五五%のアルミナを再スラリーに添加し、該スラリーをさらに乾燥か焼せしめることを特徴とする一七七℃~三四三℃の温度での水性ガス転化用触媒の製法。