大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)205号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二原告が審決の取消事由として主張するところは、要するに、(一) 審決の判断は、先願商標の審査において示された審査官の解釈ないし判断と異なる、(二) 本願商標と引用各商標とは、商取引上混同誤認のおそれがなく、類似商標ではない、との二点にあり、もつて、審決を違法とするものと考えられるので、これについて判断する。

(一)について

登録出願された商標が登録要件を具備するかどうかの判断にあつては、過去における同種の商標登録出願について示された審査官の判断等に拘束される法律上の根拠はない。したがつて、その商標の出願人が、出願前に、これと同一または類似する商標について登録出願をし、登録査定を受けた事実があろうと、また、その審査においてどのような判断が示されていようと、それらは、当該商標出願の審査には、法律上関係のない事柄であるといわねばならない。

そうすると、原告主張の先願商標があり、その審査において示された審査官の判断と本願商標に関する審決の判断とが異なつていても、そのことによつて、審決が当然に違法とされる理由はないから、原告主張の(一)の点は、それ自体失当であるというべきである。

(二)について

当事者間に争いのない本願商標の構成によれば、本願商標は、別紙イ<省略>から明らかなように、二つの部分、すなわち、左半分を黒くした人面らしい図形及びその下方に横書きした「NIPPON」の文字を矩形状の輪郭で囲んだ上段部分と、黒地内に筆記体の「Mercury」の文字を白抜きに表わした下段部分とからなつている。ところで、特段の立証のない本件においては、上段部分の右図面自体から直ちに特定の称呼、観念が連想されるものとはいいがたいし、「NIPPON」の文字から生ずる称呼も、わが国名としてごくありふれたものである。これに対し、下段部分は、面積こそ上段部分の四分の一程度ではあるが、その全面にわたつて、上段部分の文字より大き目に大文字で始まる「Mercury」の文字が表わされ、しかも、黒地に白抜きという目立つた態様であるから、十分看者の注意を惹くに足りるものということができる。そして、近時におけるわが国の英語知識の一般的水準に照らして、「Mercury」の文字が「マーキユリー」と読まれ、しかも、これが造語でないのはもちろん、ローマ神話の神などを表わす語であることを、一般取引者にも容易に理解されうるものと解するのが相当である。

そうだとすると、簡易迅速を旨とする商取引においては、本願商標が、その下段部分の文字「Mercury」に相応して、単に「マーキユリー」の称呼のみでも自他商品識別の機能を果たすであろうことは、十分肯認しうるところであつて、本願商標の称呼について、これと異なる特段の事情があることを認めるに足りる証拠がない以上、本願商標から「マーキユリー」の称呼を生ずるとすべきである。

他方、引用A商標ないしC商標について、登録年月日、構成及び指定商品がそれぞれ審決認定のとおりであることは、原告の明らかに争わないところであり、各構成上いずれも「マーキユリー」の称呼を生ずることはいうまでもない。

原告は、本願商標と引用各商標とは商取引上混同誤認のおそれがない旨主張する。しかし、商取引においては、商品の識別がこれに使用される商標の称呼によつて行なわれることが通例であるから、特に、反対の事情のない限り、称呼を共通にする本願商標と引用各商標とが同一商品について使用される場合、商品の出所について混同誤認を生ずるおそれがあるというべく、本件においては、右の反対の事情について何ら主張、立証がないから、原告の主張は採用できない。

したがつて、本願商標と引用各商標を類似商標とした審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。<以下、省略>

(荒木秀一 橋本攻 永井紀昭)

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